MCU最新作に抜擢の新鋭監督が明かす、90年代ホラー『キャンディマン』を現代に蘇らせた意義|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
MCU最新作に抜擢の新鋭監督が明かす、90年代ホラー『キャンディマン』を現代に蘇らせた意義

インタビュー

MCU最新作に抜擢の新鋭監督が明かす、90年代ホラー『キャンディマン』を現代に蘇らせた意義

『不滅の恋/ベートヴェン』(94)や『サムライマラソン』(19)のバーナード・ローズ監督が手掛け、その後シリーズ化もされるなどカルト的人気を集めたホラー映画『キャンディマン』(92)。同作を鬼才ジョーダン・ピールの製作・脚本のもとで現代にアップデートして蘇らせた『キャンディマン』(公開中)。メガホンをとった新鋭ニア・ダコスタ監督は「オリジナル版のファンとしてやるべきことをやりました」と振り返り、「私はキャンディマンが何者なのか、そしてそれがなにを意味するのかを第一に考えました」とリメイクのポイントを語り始める。

【写真を見る】『The Marvels』の監督に大抜擢!ニア・ダコスタ監督が語る“キャンディマン”の意味することとは
【写真を見る】『The Marvels』の監督に大抜擢!ニア・ダコスタ監督が語る“キャンディマン”の意味することとは[c] 2021 Universal Pictures

「キャンディマンは確かにモンスターだと思います。しかし同時にアンチヒーローでもあり、多面的な存在でもあります。私にとってキャンディマンとは、我々が誰かを一人の人間ではなく、偶像や殉教者、アイコンといったなにかのシンボルに変えてしまうことを象徴していると思いました。これがホラー映画である以上、モンスターであることは間違いありません。でも誰が彼をモンスターと決めたのか、誰が彼にその名前を与えたのか。そして彼はどうやってそこに辿り着いたのか…といったことを解き明かしたかったのです」。

物語の舞台はシカゴに実在した公営住宅「カブリーニ=グリーン」地区。その界隈では、鏡に向かって5回その名を唱えると、右手が鋭利なフックになった殺人鬼“キャンディマン”に切り裂かれるという都市伝説が語り継がれていた。ヴィジュアルアーティストのアンソニーは、創作活動の一環としてキャンディマンの謎を探究していたところ、公営住宅の元住人だという老人から、その都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。そしてアンソニーは、恐ろしい過去への扉を開いてしまうことに。


元住人の話を聞き、キャンディマンに隠された悲惨な物語を知ることに…
元住人の話を聞き、キャンディマンに隠された悲惨な物語を知ることに…[c] 2021 Universal Pictures

マーベル・シネマティック・ユニバースの『キャプテン・マーベル』(19)の続編『The Marvels』の監督にも抜擢されたダコスタ監督は、ピールが1992年版の『キャンディマン』をリメイクしようとしていることを聞き、自ら売り込みをかけたという。「ジョーダンの大ファンだし、オリジナル版も大好きなのでぜひ参加したいと思いました。私と彼が、この物語でなにをすべきか一致していることに気が付いた後はすべてがうまくいきました」。本作ではピールが手掛けた『ゲット・アウト』(17)や『アス』(19)同様、ホラー映画の文脈のなかに人種問題やジェントリフィケーションへの問題提起が織り込まれるなど、社会的な側面も有している。

「私たちの文化のなかで、恐ろしい出来事に対処するため、あるいは人種的暴力によってこの世を去ってしまう殉教者のために、ストーリーテリングはどのように機能しているのか」。こうした様々な現代社会の課題を意識した上で、フィクションと現実世界とのバランスをとりながら適切な方法で描写することを心掛けたというダコスタは「これらのことが深く影響しているコミュニティの一員として、この作品に参加することがなによりも重要でした」と明かす。そして、回想シーンやオリジナル版の映像を使わずに“影絵”を用いることで、歴史上の暴力の瞬間を人伝で描くという手法を選択したのだという。

シカゴに実在した公営住宅を舞台に、その地に伝わる都市伝説を描く本作
シカゴに実在した公営住宅を舞台に、その地に伝わる都市伝説を描く本作[c] 2021 Universal Pictures

またホラー映画として肝心の、恐怖を構築するための技術的な工夫について語る。キャンディマンが登場するきっかけとなる“鏡”については「鏡の中に人がいる場合は、鏡の外にも中にも人がいるわけですから、とても難しいものでした」と振り返り、『The Marvels』でもタッグを組むプロダクション・デザイナーのカーラ・ブローワーへの感謝を述べる。「彼女は私が参考にしたものをすべて取り入れ、自分なりのものを持ち込んでくれました。私たちは反射や、闇と光、見えるものと見えないものを利用したいと考えていました。そのため、実際に存在する場所で撮影を行いました」と、リアリティが本作の恐怖演出に一役買ったことを明かした。

『キャンディマン』は公開中
『キャンディマン』は公開中[c] 2021 Universal Pictures

そしてダコスタは、撮影の準備段階で起きた奇怪な出来事を明かす。「ロサンゼルスのプリプロダクション・ハウスにいた時に、音が聞こえたので外を見ると、すべての窓が開いていて、いままで見たことがないような大きな蜂の大群が見えました。その時は慌てて窓を全部閉めたのですが、その後もハウスで蜂の死骸が見つかって…」と、映画とリンクするような体験を回想。最後に「鏡の前で“キャンディマン”と5回唱えたことがあるか?」という質問に対し、ダコスタは「一度もないし、きっとこれから先もしないと思います(笑)」と答え、顔をほころばせていた。

構成・文/久保田 和馬

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