『ムーンライト・シャドウ』吉本ばななと小松菜奈が語る、失恋のせつなさと哀しみの“色”|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2021/9/18 9:00

『ムーンライト・シャドウ』吉本ばななと小松菜奈が語る、失恋のせつなさと哀しみの“色”

バブル全盛期、人々がなにかを得ることに躍起になって、狂乱していた時代に、吉本ばななは大切な人を突然失う大学生の話を世に放った。大学の卒業論文のために書かれた小説「ムーンライト・シャドウ」は、やがて昭和、平成、令和と、災害や事件を経て、大切なものを唐突に失う経験を強いられる人々に寄り添い、予言の書となった。大切な恋人、等(ひとし)を突然失った大学生、さつきの消化し得ない欠落感は、いま、コロナ禍で立ち止まるを得ない人々と共有する感情でもある。

エドモンド・ヨウ監督の手により映画化され、公開中の『ムーンライト・シャドウ』。吉本ばななと、さつき役を務めた小松菜奈に単独インタビューを行い、この2人が見ているいまの景色、映画で埋められる穴について聞いた。

「原作を出したころは華やかで、みんながお金を使っていた…でもそれと同時にせつないことがいっぱいあったと思います」(吉本)

――私は吉本先生と同世代なので、1988年から89年にかけてのバブル時期の絶頂期に、この「ムーンライト・シャドウ」が世に出てきた時のインパクトをリアルタイムに見た一人です。多くの人が“なにかを獲得する”ことに熱中していた時代に、“なにかを失う”物語が出てきた。世が浮かれている時代と真逆の小説が出てきたなと受け止めた記憶があります。結果的にバブル崩壊以降、私たちは失うことの連続ですが、その意味で「ムーンライト・シャドウ」は予兆の書だったなと感じています。この小説が時代に与えたインパクトの変遷を、先生はどのようにご覧になっているんでしょうか?

『ムーンライト・シャドウ』は公開中
『ムーンライト・シャドウ』は公開中[c]2021 映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

吉本「私なんて骨の髄までバブルだから、いまもなお、お葬式とか行って、『疲れたな』と思うとすぐシャンパンとかを飲んじゃったりする(笑)。そういうところはバブリーだなって自分でも思うんですけど。原作を出したころは華やかで、みんながお金を使っていた…でもそれと同時にせつないことがいっぱいあったと思います。変な意味ではなくて、人間の価値や時間をお金で買うという風潮があり、そのなかでいろいろせつないことが起きた。恋愛にしたって、泣いている女の子や男の子がいっぱいいた。『今日迎えに来てくれなかったから別れる』なんてことが、あったじゃないですか、私にはなかったですけれど(笑)。そのせつなさの側面をすごくすくい上げている小説だな、とは思います」

――原作権のオファーから映画化まで5年ほど歳月がかかったと聞いていますが、エドモンド・ヨウ監督は、いまの時代のなにを見据えてこの作品を映画化を望んだのだと思いますか?

吉本「この取材の直前に記者会見があったのですが、宮沢氷魚さんと小松菜奈さんが、『いま、いろんな人がいろんなものを失っていると思うんです。実家が商売をやっていたけれどコロナで畳んじゃったとか、お父さんやお母さんに会いに行きたいのに田舎に帰れないとか。いろんなものを失って、それをどう埋めていいのかわからなくなっている人がいっぱいいる』と話されたのですが、私も『まさにいま、この作品のテーマが時代に合っているな』と思いました」

談笑する吉本ばななと小松菜奈
談笑する吉本ばななと小松菜奈撮影/野崎航正

――小松さんに伺いますが、演じたさつきは、別れの予兆を予感できる、感受性のある女優さんじゃないと演じられないだろうと思います。小松さんは、さつきのように、“来たるべきなにか”がわかってる、みたいな感覚をお持ちですか?

小松「最近はそういった感覚が鋭くなったような気がします。例えば、全然連絡をとっていなかった人から、『もしかしたら明日とか、この3日間ぐらいで連絡が来るかも』と思ったら本当にくるんですよ。勘がより研ぎ澄まされた感じはあります。自分でも驚きます。最近、それはより強く思いますね」

現場では試行錯誤を続け、監督ともディスカッションを重ねたという小松菜奈
現場では試行錯誤を続け、監督ともディスカッションを重ねたという小松菜奈撮影/野崎航正

――吉本先生は、キャスティングのリストをご覧になった時の感想と、完成した作品を観た時、それぞれの合致感みたいなものはどうだったでしょうか。

吉本「本当にぴったりだな、と思いました。なにかを決定的に強く言う人たちじゃないのに、強く伝わってくる感じがぴったりきて。キャスティングに対して『えっ、これは違うんじゃないの?』というのは誰に対してもなかったです。私、中野誠也さんって、小さいころに見ていたドラマにめちゃくちゃ出ていて、すごく好きだったから、『あっ、うれしい』と思って(笑)。新撰組を題材とした『燃えよ剣』にいました」

さつきや柊と麗を巡り合わせる充役として存在感を発揮する中野誠也
さつきや柊と麗を巡り合わせる充役として存在感を発揮する中野誠也[c]2021 映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

――吉本先生は、テレビっ子でいらっしゃったんですか?

吉本「はい!」

――さつきや柊と麗を巡り合わせる充役という、おもしろい役で出ていらっしゃいますよね。

吉本「ここでまた出会うとは、とうれしく思いました」

――撮影中は現場に見学に行かれたとも聞いています。

吉本「大学のシーンです。びっくりするようなシーンが多かったから、ちょっとドキドキしました(笑)。脚本通りではあったけれども、脚本で読むのと目で見るのは大違い。意外と猫に対して薄い、とか。変人っぽい行動が多かったから」

突然訪れた恋人の死を受け入れることができない主人公のさつき役を務めた小松菜奈
突然訪れた恋人の死を受け入れることができない主人公のさつき役を務めた小松菜奈[c]2021 映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

小松「私の演じるさつきが宮沢さんが演じる等としゃべっていて。等と『じゃあね』と別れる時に、監督に『ラクロス部の練習の間を割って通ってほしい』って言われて『えっ、どういうこと?』と。さつきがそんな変わった人だと思っていなくてびっくりしてしまって(笑)。スタッフや共演者も『えっ、さつきって、そういう人なの?』みたいな感じでした。でも、エドモンド監督がやっぱりそういうふうにやりたいって言うならば、私もちゃんとやろうと思って演じたんですが、どこか腑に落ちない部分もありました。エドモンド監督としては、普通の子だと足りないというか、『もっと違う菜奈を見せたい』とおっしゃっていたので、違う見え方を挑戦させてくれたのだと思います」

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