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「この映画はアート業界へのアンチテーゼ」現代美術作家の加賀美健らが『皮膚を売った男』の魅力を熱弁!

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「この映画はアート業界へのアンチテーゼ」現代美術作家の加賀美健らが『皮膚を売った男』の魅力を熱弁!

チュニジア映画として史上初めてアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『皮膚を売った男』(11月12日公開)の公開記念トークイベントが9日、東京・銀座の蔦屋書店で開催。現代美術作家の加賀美健とアーティストの平山昌尚、実業家・アーティストの遠山正道が登壇し、アート業界に携わる者の視点で本作の注目ポイントなどを語った。

ヴィム・デルボアのアート作品から生まれた『皮膚を売った男』
ヴィム・デルボアのアート作品から生まれた『皮膚を売った男』[c]2020 – TANIT FILMS – CINETELEFILMS – TWENTY TWENTY VISION – KWASSA FILMS – LAIKA FILM & TELEVISION – METAFORA PRODUCTIONS - FILM I VAST - ISTIQLAL FILMS - A.R.T - VOO & BE TV

本作は自分自身がアート作品となった男の数奇な運命を描いた物語。当局の監視下におかれ国外へ出られなくなってしまったシリア難民のサムは、海外で離れ離れになってしまった恋人に会うため、偶然出会った現代アートの巨匠からあるオファーを受ける。それは背中にタトゥーをし、彼自身が“アート作品”になることだった。大金を得ることができ、展覧会のたびに海外にも行ける。恋人に会うためそれを承諾したサムだったが、次第に精神的に追い詰められていくことに…。

一足先に作品を鑑賞した3人は、口々に本作を絶賛。遠山は「アート側の視点から見ると、いま日本はアートバブルでマーケットが盛り上がっている。コロナの前は芸術祭がブームだった。同じアートでも違っていて、マーケットは売ることで価値をつける。この主人公の背中はインスタレーションのようなものなのにビジネスにも結びついてしまう、表現と仕組みが結びつく戦略。そういう意味でもおもしろかった」と、アーティストならではの視点で感想を述べる。

現代美術家の加賀美健
現代美術家の加賀美健

また加賀美は「この映画はアート業界へのアンチテーゼですよね」と指摘し、「コンセプチュアルなものが売れたほうがおもしろいと思うけれど、買う側もお金を出すのでまさにこの作品の背中のようなコンセプチュアルなものだと手元に残らないこともある。考え方にお金を出すような、買う側も頭を使うような多様性が出てくるといいですよね」と語った。

本作のアイデアの原点となったのは、2006年に芸術家ヴィム・デルボアが発表した背中にアートを彫った作品「TIM」。デルボアのインタビューを読んだという加賀美は「彼はアートは普遍的であるべきと言っていました。作品が時代にコミットしすぎると後世に残っていかないので、そういった作品を作らないといけません。時代を見てコンセプトを考えることも大切だと思いますが、考え方がいまの教育方針と逆ですよね」とデルボアの手掛けるアートのおもしろさを語る。


実業家・アーティストの遠山正道
実業家・アーティストの遠山正道

そして「全体的にシニカルな映画。アートをまったく知らない人が見たらどういうことを思うのか気になりました」と続ける加賀美。遠山も「アートの道を目指している人はどう思うんだろう。アート業界を嫌だなと思うのか、逆に一攫千金をねらいに行くのかな…」と語り、それには平山も「アート業界を目指している若い子の親御さんとかが『背中売ってきなさい!』とか言い出すようになるかもしれませんね」と、会場の笑いを誘う。

さらに「本作のように自身の作品をアイデアに映画を作ると言われたら?」との質問に対して、遠山が「現実では絶対にできない、映画でしかできないところがおもしろいですよね」と語ると、平山は「何十億円もする絵画を殴って壊しちゃったりできるのも映画でしかできない(笑)」。加賀美も「それがおもしろいですよね。ヒヤヒヤする感じが。おもしろいので僕は全然作品壊されてもいいと思います」と目を輝かせていた。

文/久保田 和馬

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