怪しげな新居で正体不明の赤ん坊を育てる『ビバリウム』『CUBE』など、“不条理映画”に惹きつけられる!|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
怪しげな新居で正体不明の赤ん坊を育てる『ビバリウム』『CUBE』など、“不条理映画”に惹きつけられる!

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怪しげな新居で正体不明の赤ん坊を育てる『ビバリウム』『CUBE』など、“不条理映画”に惹きつけられる!

アイルランド出身の新鋭監督ロルカン・フィネガンが撮り上げた長編第2作『ビバリウム』(公開中)は、なにもかもがシュールで摩訶不思議な映画だ。マイホームを夢見る若いカップル、ジェマ(イモージェン・プーツ)とトム(ジェシー・アイゼンバーグ)が、怪しげな不動産業者の案内で郊外の住宅地を訪れる。ところが業者はいつの間にか姿を消してしまい、車で帰ろうとしてもなぜか広大な住宅地から出られない。やむなく“9番”とナンバリングされた新築住宅で生活を始めたジェマとトムは、毎日ダンボールで配達される味気ない食品を食べ、ついには正体不明の赤ん坊を育てるはめに…。

【写真を見る】若いカップルが育てることになる子どもは一体、何者…?(『ビバリウム』)
【写真を見る】若いカップルが育てることになる子どもは一体、何者…?(『ビバリウム』)[c]Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

同じ家が立ち並ぶ奇妙な住宅地“Yonder(ヨンダー)”とは?(『ビバリウム』)
同じ家が立ち並ぶ奇妙な住宅地“Yonder(ヨンダー)”とは?(『ビバリウム』)[c]Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

鑑賞中にいくつものクエスチョンが脳裏をよぎる本作は、“《極限》のラビリンス・スリラー”と銘打たれた異色作。通常のミステリー映画のように“なぜ?”の合理的な答えは用意されておらず、主人公のカップルを迷宮的な住宅地に閉じ込めた何者かの正体さえも明かされない。まさに理屈を超越した世にも奇妙なお話であり、あえてジャンル分けするなら不条理映画と呼ぶのがふさわしい。

フィネガン監督は本作を作るにあたってインスピレーションを得た過去の映画をいくつも公言しており、そのひとつが勅使河原宏監督が安部公房の同名小説を映画化し、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した『砂の女』(64)だ。昆虫採集のために砂丘を訪れた男が、その蟻地獄のような地帯から抜け出せなくなっていくという究極の不条理ドラマ。全編ワンシチュエーションの異様な世界観に加え、人間という生き物の本質をあぶり出す寓話性は『ビバリウム』にも受け継がれている。

謎だらけの状況下、ジェマは精神的に追い詰められていく(『ビバリウム』)
謎だらけの状況下、ジェマは精神的に追い詰められていく(『ビバリウム』)[c]Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

観客に手に汗握る緊張感を提供するスリラー・ジャンルの作品も、解かれない謎、描かれない真実を織り交ぜることで不条理映画へと変貌する。その代表例はカナダのヴィンチェンゾ・ナタリ監督作品『CUBE』(97)だろう。

日本版リメイクも話題の、ビンチェンゾ・ナタリ監督による大ヒット作『CUBE キューブ』
日本版リメイクも話題の、ビンチェンゾ・ナタリ監督による大ヒット作『CUBE キューブ』 [c]MCMXCCII CUBE/LIBRE/THE FEATURE FILM PROJECT. ALL RIGHTS RESERVED.

無数の立方体の部屋で成る迷宮空間に放り込まれた男女が、殺人トラップを切り抜けながら出口をめざす脱出劇。この大ヒット作は数多くの亜流作品が作られたが、日本でも先頃公開されたスペイン映画『プラットフォーム』(19)は、縦構造になっている迷宮の斬新な設定、階級差という概念を取り入れたアイデアが秀逸な一作だった。また、日本映画界が菅田将暉らの豪華キャスト共演で『CUBE』のリメイクに挑んだ同名作品も、この秋に公開予定だ。

フランスの新人監督ユニット、ジャン=バティスト・アンドレアとファブリス・カネパが手がけた『...less[レス]』(03)は、クリスマスの夜のドライブが悪夢と化すホラー映画。いくら車を走らせても森の夜道を抜け出せず、同じ場所に舞い戻ってしまう一家の恐怖体験が描かれていく。はてしなく堂々巡りのループが繰り返される不条理感は、『ビバリウム』の導入部に通じるものがある。

空間的なループを扱った『...less』とは異なり、時間的な反復、すなわちタイムループを題材にした映画にも不条理テイストがみなぎっている。このジャンルの名作たる『恋はデジャ・ブ』(93)から、ホラー・コメディの近作『ハッピー・デス・デイ』(17)、『パーム・スプリングス』(公開中)まで、時間の迷宮に囚われた人々の運命を描くタイムループものには必見の良作が少なくない。

トムは何とかして住宅地から脱出しようとするが…(『ビバリウム』)
トムは何とかして住宅地から脱出しようとするが…(『ビバリウム』)[c]Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

不条理映画というと難解なイメージを抱く人もいるかもしれないが、ルネ・マグリットの絵画を彷彿させる世界観が鮮烈に映像化され、ダークなスリルとユーモア、鋭い社会風刺が盛り込まれた『ビバリウム』は、観る者の好奇心や想像力をかき立ててやまない。ぜひとも理想のマイホームをカリカチュアした“不条理の迷宮”に身を委ね、観客それぞれの“真実”を発見してほしい。

文/高橋諭治

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