アニメ映画の背景美術に込められた想いとは?『魔女見習い』『ジョゼ虎』『サイダー』『7日間戦争』の4監督が語る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アニメ映画の背景美術に込められた想いとは?『魔女見習い』『ジョゼ虎』『サイダー』『7日間戦争』の4監督が語る

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アニメ映画の背景美術に込められた想いとは?『魔女見習い』『ジョゼ虎』『サイダー』『7日間戦争』の4監督が語る

第33回東京国際映画祭のTIFFマスタークラス「2020年、アニメが描く風景」が、11月7日に開催され、ゲストのイシグロキョウヘイ監督(『サイダーのように言葉が湧き上がる』)、タムラコータロー監督(『ジョゼと虎と魚たち』)、村野佑太監督(『ぼくらの7日間戦争』)、佐藤順一監督(『魔女見習いをさがして』)が“アニメの背景美術”について語り合った。

モデレーター・藤津亮太と、ゲストのイシグロキョウヘイ監督(『サイダーのように言葉が湧き上がる』)、タムラコータロー監督(『ジョゼと虎と魚たち』)、村野佑太監督(『ぼくらの7日間戦争』)、佐藤順一監督(『魔女見習いをさがして』)
モデレーター・藤津亮太と、ゲストのイシグロキョウヘイ監督(『サイダーのように言葉が湧き上がる』)、タムラコータロー監督(『ジョゼと虎と魚たち』)、村野佑太監督(『ぼくらの7日間戦争』)、佐藤順一監督(『魔女見習いをさがして』)

もともと画用紙にポスターカラーで描かれていた背景美術。しかし、1990年代末から2000年代初頭、仕上げと撮影がデジタルへと転換し、背景美術も徐々に追随。デジタル化が進んだ。
そんななか、同イベントのモデレーターであるアニメ評論家の藤津亮太が、取材を通して感じた疑問をトークセッションの議題に。デジタル制作ネイティブである新海誠監督が作品で実景を美しく見せ、世間にインパクトを与えたものの、「デジタルを導入したら質感が似た背景が増えてしまった」(2004年頃)、「もっと写真っぽくしてくださいと言われた」(2013年頃)といった声が制作側から出ていたことを明かした。

一方で、「手描きっぽい背景が好まれるようになってきた」という声も聞いたという藤津氏。これらを踏まえて、同イベントに出席した監督陣は、どのようなスタイルで背景美術を描いているのか、質問した。
はじめに答えた佐藤監督は、「『おジャ魔女どれみ』のテレビアニメは3~10歳くらいを対象にしているので、少し大人っぽい雰囲気にした方が作品に入り込めるのではないかと、あえて雲には重めの影をつけていたりするのですが、今回の『魔女見習いをさがして』の方はドラマがシビアで重めなので、絵は明るくなりました」と、背景とストーリーでバランスを取ったことを明かした。

『魔女見習いをさがして』の佐藤順一監督
『魔女見習いをさがして』の佐藤順一監督

また、村野監督は「実写映画の地続きの、リアルな背景を考えました。しかし、作品のほとんどが建物のなかの話。お客さまの満足を考えたとき、どう描くのか…というのをしっかり考え、“10代の恋する人間”のフィルターを通して見たものの見え方を求め、例えば苔とか錆とかはキラキラとしたものだと思って描きました」とコメント。

『ぼくらの7日間戦争』の村野佑太監督
『ぼくらの7日間戦争』の村野佑太監督

タムラ監督も「恋愛をしているときって視界が狭い感じがあるよね、という話はしましたね。手描きでピントが甘くなるような、ディテールが甘くなるような部分を模索しました」と、作品の世界観に“恋愛気分”を盛り込んだことを明かした。

【写真】タムラコータロー監督の『ジョゼと虎と魚たち』はTIFF特別招待作品
【写真】タムラコータロー監督の『ジョゼと虎と魚たち』はTIFF特別招待作品

そして、独特の表現力を持つイシグロ監督は「重要視しているのはディテールではなくシルエット」とコメント。「この方向性を軸に、主線でシルエットを描きました。イラストレーターの鈴木英人調の美術になっています」と『サイダーのように言葉が湧き上がる』の背景美術について語った。

『サイダーのように言葉が湧き上がる』のイシグロキョウヘイ監督
『サイダーのように言葉が湧き上がる』のイシグロキョウヘイ監督

また、「ロケハンでは何を見るか」という質問に、村野監督は「『7日間戦争』の舞台となっている廃坑などは想像力だけでは絶対に描けないので…。そこになにがあるのか、ディテールを直接見に行きました」、タムラ監督は「まずプレロケハンで、登場人物が活躍できる場所を肌で感じて、撮影するだけ撮影して。使う場所は後で考えるという(笑)。撮影したもののなかからチョイスするときに、どう必要なのか考えることで個性が出せるのだと思います」と回答。

そこで佐藤監督が、「ロケハン行っちゃったときの問題は、その場所に愛着が湧いてしまって、しっかり再現したくなってしまうということ。だけどあえて、そこを抑えるんです」と、背景の情報量のコントロールについて語り、一同納得。村野監督は「本当にそれは痛感する」、タムラ監督は「実物見ちゃうと再現したくなっちゃうんですよね」と笑っていた。

また、イシグロ監督が「最近、絵の解像度が上がりすぎですよね(笑)」と問題提起すると、「アニメはそんなに細かく作っても…と思います」とタムラ監督。佐藤監督も「例えば、粗挽きソーセージの方がおいしいじゃないかってね(笑)」と同調していた。

そのほか、「参考にする作品はあるか」という質問に、村野監督は「ディズニー作品」と回答。「ディズニーアニメを観て育ったのですが、『ノートルダムの鐘』はライティング、色彩も大きなキャラクターになっていて。背景そのものがキャラクターなのはおもしろいと思い、『7日間戦争』もそれを参考にしました。オマージュです!」と笑顔に。

イシグロ監督は「大正時代の版画家の吉田博。よくよく見るとアニメ的で、シルエットもすさまじく情報量を感じます。情報の取捨選択にインパクトを受けましたし、版画のニュアンスは僕のインスピレーションのもとになっています。最新作は結構な吉田博テイストでやっているんですよ」と、最新作にも言及し、「新海誠作品のようなものを求められたりもするけど、もっと肩の力を抜いてフラットに考えるのもいいと思う。描いてないところが多い昔の作品も、それがアートスタイルになっていた」と、メンバーは、背景美術のスタイルの幅について、最後まで熱く語り合っていた。

第33回東京国際映画祭は、あす11月9日(月)まで開催されている。

取材・文/平井あゆみ

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