『アイダよ、何処へ?』で知る、戦後最悪の集団虐殺事件を引き起こしたボスニア・ヘルツェゴヴィナの傷跡|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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コラム 2021/9/23 8:30

『アイダよ、何処へ?』で知る、戦後最悪の集団虐殺事件を引き起こしたボスニア・ヘルツェゴヴィナの傷跡

ヨーロッパや北欧、アフリカ大陸、中東などで製作された映画たちは、ハリウッド大作と比べると多くの観客に観られる機会に恵まれているとは言えない。その国ならではの風習やトリビアを知れば、もっと映画を楽しめるはず。世界各国の良作映画をピックアップする企画で今回取り上げるのは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナが舞台の『アイダよ、何処へ?』(公開中)だ。

国連軍の通訳として行動しながら家族を守るために奔走するボシュニャク人のアイダ
国連軍の通訳として行動しながら家族を守るために奔走するボシュニャク人のアイダ[c] 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

本作は、2006年の長編デビュー作『サラエボの花』でベルリン国際映画祭の最高賞=金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ監督の最新作。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争中の1995年に起きた、セルビア人勢力によるボシュニャク人の大量殺害事件「スレブレニツァの虐殺」の真実に、家族を守るために奔走するボシュニャク人の女性アイダを通して迫っていく。知られざる重い真実をいまに伝える、ジュバニッチ監督の強い意志と願いは世界中の人々の心を揺り動かし、2020年の第77回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に選出されると、第93回アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネート。巨匠、マイク・リー監督も本作に対し「あらゆる点が見事で、極めて完成度の高い作品だ。ラストシーンは実に美しく感動的」とコメントするなど、各方面で絶賛が相次いでいる。

アイダを演じたヤスナ・ジュリチッチとジュバニッチ監督
アイダを演じたヤスナ・ジュリチッチとジュバニッチ監督[c] 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

ボスニア・ヘルツェゴヴィナには大統領が3人いる!

「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」と言われてもたぶんなじみがないと思うので、まずは基本情報から。ボスニア・ヘルツェゴヴィナは旧ユーゴ連邦を構成した共和国の一つで、ヨーロッパと中東の狭間のバルカン半島に位置している。国土は九州と四国を合わせた程度のわずか5.1万平方キロメートルで、首都はサラエボ。主要産業は木材業、鉱業、繊維業などで、オスマン帝国の影響を受けて盛んに作られるようになった「キリム絨毯」やプラムや葡萄などを発酵させて作る蒸留酒「ラキヤ」、「トルココーヒーセット」などの特産物でも知られている。かつては多様な民族が融和して共存した豊かな国で、サラエボも1984年に冬季オリンピックを開催したほど近代的な都市だった。


だが、1992年4月から3年半続いた「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争」で、紛争以前は約435万人だった人口は、20万人の死者と200万人超の難民を出したことにより約332.3万人(2018年の調べ)まで減少。現在はボシュニャク系(ムスリム系とも言う)住民とクロアチア系住民が中心の「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦」、セルビア系住民が中心の「スルプスカ共和国」という2つの主体で一つの国家を構成。驚くべきは、主要3民族を代表する3名の大統領が、輪番制で国を治めていることだろう。大統領を3人立てなければならないほど、3民族が微妙な力関係で生きている複雑な状況が、いまもなお続いているのだ。

国連保護軍と避難民の板挟みになるアイダの焦燥感がリアルに伝わってくる
国連保護軍と避難民の板挟みになるアイダの焦燥感がリアルに伝わってくる[c] 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte


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