アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第1回 ~アイドル戦隊登場!~|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第1回 ~アイドル戦隊登場!~

コラム

アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第1回 ~アイドル戦隊登場!~

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が今回、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説連載「ピンキー☆キャッチ」をスタートした。

ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」
ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」撮影/宮川朋久

第1回 ピンキー☆キャッチ

「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」

十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね…表向きは歌って踊れるアイドルグループ。でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ〜んなやっつけちゃうんだから!マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!

都築は悩んでいた。防衛省の職員である事を隠し、ここ一年は表向き芸能マネージャーとして徹している。スター☆ピンキーの正体は国家機密だが、今日までメンバーの個人情報は漏れることもなく、地球征服をたくらむ宇宙怪人の討伐も順調だった。しかし、ここへきてピンキー☆キャッチのアイドルとしての活動が軌道に乗りはじめ、討伐とのスケジュール調整が難しくなってきたのだ。ふと目の前のモニターを見上げる。新曲『こっち見てティーチャー』がオリコン一位を獲得し、国民的音楽番組・ミュージックパーティーの収録に臨んでいた。これまで歌詞は全てド素人の都築がやっつけで書き上げ、偽名のクレジットを付けていた。曲は音楽に詳しい後輩に作ってもらい、それらしく仕上げている。今回の新譜も思いつくまま10分程度で作ったものだった。
 
“こっち見てティーチャー 
頬を赤らめた私の視線に早く気づいて 
やっぱ見ないでティーチャー
もう少しだけ大人になるのを待っていてね”
 
このワードセンスは都築が四十五歳という年齢だからこそ生み出せた代物で、時代がかった響きが今は却って新鮮に受け止められたのかもしれない。やる気のない振り付けも相まって話題となり、SNSから火がついた。スタジオでは平場の立ち振る舞いにも慣れてきた三人が、大物司会者にも動じずトークをこなしている。
 
“こんな時、急に怪人が現れたらどうすれば…”
 
先月も収録中に本部から緊急召集がかかった。その時は小さなネットTVだったので、メンバーの体調不良を理由に強引な中断にも踏み切れた。しかしこうしたゴールデン帯の番組収録となると、中座するのは二の足を踏んでしまう。なにより自身がマネージメントをし、作詞まで手掛けたアイドルが売れていく喜びを覚え始めている自分にハッとする瞬間がある。

“冷静になれ。アイドル活動はあくまでも地球防衛のカモフラージュだぞ”

そう自分に言い聞かせている間にも、出演オファーで携帯は鳴り続けていた。
 
「都築さん、明日はお仕事休みたい。授業と歌と討伐でクタクタなんやけど」

車内で小柄な体を伸ばしながら、理乃が口を尖らせる。テレビ局から学園の寮への送迎も都築の役目だ。

「明日は歌無しだから今日よりは楽だよ。MCもジャンボリーさんだから美味しくしてくれるだろうし」
「…はいはい」

バラエティ番組は歌番組に比べて拘束時間が短い。それにジャンボリー木戸の番組にはどうしても出ておきたかった。今ジャンボリーにハマれば今後がでかい。でかくなってスケジュール調整に困るのは自分自身なのだが、都築にとって学生時代から観ていたスター芸人であり、浮かれた気持ちでオファーを受けてしまった。

「授業は午前中で早退ね。正門の前に迎え行くから」
 
そもそもアイドル活動を始めた理由は、学生が授業を抜け出すのに正当な理由が欲しかったからだ。それで芸能コースのある学校へ入学させたのだが、怪人討伐の為の目くらましであった芸能活動がここまで軌道に乗るとは想像出来なかった。三人とも元々アイドル志望者ではない。だからこそ適度に肩の力が抜けており、逆にそんなキャラクターがウケてしまったのだ。彼女達にとって、この忙しさに不満が募るのも仕方のない事だろう。それでもこの三人に頼るしかない現実がある。防衛省が保管している隕石に含まれていた『プリズムパワー』に耐えうる体質なのが、彼女達だったのだから。
 
ジャンボリー木戸の回しは完璧だった。そのMC力をスタジオで目の当たりにし、都築は感動すら覚えた。我の強い鈴香、控え目な七海、小生意気な理乃の個性を生かしつつ、大御所の俳優も巻き込み、全てを笑いに変えている。

“やっぱり引き受けて良かったな”
そう満足していると携帯が震え、慌ててスタジオを出た。
 
『 怪人出現。用賀の駅前へ急行せよ!』
 
怪人の出現は時と場合を選ばない。しかし何もこんな時に。それになぜ地球侵略の足掛かりに用賀を選ぶのだ。ボヤいていても仕方がない、時計を見ると14時を少し過ぎたところだ。収録の終了予定時刻は15時。終わるのを待っていたのでは間に合わない、すぐに切り上げなくてはならないだろう。スタジオに戻りプロデューサーを探した。セット裏のモニター前に陣取り、大口を開けて笑っている。都築の姿を認めると、こちらに小走りでやって来た。

「いやあ都築さん、彼女達凄くいいよ!グループで誰か一人がバラエティ担当ってのは少なくないけど、三者三様で個性があって面白いよ。また近々の収録もお願いしちゃうかも」
「…ありがとうございます」
 
無理だ。中抜けを言い出せる雰囲気じゃない。広いスタジオ。ズラリと並ぶ大きなカメラ。沢山の観覧客と大御所の芸能人達。それらを囲む歴戦の業界人独特のオーラ。テレビの現場というのは、地球を守るという大義名分をも飲み込むパワーに満ちている。 召集情報のメールを確認した。

『人間に擬態しているが、当局レーダーで怪人と断定。対象一匹。磁力を司り、用賀駅前で暴れている模様』
 
怪人では小物の部類に入りそうだが、奴等は特殊なバリアに守られており、警察や自衛隊では歯が立たない。彼女達が装着する、プリズムパワーを帯びたピンキーバングルが無ければ近づくことさえ出来ないのだ。

“まあ、用賀駅くらいなら”
 
困惑の中、一瞬でもそんなふうに考えてしまった自分を恥じた。長年中央線沿いに住んでいる事もあり、東急田園都市線沿いの平和を軽んじてしまった。用賀駅周辺にだって平和な日常を営む権利はある。
 
“だが一体どうすればいいんだ…”   

こうしてまごついている間にも、用賀駅前が壊滅してしまう。慌ててスタジオへ戻ると、最後の『おすすめグルメコーナー』のスタンバイ中だった。今日は大御所俳優の佐田林豪州がお気に入りの醤油ラーメンをおすすめするらしく、食欲をそそるこうばしい香りが充満していた。

“これだ!”
 
収録はいったん止まっている。全員分のラーメンを作るため10分間は再開しないだろう。慌てて先程のプロデューサーに駆け寄った。
 
「仁科さん、本当に申し訳ない。うち醤油ラーメンがちょっと…」
「あれ?競合?」
「申し訳ないです!そこまで大きなCMじゃないんですが、まだ契約期間が残ってまして…」
「資料送ったのに〜見落としちゃった?」
「すみません」

芸能人において何かしらのCMを受けると、他メーカーの同種商品は競合品となり、触れない褒めないが原則だ。無論ラーメンのCMなどやってはいないが、近年はネットCMや地方CMなど、その媒体は多岐に渡る。よほど詮索されない限りバレる事はないだろう。

「もう〜、じゃあしょうがないか。まあここは佐田林さんとジャンボリーさん中心だから問題は無いけど。メンバーをカメラが抜かなければいい?それとも外しちゃう?」
「申し訳ない、念のため外しで……」
「了解。都築さん一回貸しだからね〜」
 
ベテランプロデューサーで助かった。この辺の機転は利かせてくれる。怪訝な顔で戻ってきたメンバーを楽屋に入れる振りをして、そのまま駐車場のアルファードに乗せた。

「ラーメン食べたかったのになあ」

七海が漏らすくらいだ、他の二人の仏頂面は顔を見ずとも想像がつく。

「すまん。今度鈴香が前に言ってた、何だっけ?あそこ行こう」
「千里眼!行きたい行きたい!」
「了解、必ず連れてくから」

車内にカーテンを引き、移動中に着替えてもらう。不思議なパワーは発揮はするが、輝きながらコスチュームを自動装着出来るようなシステムはない。この時間の246号線下りは空いており、スムーズに用賀に到着出来た。用賀駅前はパニック状態だった。中年の男に擬態した怪人が放つ強力な磁力で、通行人が持つスマホが不具合を起こし、シルバーアクセの留め具の部分がグッてなって、マダムがビックリしたりしてた。
  
今日は登場のポージングも前振りの打撃戦も割愛だ。風情も何も無いが即ピンキー☆クラッシュをお見舞いし、灰になってもらった。何故なら急いでスタジオに戻らなければならないからだ。本来あり得ない形で収録の中座をしてしまった事の詫びと挨拶が残っている。帰り際、アルファードに乗り込むメンバーを、買い物帰りの主婦に見られてしまった。ゴテゴテした仮面を被っているので顔バレはしまいが、ナンバーから自分の個人情報が特定されかねない。次はもっと裏手に停めなければ。
          
汗だくでスタジオに戻ると既に15時半を過ぎていた。しかし幸いなことに佐田林のラーメン愛が爆発したらしく、押しに押した収録が終わったばかりだった。ジャンボリーをはじめスタッフ各位にも挨拶とお詫びを伝えることが出来、とりあえず事なきを得た。本部に戻り事務仕事を終えた都築は、帰り支度を整えながら考えた。今日は運が良かっただけだと。怪人は首都からの侵略を考えているらしく、東京以外に出没する事は今のところ無い。しかしこれが福生や八王子などの西東京だったら間に合っていなかった。これから大きな収録も増えていくだろうし、今回のように都合良く誤魔化せる訳もない。だがせっかく軌道に乗った芸能活動も疎かにはしたくない。
 
“討伐と芸能活動の両立か…”
 
声に出すともなく呟きながら、都築は吸い込まれるように醤油ラーメン店の暖簾をくぐった。

(つづく)

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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