作家・庵野秀明の正体とは?「さようなら全てのエヴァンゲリオン」が描いた“特異性”|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
作家・庵野秀明の正体とは?「さようなら全てのエヴァンゲリオン」が描いた“特異性”

コラム

作家・庵野秀明の正体とは?「さようなら全てのエヴァンゲリオン」が描いた“特異性”

3月22日にNHK総合で放送され、大きな反響を呼んだドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀 〜庵野秀明スペシャル〜」が、今晩23時50分から再放送される。
これまで長期取材が許されてこなかった、庵野の制作現場に約4年にわたって独占密着を敢行し、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(公開中)の舞台裏へと迫った本番組。

いっぽう、4月29日にNHK BS1で放送された拡大版となるBS1スペシャル「さようなら全てのエヴァンゲリオン 〜庵野秀明の1214日〜」は、NHK総合版に入りきらなかった映像やインタビューを加え、前後編計100分の長尺をナレーションを排して描くことで、より“作家・庵野秀明”に迫るドキュメンタリー作品に仕上がっていた印象だ。本稿では、番組中に登場した庵野をはじめとした各人の発言を引用しながら、その内容を振り返っていきたい。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は公開中
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は公開中[c]カラー

1995年に放送が開始されて以来、世代を超えて幅広い層から熱狂的な支持を集めてきた「エヴァンゲリオン」。テレビアニメ版の放送終了後には劇場版も公開され、さらにその10年後の2007年には「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズとして再始動。その完結編にして、四半世紀にわたる歴史の集大成とも言える『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、新型コロナウイルス感染拡大による公開延期を経て今年3月に公開。公開7週目で観客動員数523万人、興行収入80億円を突破し、ロボットアニメ史上初の興行収入100億円超えを射程圏内に収めている。

本ドキュメンタリーは2017年9月28日から始まる。前半では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作初期段階における庵野を筆頭にしたスタッフ陣の試行錯誤とともに、庵野秀明という人物のありのままの姿が映しだされていく。食べ物の好き嫌いが激しい偏食家であり、酒が好きで電柱が好きな“日本随一のオタク”としての表情。「頭で考えても限界がある」と語り、アイデアを生みだすために作られたミニチュアセットの中を歩き回る姿はとてもユニークであり、時折庵野自身がまるで初号機のように見えてしまうほどのインパクトを放つ。

これまで長期取材が許可されなかった制作現場に、約4年にわたる密着取材が敢行された
これまで長期取材が許可されなかった制作現場に、約4年にわたる密着取材が敢行された


『シン・ゴジラ』(16)で庵野とタッグを組み、旧世紀版、新劇場版シリーズ共に参加している樋口真嗣は番組中でこのように語る。「食べるものだけじゃなく、作るものにも全部同じように好き嫌いがある。嫌いなものは絶対にいらないし、自分の作品にそれが混入されるのも嫌。ああじゃない、こうじゃないというなかで、こうじゃないものの屍が、本当はこうだったという形を浮かび上がらせる。そのためには破片で満たさなきゃいけない。作りたいものを作るために手段を選ばない」。

番組前半では『シン・エヴァ』を生みだすために試行錯誤を重ねていく庵野秀明の姿が映しだされる
番組前半では『シン・エヴァ』を生みだすために試行錯誤を重ねていく庵野秀明の姿が映しだされる

その言葉で示される通り、庵野は徹底的に自分自身が思い描く、もしくは描きたいビジョンを追求していく。そこに一貫しているのは“おもしろさ”へのこだわりと、“作品至上主義”と呼ぶべき真摯な姿勢にほかならない。モーションキャプチャーを使ってアニメーションの元となる映像を作りだしていく制作過程はもちろん、密着取材を行う取材班に対してもドキュメンタリーという“作品”としての見せ方をレクチャーする。庵野自身、「僕がやりたいことをやりたいわけじゃない。こうしたらこの作品がおもしろくなると思うから、僕はこうしたいというだけ」と語るように、その向き合い方こそが、これだけ愛される“作品”を生む最大の要因だろう。

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