「信長のシェフ」から『真夜中乙女戦争』まで――俳優・永瀬廉の歩みを振り返る
1月21日(金)公開予定の映画『真夜中乙女戦争』。若者を中心に絶大な支持を集める新鋭作家、Fの同名小説の映画化とあって、公開前から話題を呼んでいる。
本作で主人公の“私”を演じるのは、永瀬廉(King&Prince)。『弱虫ペダル』(20)にて、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」では主人公、百音(清原果耶)の幼なじみである及川亮役を好演。土曜ドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』の主演など、俳優としていままさに飛躍の時を迎えている。そんな新進気鋭の永瀬が出演した映像作品を振り返りながら、3度目の主演映画となる『真夜中乙女戦争』で見せる彼の新たな魅力についても深堀りしていく。
初の映像作品「信長のシェフ」で見せた“訴えかけてくる力”
永瀬にとって初めての映像作品は、2013年のドラマ「信長のシェフ」で、史実上の人物である森蘭丸役を演じた。あどけなさを残しつつも、意志の強さをうかがわせる瞳は当時から印象的だった。出番こそ多くはなかったが、敬愛する父を亡くしてなお志を高く持ち、主君と共に死ぬ覚悟にある少年をまっすぐに演じた。当時、世間一般に“永瀬廉”という名が知られていたかといえばNO。まだまだ一部のファンのみが知る存在だっただろう。だからこそ“ジャニーズ”という枠にとらわれない目線で評価されたともいえる。粗削りだが、感情むき出しでぶつかってくるような芝居は、胸にくるものがあった。この蘭丸役が記憶の片隅に残っている視聴者は、『真夜中乙女戦争』での“私”の芝居をどう見るだろうか。もちろん成長を感じるだろうが、訴えかけてくる力はいまも共通する永瀬の武器であるように思う。
関西ジャニーズJr.の一員として出演した2014年の映画『忍ジャニ参上! 未来への戦い』を経て、永瀬が本格的に演技のフィールドに進出したのは2019年。この年、「俺のスカート、どこ行った?」、「FLY! BOYS, FLY! 僕たち、CAはじめました」、映画『うちの執事が言うことには』(19)と3作品に出演し、うち2作品では主演を務めている。
映画初主演作となった『うちの執事が言うことには』は、高里椎奈による人気ミステリー小説の実写化作品だ。映画出演2本目にして主演という大役について、当時は永瀬自身、「あまり演技経験がないので、プレッシャーも感じました」と明かしている。
演じたのは、社交界の名門として名高い烏丸家第27代当主、烏丸花穎。浮世離れした世界観に加え、上流階級育ちという役どころ。言葉遣いやセリフ回しも独特だった。元来ピュアで優しい心を持つ花穎が成長していくさまは、初主演という初々しさともマッチしていたように思う。とはいえ正直なところを述べれば、アイドル映画的、ビジュアル先行作品という印象は否めなかった。
だからこそ『弱虫ペダル』で見せた俳優としての成長に驚かされた。公開当時、累計発行部数2500万部を突破していた人気漫画の実写化での主演――またしても大きなプレッシャーがあったことと思うが、永瀬自身も「1番わかりやすく(主人公の)坂道くんに近付くために、外見を寄せた」と語ったとおり、眉の上で揃えた前髪にメガネ姿というキャラクタービジュアルを再現。その思いきりのよさには、原作ファンも好意的な姿勢を見せた。
同作においても成長のあるキャラクターを演じており、“役の成長”を表現している。内気で友達がいなかった坂道は、自転車競技を通して初めての仲間に出会い、湧き上がるような熱く強い気持ちを知る。そしていつからか、仲間の心を動かすようになっていく。ストーリーの前半と後半では、演じる温度もまるで違っただろうが、永瀬は坂道の成長と変化を実に自然に表現していた。
見どころはやはりロードレースのシーン。手に汗握るシーンが続く。撮影当時は舞台出演も並行していた永瀬だが、その合間を縫って厳しいトレーニングに打ち込んだ。テスト走行したプロに「俳優が走るには無理じゃないか」と言わしめた坂においても、すべて本人が挑戦したという。身体を張るどころか、すべてをさらけ出す気迫で演じ切った本作。“格好よく見られる”ことを仕事とするアイドルが、なりふり構わず役を生きようとする姿に、永瀬の真摯な姿勢を感じた。