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役所広司が「あみだくじのように運命的」と語る『すばらしき世界』監督との数奇な縁

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役所広司が「あみだくじのように運命的」と語る『すばらしき世界』監督との数奇な縁

『ゆれる』(06)、『永い言い訳』(16)の西川美和監督が初めて実在の人物をモデルとした原案小説をもとに、役所広司を主演に迎えて映画化した『すばらしき世界』(2月11日公開)。第56回シカゴ国際映画祭にて観客賞、最優秀演技賞(役所)の二冠を受賞し、公開を前に国内外から絶賛の同作より、メイキングカットとともに、本作への期待がより高まる“数奇な縁”のエピソードが明かされた。

【写真を見る】『すばらしき世界』の撮影風景。17歳当時の西川監督に衝撃を与えた役所の主演ドラマとは?
【写真を見る】『すばらしき世界』の撮影風景。17歳当時の西川監督に衝撃を与えた役所の主演ドラマとは?[c] 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

役所が演じる本作の主人公は、元殺人犯の三上正夫。「今度こそ堅気!」という決意を胸に13年ぶりに出所した彼は、見た目は強面で頭に血がのぼりやすい性質だが、どこまでも真っ直ぐで優しく、困っている人を放っておけない男である。この映画は人生をやり直そうとする三上と、彼に好奇の目を向けるテレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)の接触を通して「社会」と「人間」の“今”をえぐる。

そんな本作における“数奇な縁”は、役所と西川監督、そして原案の佐木隆三の組み合わせに秘められている。さらに遡るとその縁は 「人間という生き物のわけのわからなさ」を追い続けた名匠、今村昌平と佐木との出会いから始まり、役所、ひいては西川監督へ繋がっていく。

今村監督は日本映画界を語るうえで欠かせない存在であり、役所も同監督の作品では、第50回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール(作品賞)を受賞した『うなぎ』(97)と『赤い橋の下のぬるい水』(03)に主演している。そうした名だたる傑作、怪作揃いの今村監督のフィルモグラフィーのなかでも、緒形拳主演の『復讐するは我にあり』(79)は、昭和38~39年に連続殺人事件を起した犯人の人間像に迫り、日本アカデミー賞作品賞をはじめ、数々の映画賞に輝いた。この作品の原作が、佐木の直木賞受賞作の同名小説であった。

この『復讐するは我にあり』の主人公のモデルとなった実在の殺人犯、西口彰を、役所は91年にテレビドラマ「実録犯罪史シリーズ/恐怖の二十四時間 連続殺人鬼 西口彰の最期」で演じている。そして、このドラマを当時17歳の西川監督が視聴しショックを受けるとともに、ものを書く仕事に就きたいと思うきっかけとなったという。

『すばらしき世界』の撮影風景。数奇な運命を経て本作でのタッグに結び着いた二人
『すばらしき世界』の撮影風景。数奇な運命を経て本作でのタッグに結び着いた二人[c] 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

その西川監督が『すばらしき世界』の原案となった佐木の小説「身分帳」と出会ったのは『永い言い訳』の撮影中だった。「これほど人間と世間を面白く描いた物語が埋もれていたとは!」と、これまで一貫してオリジナルにこだわり続けた監督が初めて小説の映画化を決意。そして、監督の「いつか一緒に仕事がしたい」と憧憬の思いを役所が受け止め、完成したのが本作である。

西川監督は三上の原案となった人物について「人間性を剥き出しにしたような人」と説明。周囲に厄介事をもたらしたであろう人物で、佐木も厄介な目に遭っていたのでは?と想像しながらも「それでもこの男を書こうと佐木さんが思うような魅力があった。周りの人が、面倒を見てあげたくなるような、人好きなところがあったんだろうと思います」とその魅力を語っている。

また、三上役の役所について監督は「役所さんの芝居のカラクリなんて到底語れません」とコメント。「魅力がどこからくるかわからないところ」を役所の奥深さと感じると同時に、「あらゆる映画において、与えられた役とご自分を一体化される努力をされている」と絶賛した。三上がどういう人物なのかの質問をされることもなく、小説を頼みにしている様子もなかったと振り返りながら、「だけど、誰よりも役のことを考えておられると思う」と分析。いつ声をかけても穏やかで優しい役所が、隅の方でじーっと何かに集中する姿をよく見かけたという監督は「私にも他の人にも、誰にもわからないレベルの鍛錬」だとし、その様子は直視できないような鬼気迫る感じがあったと付け加えている。

『すばらしき世界』の撮影風景。役所は本作のオファーに「よっしゃー!」と喜んだそう
『すばらしき世界』の撮影風景。役所は本作のオファーに「よっしゃー!」と喜んだそう[c] 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

一方の役所は西川監督の「人間と人間の関係をすごく丁寧に描く姿勢」から「素直に映画の物語に入っていける」と感じたという。実は以前、役所は監督の『夢売るふたり』(12)、『永い言い訳』へコメントを寄せていたそうで、後日、監督からのお礼の手紙で役所が西口彰を演じたテレビドラマを観ていたことを知ったという。そのため『すばらしき世界』のオファーには「お!来た、来た、来た、来たーっ!」と興奮気味に受け止めたことを振り返っている。


役所は「ドラマで西口を演じたことが西川監督の目に留まり、その後、是枝裕和監督の『三度目の殺人』(17)に出たことで、是枝監督と西川監督が運営されている(映像制作会社の)分福とのつながりができ、西川組にたどり着く流れはスムーズな感じですが、でも縁ですよね」と数奇な縁を強調。続けて「あみだくじのような運命的な出会いを感じる作品」と語っている。

様々な作品や出会いの積み重ねがたどり着いた映画『すばらしき世界』。その不思議な縁が紡ぎ出す、深みのある世界観を堪能したい。

文/タナカシノブ

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