命日に振り返る、チャドウィック・ボーズマンの軌跡…差別や偏見と闘い続けた生涯|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
命日に振り返る、チャドウィック・ボーズマンの軌跡…差別や偏見と闘い続けた生涯

コラム

命日に振り返る、チャドウィック・ボーズマンの軌跡…差別や偏見と闘い続けた生涯

昨年8月28日に、大腸がんによって43歳の若さでこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン。『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー(原題)』(2022年7月公開予定)の撮影開始が「Variety」などで報じられ、キャストやスタッフ関係者からも改めて、ボーズマンの死を惜しむ声が広がっている。今年4月に行われた第93回アカデミー賞では、遺作となった『マ・レイニーのブラックボトム』(Netflixで独占配信中)で主演男優賞にノミネート。惜しくも受賞は逃したものの、史上3人目の、“死後にオスカーを手にした俳優”となるのか?と期待される名演ぶりを見せていた。1周忌を迎えた本日、彼の短すぎた生涯を振り返っていきたい。

スクリーンの内外で人種差別、不平等に立ち向かった生涯

昨年8月、思いもよらなかった彼の訃報には、映画界に驚きと悲しみの声があふれたのはもちろん、多くのスポーツ選手たちが腕を胸の前でクロスさせる『ブラックパンサー』(18)で知られるポーズで追悼の意を示し、バラク・オバマ元大統領もメッセージを寄せるなど、その反響の大きさは、どれだけ彼が偉大な存在だったのか、ということを示していた。


『ブラックパンサー』はディズニープラスで配信中
『ブラックパンサー』はディズニープラスで配信中[c] 2021 Marvel

そんな彼の代表作といえば、やはり『ブラックパンサー』だろう。南アフリカの公用語の一つ、コサ語の使用、アフロフューチャリズムが盛り込まれたプロダクションデザインなど黒人文化、アフリカ文化を前面に押し出した本作は爆発的な大ヒットを記録。ブラックパンサー、そしてボーズマンは、瞬く間にアイコニックな存在となった。

ボーズマンは『ブラックパンサー』以前にも実在の英雄を演じており、ブレイクのきっかけとなった『42 〜世界を変えた男〜』(13)では、アフリカ系アメリカ人で初めてメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを熱演。『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』(14)では、黒人の地位向上のために政治的な活動も行ったミュージシャンのジェームス・ブラウンを、『マーシャル 法廷を変えた男』(17)では、アフリカ系アメリカ人として初めて合衆国最高裁判所判事になったサーグッド・マーシャルの若かりし日を演じてきた。

2020年8月28日にこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン
2020年8月28日にこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン写真:SPLASH/アフロ

また、スクリーンの外でも黒人としての誇りと不平等に立ち向かう姿を示してきた 。『ブラックパンサー』ではアフリカ訛りの英語を話すキャラクター像を守るため映画会社上層部と真っ向からぶつかったり、書店で声をかけてきた若い俳優に対し、映画業界において黒人であるということはどういうことなのかを説き、キャリアの切り拓き方を丁寧にアドバイスするなど、様々な逸話も残っている。

遺作『マ・レイニーのブラックボトム』で訴えたメッセージ

遺作となった『マ・レイニーのブラックボトム』も彼の誠実な想いが伝わるような一作だ。黒人の暮らしに焦点を当てた作品を数多く生みだしてきたオーガスト・ウィルソンの戯曲を原作とする本作は、1927年のシカゴを舞台に、“ブルースの母”と呼ばれたマ・レイニーのレコーディング現場が舞台。白人プロデューサー、マネージャーとマ・レイニーとの対立や、その末にあるバンドメンバー同士のぶつかり合いなどから、人種差別を浮き彫りにしていく内容だ。


『マ・レイニーのブラックボトム』ではアカデミー賞主演男優賞候補に選ばれている
『マ・レイニーのブラックボトム』ではアカデミー賞主演男優賞候補に選ばれているNetflixオリジナル映画『マ・レイニーのブラックボトム』は独占配信中

ボーズマンが演じているのが、マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)のバックバンドの一員としてレコーディングに参加する野心家のトランペッター、レヴィー。苦しい生活から抜けだすために一旗揚げようと意気込むが、周囲の指示に従わずに自分の音楽を前面に出そうとすることでバンドやマ・レイニーと対立。しだいに荒んでいき、ある悲しい過去と怒りをぶちまけていくという、人種差別によって人生を狂わされてしまうキャラクターだ。

初めは軽口をたたくなど、自信満々でチャーミングな男だったレヴィーが、心に秘めた想いを明かしていく。その心の動きをエネルギッシュに体現しているボーズマン。涙まじりに怒りを吐きだす際の鬼気迫る表情やパワフルな動きは、闘病中だったとは到底思えない迫力を帯びている。舞台裏を映した『マ・レイニーのブラックボトムが映画になるまで』(Netflixで独占配信中)によると、実際にコーチをつけてトランペッターの指の動きを徹底的にたたき込んだそう。誠実に役と向き合うボーズマンだからこそ、キャラクターにリアリティが生まれ、その根底にあるメッセージも、より観る者の胸に迫ってくるのだ。

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