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力強く生きる女性たちを描いた作品からヨーロッパ映画のいまを読み解く

コラム 2020/9/26 17:00

力強く生きる女性たちを描いた作品からヨーロッパ映画のいまを読み解く

新しい才能を発掘することを目的に、9月26日(土)より完全オンライン配信にて開催されるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020。その目玉となる、長編作品を対象とした国際コンペティションは、様々な国からの応募作品が競う部門だ。本部門は、カンヌ国際映画祭で、最高賞を含む3作連続の受賞を果たすことになる、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督に『うつろいの季節(とき)』(07)でいち早く賞を贈ったことでも知られている。

2020年も、応募された中から個性あふれるコンペティション作品が選出された。ここでは、さらにそのなかから、ヨーロッパの女性が主人公となる3作をピックアップ。見どころを伝えながら、これらの作品から得られるものを考察していきたい。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催

ダメで滑稽な者たちの葛藤を描いたスウェーデンのダークコメディ

まずは、スウェーデンのダークコメディ映画『カムバック』。スウェーデンの奇祭ホラー映画『ミッドサマー』(19)にも出演していたアンキ・ラーションが演じるのは、かつて有望なバドミントン選手だったアン=ブリットだ。

スウェーデンのダークコメディ映画『カムバック』
スウェーデンのダークコメディ映画『カムバック』[c]Gustav Danielsson

彼女はスウェーデン選手権決勝で敗れた際、ミスジャッジがあったと怒り、審判に暴力を振るう事件を過去に起こしていた。そのことがきっかけでキャリアが低迷し、選手生命が断たれたと考えるアンは、35年経って孫が生まれるほどまでに年を重ねても、その試合でのジャッジを許せないままでいた。彼女はリベンジマッチを戦うべく、ダメ息子のマティアス(オッレ・サッリ)の協力を得て、映画『ロッキー』(76)のようなトレーニングで勝利を目指し、失った人生への“カムバック”を果たそうとする。

ダメ息子とハードなトレーニングを行いで勝利を目指す!
ダメ息子とハードなトレーニングを行いで勝利を目指す![c]Gustav Danielsson

現役時代からまったく変わり果ててしまった肉体で、ダメ息子の考えるトレーニングを行っていくアンの姿は滑稽に映るが、それが滑稽であればあるほど、切実なものに見えてくるのが本作の特徴。人生のなかでの敗北や、過去の苦い出来事、それらが現在の自分の自信や充実感に影を落としているという状況は、多かれ少なかれ観客に覚えのあるところではないだろうか。その負の感情は、本人のみならず周囲の人間に悪影響を与える場合もある。本作は、このような苦境や悪循環からの精神的な克服を描いていくのだ。

しかし、過去の実績もなく、努力の甲斐もなくなってしまった人間はどうすれば良いのか。本作は、妻に逃げられたダメ息子の物語をも描くことで、さらに進退極まった状況についても扱う。エリートとはほど遠い、ダメで滑稽な者たちの葛藤…。美しく強い者たちの姿が描かれる映画が多いなか、このような映画が存在してもいい。

監督の体験を基に圧倒的な切迫感とリアリティで描かれた人間ドラマ

次に紹介する『願い』も、ノルウェーとスウェーデンによる北欧の作品。ダンスの振付師として活動しながら、婚姻関係にはない内縁のパートナーと、その連れ子、自分の子どもを含む8人の大所帯で生活を営んでいるアンニャ(アンドレア・ブライン・フーヴィグ)が本作の主人公だ。

脳腫瘍が見つかり、余命宣告を受けてしまう女性を描いた『願い』
脳腫瘍が見つかり、余命宣告を受けてしまう女性を描いた『願い』[c]Motlys

治療により肺ガンを克服したばかりだった彼女は、新たに脳腫瘍が発見されたことで、驚くほど短い余命宣告を受けてしまう。絶望のなか、これまでの人生を振り返るアンニャは、パートナーであるトーマスとの関係についても深く考えるようになっていく。果たして自分の選択は正しかったのか、曖昧なままにしてきた自分の判断は間違っていなかったのかを、日常のあらゆる瞬間に考えるようになってしまう。

『願い』を手掛けたマリア・セーダル監督
『願い』を手掛けたマリア・セーダル監督[c]Motlys

本作を撮った、ノルウェーで活躍するマリア・セーダルは、実際に末期ガンと診断され、一度は映画の仕事自体を諦めようとしていた監督だ。しかし、映画製作への情熱に突き動かされて、治療を続けながら本作を手掛けたのだという。本作に宿る圧倒的な切迫感やリアリティは、監督の体験から得られたものなのである。そして、繊細な照明と撮影による美しい画面は、1分、1秒をもかけがえのないものだと感じるアンニャの見ている世界を反映しているように感じられる、きらめきを宿している。

また、パートナーのトーマスを演じるのは名優ステラン・スカルスガルド。困惑するアンニャに翻弄され立ち尽くすシーンが多い役ながら、円熟味増す余裕のある演技で、見事に存在感を示している。

パートナーのトーマスを演じたのはステラン・スカルスガルド
パートナーのトーマスを演じたのはステラン・スカルスガルド[c]Motlys

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