吉野が昨夜寝ないで考えた3つの脚本に宮間は…/脚本家・徳永友一 第7回「有頂天男のシンデレラストーリー」【未成線~崖っぷち男たちの逆襲~】|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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コラム 2021/6/6 22:00

吉野が昨夜寝ないで考えた3つの脚本に宮間は…/脚本家・徳永友一 第7回「有頂天男のシンデレラストーリー」【未成線~崖っぷち男たちの逆襲~】

『翔んで埼玉』『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』(ともに19)の脚本家・徳永友一が初めて手掛けるオリジナル小説として、「DVD&動画配信でーた WEB」特別連載。脚本家を目指す中年男・吉野純一、若手脚本家として闘う男・宮間竜介、2人を巧みに操る男・滝口康平、3人の男のリアリティドラマが始まる。脚本家、吉野純一としての第一歩“リアリティドラマ”の撮影が始まった。滝口に“シンデレラストーリー”だと言われ、有頂天になる吉野だが、その傍らでサポートする宮間の表情からはいつもの笑みが消えていた。

【画像を見る】シンデレラストーリーの第一歩
【画像を見る】シンデレラストーリーの第一歩イラスト/浅妻健司

第7回「有頂天男のシンデレラストーリー 吉野編」

「リアリティドラマ……」

 家に帰るとすぐにパソコンで検索してみた。だが、“リアリティショー”というワードは出て来ても、“リアリティドラマ”というワードは見当たらない。確かにこれは、滝口さんが言っていた通り新しい試みなのかもしれない。俺は急に胸が熱くなった……。俺をこんなチャレンジングな企画に抜擢してくれるとは。とその時、携帯が鳴った。宮間先生からだ。

「はい、吉野です!」

「今日はお疲れ様でした……」

「あ、はい!」

「で、早速なんですが明日遅めの時間から打ち合わせできませんか?」

「え?」

「実は、今回サポートと言うわけではないんですが、僕も一緒に打ち合わせに入ることになりまして……」

「あ、そうなんですか……」

 俺は思わず落胆の声をあげた。俺一人じゃなかったのか……。だが、サポートに入ってくれるのは恩人の宮間先生だ。すぐさま気持ちを切り替えると、手帳を広げスケジュールの確認をする。明日の夜はファミレスのバイトが入っていた。

「あの、すみません……。明日の夜はバイトが入っていまして……」

「バイトですか……。休めたりしませんかね?え?あ、ちょっと待って下さい」

 電話口で何やら宮間先生が話している声が聞こえる。誰かと一緒にいるのか?その時、再び宮間先生が電話口に声を発した。

「あ、すみません。バイト入ってても大丈夫です。今滝口さんといるので代わります」

「あ、はい」


「いらっしゃいませ」

 翌日の深夜。俺はテレビカメラが回る中で、いつものように接客をしていた。昨夜の電話で、滝口さんからバイトをしている姿を撮らせて欲しいと頼まれたのだ。滝口さんから、なるべくカメラを意識せず普段通りやってほしいと言われていた。注文を取りオーダーを通すと、少しだけ出来た合間に、ふと思いついたアイデアをメモする。そこへ、竹田店長が顔を出して来た。

「吉野さん?また何か思いついたんですか?」

「ええ、まあ……」

「頑張ってね、吉野さん」

 このおばさん、露骨にテレビカメラを意識している。これは完全に、40過ぎても脚本家を夢見る男を応援してます!的なポジションについている。テレビが入った途端これだ。全く、現金な女だ。そこへ、滝口さんがやって来た。

「お疲れさま、吉野さん」

「お疲れさまです!」

「悪いですね、急に」

「いいえ!とんでもありません」

「昨日話した通り、今回は“リアリティドラマ”を作ります。ファミレスで働いている普段の吉野さんを撮らせていただき、脚本家としてデビューするまでの“シンデラストーリー”も描いて行きたいんです」

「シンデレラストーリー……」

 そうか、確かに言われてみればその通りだ。一夜にして俺の人生は大きく光り輝いた。まさに、“シンデレラ”だ。明け方、5時。俺がバイトを終える頃、宮間先生がやって来た。働いている姿の撮影は終わり、次はいよいよ打ち合わせの様子を撮影する時間だ。俺と宮間先生がテーブル席に着くと、カメラが回る前に滝口さんが声をかけて来た。

「今から新ドラマのアイデア出しをここで行ってもらうから。初期設定は、ある日突然、脚本を任された脚本家志望の中年男と、そのサポートをする売れっ子若手脚本家ってことで。あとは“リアリティ”でお願いします」

「はい!」

「それじゃ、カメラ回して行きます」

 カメラが回った合図とともに、俺は鞄から紙を取り出した。

「新ドラマのアイデアを考えて来たんですが」

 昨夜寝ないで考えた。珠玉の3本のアイデアだ。簡単に言うと、1本目は「女子高生が突然ゾンビになって街を襲う話」。2本目は「ある日、中年男が超能力を使えるようになって地球を救う話」。3本目は「かつて女性宇宙飛行士だった女が派遣社員となり社内で活躍する話」だ。

「……いや、どれもキツイと思いますが」

「え?」

 まさかの返答だった。ここがゼミだったら素直に従っただろう。だが俺は、滝口さんに言われた言葉を思い出していた。これは俺の“シンデレラストーリー”なんだ。

「自分的には2本目の超能力の話とかいけると思うんですけど?」

「いけますかね……」

「いけますよ!」

「地球救うって、一体地球に何が起こっている設定ですか?」

「いや、それはまだ考え中ですが……」

「……いや、予算かければ面白いかもしれないですけど。制作費そんな出ないと思いますよ?」

「……そこは何とかアイデアで乗り切りましょうよ」

「乗り切れますかね……」

 俺が何を言っても否定的なことしか言わない。何なんだよ!?

(つづく)

■徳永友一 プロフィール
1976年生まれ、神奈川県出身。TVドラマ「僕たちがやりました」(17)、「海月姫」(18)、「グッド・ドクター」(18)、「ルパンの娘」シリーズを手掛け、映画『翔んで埼玉』(19)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(8月20日公開)、映画版『ルパンの娘』(10月15日公開)が待機中。

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