子どもにヒトラーと同じ名前はアリ?ナシ?『お名前はアドルフ?』の90分にわたる舌戦から目が離せない|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
子どもにヒトラーと同じ名前はアリ?ナシ?『お名前はアドルフ?』の90分にわたる舌戦から目が離せない

コラム

子どもにヒトラーと同じ名前はアリ?ナシ?『お名前はアドルフ?』の90分にわたる舌戦から目が離せない

『帰ってきたヒトラー』(15)など悪名高き独裁者“アドルフ・ヒトラー”を題材にした作品は何度も作られ、様々なメッセージを私たちに訴えかけている。そんな流れを汲む一本と言えるのが、世界40か国以上で大ヒットした舞台を映画化した『お名前はアドルフ?』(6月6日公開)だ。

『お名前はアドルフ?』は公開中
『お名前はアドルフ?』は公開中[c] 2018 Constantin Film Produktion GmbH

哲学者で文学教授のシュテファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)と国語教師のエリザベト(カロリーネ・ペータース)夫婦が、エリザベトの弟トーマス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)と出産間近の恋人のアンナ(ヤニーナ・ウーゼ)、幼なじみで音楽家のレネ(ユストゥス・フォン・ドーナニー)を招待した家族だけのディナー。トーマスが「生まれてくる息子に“アドルフ”という名前を付ける」と言ったことから、和気あいあいとした雰囲気のディナーが一変する。90分にわたって繰り広げられる会話劇の見どころを紹介しよう。

論争は互いの暴露大会へと発展する
論争は互いの暴露大会へと発展する[c] 2018 Constantin Film Produktion GmbH

「アドルフは絶対にダメ!」根底にある思いとは?

生まれてくる子どもにどんな名前をつけるのか、それは国を問わず重要な問題だということを本作では描いている。子どもが生まれるトーマスが「どんな名前か当ててみて」と持ちかけたことから、父親と同じ名前や、流行りの名前、男らしい名前など、様々な名前が取り上げられ、ドイツで人気の名前事情がよくわかる。
しかし最終的に名付けようとしている名前が、誰もがナチスの独裁者アドルフ・ヒトラーを連想する「アドルフ」と知ったとたんに、シュテファンら3人は「子どもがいじめられる」と猛烈に反対。「それならどんな名前がいいのか」と反撃に出るトーマスは、提案される名前を「どこかの国の独裁者の名前だ」「連続殺人犯の名前だ」と、ことごとく却下する。なぜ彼らの名前はOKで“アドルフ”はダメなのか。そこにヨーロッパの人々、とりわけドイツ人の心の中に刻まれている、深く暗い歴史を垣間見ることができるのだ。

【写真を見る】子どもに“アドルフ”という名前を付けてもいいのか?ヒトラーが残した負の遺産について考えさせられる
【写真を見る】子どもに“アドルフ”という名前を付けてもいいのか?ヒトラーが残した負の遺産について考えさせられる[c] 2018 Constantin Film Produktion GmbH

ぐいぐい引き込まれる90分間の会話劇

本作品の見どころは、90分にわたって、役者たちの達者な舌戦が繰り広げられるところ。話す内容は政治、音楽、文学など多岐にわたり、知的好奇心がくすぐられる。そしてインテリを振りかざす嫌味なシュテファンや、自分勝手で奔放な性格のトーマスの曲者ぶりがとにかく強烈なのだ。2人を中心に繰り広げられる舌戦はヒートアップし、しだいに名前論争から個人の暴露合戦へと発展。過去の出来事から意外な事実が次々と発覚し、5人は翻弄されていく。
「そこまで言うか!」と耳をふさぎたくなるようなシュテファンとトーマスのやり取りを持て余してきた頃に、エリザベトが大爆発する。夫であるシュテファンに対して我慢してきたことに始まり、トーマスやアンナ、親友であるレネに対しても不満などを一気にまくしたてるのだが、その迫力に圧倒されるだけでなく、見事な弁舌に感動を覚える。特に女性は「よく言った!」と拍手喝采なのではないだろうか。

夫や弟、友人たちへの不満が爆発寸前のエリザベト
夫や弟、友人たちへの不満が爆発寸前のエリザベト[c] 2018 Constantin Film Produktion GmbH

自分自身がこの会話劇の真っただ中にいる当事者であれば、かなり神経をすり減らしてしまうだろうが、第三者の立場で見ていると自然に笑いがこみ上げてしまう。つくづく人間というのは、他人の言い争いを興味津々で見てしまう生き物なのかもしれない。

“アドルフ”という名前に猛反発する3人
“アドルフ”という名前に猛反発する3人[c] 2018 Constantin Film Produktion GmbH

そしてこの会話劇には、あっと驚く結末が待っている。意外な展開にあたふたする登場人物たちを見ていると、ニヤッとしてしまう人も多いことだろう。知的でおしゃれでエキサイティングな90分の会話劇に、ぜひグイグイと引き込まれてほしい。

文/咲田真菜

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