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ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコ.…映画『プラド美術館』で絵画の歴史を巡る旅へ

コラム

ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコ.…映画『プラド美術館』で絵画の歴史を巡る旅へ

スペインはマドリードにあるプラド美術館は、2019年11月19日に開館200周年を迎えた。これを記念して、歴代のスペイン王室が買い集めた約8700点ものコレクションを所蔵する美術館に初めてカメラが密着。ドキュメンタリー『プラド美術館 驚異のコレクション』(公開中)が製作された。

歴代のスペイン王室が買い集めた約8700点もの美術品を所蔵するプラド美術館
歴代のスペイン王室が買い集めた約8700点もの美術品を所蔵するプラド美術館[c] 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital

ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコ、ティツィアーノ、ルーベンスなどの展示品についてナビゲートするのは、『運命の逆転』(90)で米アカデミー賞主演男優賞に輝き、アイルランドにある城を修復して暮らすなど、アートへの造詣が深い名優ジェレミー・アイアンズ。加えて、美しい音楽と舞踏家オルガ・ぺリセットによるパフォーマンスとともに、プラド美術館館長のミゲル・ファロミールらによる解説も織り交ぜながら、絵画の歴史がひも解かれていく。

名優ジェレミー・アイアンズがナビゲーターを務める『プラド美術館 驚異のコレクション』
名優ジェレミー・アイアンズがナビゲーターを務める『プラド美術館 驚異のコレクション』[c] 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital

本作の中心となるのが、プラド美術館の三大巨匠と言われているディエゴ・ベラスケス、フランシスコ・デ・ゴヤ、エル・グレコだ。ベラスケスはスペイン文化の黄金期に活躍したバロック美術を代表する巨匠。明暗の処理、光線の表現、遠近法に熟知し、近代外光絵画の先駆者と言われている。彼の傑作と名高い「ラス・メニーナス」は謎かけのような複雑な構成が特徴で、鑑賞者と絵画の登場人物との間に不思議な関係を創造する。劇中の解説では、犬をいじめている少女が、実は“小人”というおもしろい解釈もされている。

ゴヤの作品で目を引くのが、宮廷画家を引退した彼が移り住んだ別荘(通称「聾者の家」)の壁に描いた、14点からなる「黒い絵」シリーズ。有名な「我が子を食らうサトゥルヌス」に代表される、狂気に対する恐怖や人類への暗雲立ち込める未来像など憂鬱な内面が表現されている。一方で、劇中で素晴らしいパフォーマンスを披露するぺリセットは「フラメンコに共通するものがある」とも語っている。彼の作品では、病気で聴力を失うなかで制作され、交際関係にあった公爵未亡人がモデルとされる「裸のマハ」なども登場し、資料が乏しいゴヤの人物像を知るうえでの重要な作品たちを確認することができる。

【写真を見る】フランシスコ・デ・ゴヤの代表作「裸のマハ」など、著名な画家や絵画が次々と登場
【写真を見る】フランシスコ・デ・ゴヤの代表作「裸のマハ」など、著名な画家や絵画が次々と登場[c] 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital

大胆で鮮やかな色彩、強烈な光と陰の対比、引き伸ばされた独創的な人体表現といったダイナミックな構図が神秘的な高揚感をもたらすグレコ。彼の作品では、修道院宮殿のために作られた大作「聖マウリティウスの殉教」が印象的だ。キリスト教徒の軍団が異教の儀式を拒否したことで虐殺されたシーンを描いた壮大な作品だが、奇抜な構図と非現実的な色彩が当時の人々に理解されなかったそう。スペイン国王の信頼も得られなかったグレコは、宮廷画家としてのチャンスも失ってしまう。

3人のほかにも、ペストが流行した時代に90歳まで生き、“プラドの父”と呼ばれるティツィアーノ・ヴェチェッリオや、劇中で代表作「三美神」を見た女優のマリナ・サウラが「とてもふくよかな女性が描かれていたので驚いた」と評していたピーテル・パウル・ルーベンスといった、聞きなじみのある著名な画家や絵画たちが次々と紹介される。落ち着いた語り口で話すアイアンズによる時代背景の説明もあり、美術品をより深く理解することができる。

プラド美術館を裏方として支える人たちも登場
プラド美術館を裏方として支える人たちも登場[c] 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital

プラド美術館を裏方として支える人たちの声も収められるなど、美術ファンの好奇心をそそるに違いない本作。歴史ある美術館と所蔵品たちをスクリーンで堪能できるのは、このうえない贅沢だ。

文/咲田真菜

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