万華鏡、動く絵本…“美しさ”に秀でた、世界のアニメを牽引する「カートゥーン・サルーン」の軌跡

ストップモーションで有名なスタジオライカの最新作『ミッシング・リンク英国紳士と秘密の相棒』(公開中)や、日本でも話題になったフランス&デンマーク共作の海洋冒険譚『ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん』(15)など、独自の手法や演出で観客を魅了する海外アニメーション。かわいらしく牧歌的な絵柄を特徴とするアニメ制作スタジオ「カートゥーン・サルーン」もそんな潮流の中に存在し、制作した長編作品すべてが米アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされている。同スタジオの最新作『ウルフウォーカー』が現在公開中ということで、本作を中心に同スタジオのこれまでを振り返りたい。

主人公のロビンは、森の中でウルフウォーカーの少女メーヴと出会う(『ウルフウォーカー』)[c] WolfWalkers 2020

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カートゥーン・サルーンはアイルランドのキルケニーに拠点を置いており、大学のアニメーション学科の同級生だったポール・ヤング、トム・ムーア、ノラ・トゥーミーの3人によって1999年に設立された。おもにアイルランドに伝わる文化や歴史、民話、伝説などを題材とし、豊かな表現力で芸術性が高い作品を数多く手掛けてきた。

万華鏡のように動くケルト模様が鮮やか！『ブレンダンとケルズの秘密』

スタジオの長編第1作となった『ブレンダンとケルズの秘密』(09)は、9世紀のアイルランドが舞台。聖なる本「ケルズの書」をめぐる少年修道士の冒険を描くファンタジーで、一部のシーンを除いて伝統的な2Dの手描きを用い、中世絵画にならって現代的な遠近法が排されている。ケルズの書に描かれた鮮やかで美しいケルト模様が万華鏡のように動きだす映像は圧巻だ。

ケルズの書に描かれた鮮やかで美しいケルト模様が万華鏡のように動きだす！(『ブレンダンとケルズの秘密』)[c]Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon

エモーショナルな不思議な家族の物語『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』

2014年には、長編第2作『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』を制作。海ではアザラシ、陸では人間の女性の姿をとる妖精“セルキー”の母親と人間の父親の間に生まれた兄妹が主人公で、兄が魔女にさらわれた妹を救おうとする。前作以上の映像美に加え、物語も家族の絆を描いた誰の心にも響く感動的なものになっている。米アカデミー賞ノミネートのほか、第42回アニー賞で7部門にノミネート、2015年度の東京アニメアワードフェスティバルでグランプリを受賞、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワードにて長編アニメ賞を受賞するなど、数々の輝かしい実績を残した。

兄妹や家族の絆を描くなど、物語はよりエモーショナルに！(『ソング・オブ・ザ・シー　海のうた』)Song of the Sea [c] 2014 - Cartoon Saloon - Melusine Productions - The Big Farm- Superprod - Nørlum

家族のために“少年”になった少女の勇気…『ブレッドウィナー』

長編第3作『ブレッドウィナー』(17)は、2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタンが舞台で、ほか3作とはかなり毛色の違う作品だ。戦争で荒廃したカブールにある小さなアパートの一室に暮らす11歳の少女が、タリバンに連行された教師の父の代わりに、髪を切って“少年”になることで一家の稼ぎ手＝ブレッドウィナーとして家族を支えようとする。土埃が舞うカブールの街並みと、切り絵のアニメーションで作られた少女が語る物語の世界、異なる世界の対比が、困難な現実を生き抜く少女の姿をひと際輝かせている。

少年の姿になった少女が家族を支える稼ぎ手＝ブレッドウィナーになろうとする(『ブレッドウィナー』)[c]2017 Breadwinner Canada Inc./Cartoon Saloon (Breadwinner) Limited/ Melusine Productions S.A.

カートゥーン・サルーンの到達点『ウルフウォーカー』の魅力とは？

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