『日本沈没』『復活の日』…いま再び注目を集める小松左京作品の先見性と未来への警鐘|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『日本沈没』『復活の日』…いま再び注目を集める小松左京作品の先見性と未来への警鐘

コラム

『日本沈没』『復活の日』…いま再び注目を集める小松左京作品の先見性と未来への警鐘

今年で没後10年、生誕90年という節目を迎えた日本SF小説界の大家・小松左京。彼の代表作の一つである「日本沈没」を原作にしたテレビドラマ「日本沈没 〜希望のひと〜」が現在TBS系列の日曜劇場で毎週日曜夜21時より放送中だ。海底調査にあたる研究者たちを主人公に据えた原作から大きくアレンジした同作では、小栗旬演じる環境省官僚の奮闘を中心に、地震という自然現象を前に人間にはなにができるのかという問いかけを情緒たっぷりに描きだしている。本日放送される第6話からは、関東沈没という未曾有の災害からの復興に向けた物語がスタートする。

小松左京の代表作として何度も映像化されている「日本沈没」
小松左京の代表作として何度も映像化されている「日本沈没」「日本沈没<東宝DVD名作セレクション>」DVD発売中 発売・販売元:東宝[c]1973 TOHO CO., LTD.

この「日本沈没」の原作小説が刊行されたのは1973年。まさにその年に森谷司郎監督、中野昭慶特技監督によって映画化されると、同年の邦画作品ナンバーワンの大ヒットを記録。その後も映画版と同時進行で制作されたテレビドラマ版や、草なぎ剛主演による2006年の映画版、湯浅政明監督によるアニメ版「日本沈没2020」など、あらゆる形で再構築が加えられてきた。その間にも阪神・淡路大震災や新潟中越地震、東日本大震災といった甚大な災害が次々と発生してきた地震大国・日本。大きな災害が来るたび、また「日本沈没」が映像化されるたび、多くの人々がそれぞれの未来へ向けた手掛かりのようなものをこの作品に求めているようにも思えてしまう。

【写真を見る】「2020年を予見していた」と話題!小松左京作品で描かれる未来図の根底にあるものとは
【写真を見る】「2020年を予見していた」と話題!小松左京作品で描かれる未来図の根底にあるものとは[c]KADOKAWA1980・TBS

期せずして昨年、同じ小松左京原作のある作品が大きな注目を集めることとなった。それは「仁義なき戦い」シリーズで知られる深作欣二監督がメガホンをとり、ハリウッドのキャストも招いて制作された1980年代きっての超大作『復活の日』である。新種のウイルスが世界中で猛威を振るうという世界観の設定と、この原作小説が刊行されたのがオリンピックイヤーの1964年だったという因果も相まって、まるで2020年を予見していたのではないかという声が多く挙がり、急遽リバイバル上映も行われたほど。

東ドイツにある陸軍細菌研究所から新種のウイルス兵器が持ちだされ、事故が原因でウイルスが飛散。瞬く間にその脅威が世界中に蔓延していくことから物語が始まる『復活の日』。やがて南極大陸にいる863人を残し世界中の人類が死滅してしまう。その後、南極・昭和基地にいた地震学者の吉住は地球にさらなる危機が迫っていることを察知。それはアメリカを襲う垂直型地震によってミサイル報復システムが作動し、南極が爆撃される可能性があるということだった。数少ない人類の窮地を救うため、吉住はアメリカ隊のカーターと共に廃墟と化したワシントンへと向かうのである。

細菌兵器による世界の崩壊と、核ミサイルの脅威を描く1980年代屈指の超大作
細菌兵器による世界の崩壊と、核ミサイルの脅威を描く1980年代屈指の超大作[c]KADOKAWA1980・TBS

第二次大戦後の戦禍に少年時代を過ごした1931年生まれの小松と、1930年生まれの深作監督。両者の平和への強い願いや、人類の無常さと罪深さ、そしてそれでも生きようとする貪欲なまでの生への執着を、戦後の世界を大きな不安に陥れた核ミサイルの脅威を軸にして描きだした『復活の日』。それが原作の誕生から半世紀以上、映画化から40年という長い歳月を経て現代にも通じてしまうというのは、小松の先見性の高さに驚かされると同時に、あまりにも不幸な奇跡のようにも感じてしまう。人類の生死を左右する脅威に対してどのような対処を行うべきかというシミュレーションは、『日本沈没』で描かれる天災と同様、“その時”が来て初めて意味を持つ。それもある意味、小松作品に描かれてきた登場人物たちの動きに投影された人間の業のようなものであろう。


小松左京作品は1970〜1980年代にかけて複数映画化されている
小松左京作品は1970〜1980年代にかけて複数映画化されている「エスパイ<東宝DVD名作セレクション>」DVD発売中 発売・販売元:東宝[c]1974 TOHO CO.,LTD.

この2作以外にも、日本のSF作品の領域を打ち破るスケールを有した小松作品は複数本が映画化されている。超能力を持つスパイが悪の超能力者集団に立ち向かう『エスパイ』(74)は少々変わり種としても、『首都消失』(87)は先述の2作品と同じく現実へのシミュレーション作品として興味深いものがある。突如として現れた“雲”によって東京の首都機能が完全に麻痺してしまう。これもある意味、昨年あたり現実に充分起こり得たシチュエーションに限りなく近いのではないか。

また一国の危機を描いた『日本沈没』や『首都消失』、地球規模での危機を描いた『復活の日』よりもさらに大きい、宇宙規模で物語が展開した『さよならジュピター』(84)も忘れてはなるまい。太陽系にブラックホールが接近することを阻止するために、木星を爆発させる。なんとも突飛な設定ではあるが、劇中で描かれたいくつもの宇宙探査に関するディテールは、少なからず現実にも影響をもたらしたとも言われている。もしかすると、同作も近い将来に「現在を予見していた」作品といわれる時が訪れてしまうのかもしれない。

「角川映画祭」は全国順次開催中
「角川映画祭」は全国順次開催中[c]KADOKAWA

11月19日より開催中の「角川映画祭」では、上で紹介した『復活の日』が上映されている。角川映画40周年の際に製作された4K修復版での上映で、その鮮明な映像は物語のリアリティを増幅させ、作品の持つ今日性をより一層高めている。また同作はAppleTVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでも4K配信中なので、映画祭に足を運べないという人も自宅で楽しむことができる。この機会にいま再びの注目を集める小松左京作品に触れ、またいつやって来るかわからない“その時”へ備えてみるのも悪くないだろう。

文/久保田 和馬

■角川映画45年記念企画「角川映画祭」
11月19日(金)より、テアトル新宿、EJアニメシアター新宿ほか全国順次開催中

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