『セーラー服と機関銃』『Wの悲劇』から「エール」へ、薬師丸ひろ子と名曲とのひそやかな関係|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『セーラー服と機関銃』『Wの悲劇』から「エール」へ、薬師丸ひろ子と名曲とのひそやかな関係

コラム

『セーラー服と機関銃』『Wの悲劇』から「エール」へ、薬師丸ひろ子と名曲とのひそやかな関係

1980年代に出演した幾多の角川映画で国民的アイドルとして一世を風靡し、2000年代に入ってからは「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ(05~12)の心優しい母親役などを確かな演技力で体現して観る者を魅了してきた薬師丸ひろ子。いまや日本映画界を代表する女優の一人だが、その成功は今年、歌手活動40周年を記念したオールタイムベストアルバム「Indian Summer」をリリースし、「第72回NHK紅白歌合戦」にも代表曲「Woman“Wの悲劇”より」で2度目の出場を果たす、彼女の澄んだ歌声と無縁ではないだろう。

実際、彼女が歌った角川映画の主題歌は時代や世代を超えて多くの人たちから愛されているし、2013年の連続テレビ小説「あまちゃん」の劇中で歌唱した「潮騒のメモリー」も大ヒット!それにしても、薬師丸の歌に誰もが心を奪われるのはなぜなのだろう?ここではその秘密を女優の仕事と照らし合わせながら検証していきたい。

薬師丸は、78年に高倉健の主演作『野性の証明』のヒロイン役で映画デビュー。「お父さん、怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」という名ゼリフと力強い眼差しでその清楚なキャラを早くも印象づけると、大林宣彦監督による81年の『ねらわれた学園』で着実に人気に火をつけ、相米慎二監督が手がけた同年の『セーラー服と機関銃』で大ブレイク!

【写真を見る】ヤクザの組長となった女子高生を演じた『セーラー服と機関銃』で鮮烈な存在感を放った
【写真を見る】ヤクザの組長となった女子高生を演じた『セーラー服と機関銃』で鮮烈な存在感を放った[c]KADOKAWA 1981


映画も当時の東映の興行記録を塗り替える大ヒットに導いたが、本作を始め角川映画の配給のほとんどを担当した東映洋画配給部OBで、現在は執行役員を務めている遠藤茂行氏は「(赤川次郎の)原作のよさや相米監督の演出の素晴らしさもありますが、ブレイクに最終的に火をつけたのは、本人が主題歌を歌ったことでしょうね」(2016年7月11日発売のクレタパブリッシング「昭和40年男」vol.38より)と力説する。

その言葉が裏づけるように、女子高生がヤクザの組長になる奇抜な設定の本作を観た観客は、機関銃をブッ放しながら薬師丸ひろ子が発する「カ・イ・カ・ン!」の陶酔しきったセリフに熱狂。その後に流れる、彼女が歌う同名の主題歌もオリコン1位、年間売上2位の大ヒットを記録した。

だが、実はこの主題歌、もともとは楽曲を提供した来生たかおが歌う予定だったが、相米監督の「オマエの映画だから、オマエが歌え!」のひと言で、薬師丸が急遽歌うことになったという。相米監督は彼女の普段の発声を聞きながら“歌える!”と確信したに違いないが、その読みは大当たり。薬師丸のために書かれたのではない、十代のアイドルが歌うにしてはハードルが高いあの難しい曲を天性のスキルで歌い上げ、薬師丸の存在を映画ファン以外にも知らしめたのだ。

“主演女優が主題歌を歌う”。この成功の方程式は、以後、角川三人娘の次女・渡辺典子や三女・原田知世の主演映画にも錚々たるアーティストに楽曲を依頼する形で踏襲され、足並みを揃えるように、当時の角川映画は勢いのある気鋭の映画監督たちを起用。そうすることで、ただのアイドルではなく、演技力や表現力も兼ね備えた本格的な女優へと育て上げようとしたのだろうが、中でも仕事と真っ直ぐ向き合う薬師丸はその図式にもピタリとハマり、すくすくと成長していった。

『探偵物語 角川映画 THE BEST』 Blu-ray
『探偵物語 角川映画 THE BEST』 Blu-ray価格:2200円(税込) 発売元・販売元 KADOKAWA [c]KADOKAWA 1983

順を追って振り返ってみよう。大学受験による休業後に撮った角川での主演映画第3作『探偵物語』(83)の彼女はヘアスタイルをボブに変え、少し大人っぽい魅力を強調。日活ロマンポルノや『遠雷』(81)で確かな手腕を発揮した根岸吉太郎監督のもと、薬師丸は松田優作が演じた探偵に想いを寄せる女子大生の淡い恋心を繊細に体現し、『セーラー服と機関銃』のときとは違う、彼女のために書き下ろされた同名の主題歌(作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一)も再び大ヒットした。

『メイン・テーマ』主題歌の歌詞「愛ってよくわからないけど傷つく感じが素敵」は、作品のキャッチコピーにもなった
『メイン・テーマ』主題歌の歌詞「愛ってよくわからないけど傷つく感じが素敵」は、作品のキャッチコピーにもなった[c]KADOKAWA 1984

さらに第4作『メイン・テーマ』(84)では、『家族ゲーム』(83)などの森田芳光監督のトリッキーな作品世界、東京から沖縄まで車で移動するロードムービーのスタイルのなかで、薬師丸はそれまでとは違うコミカルな芝居も自分のものに。主題歌は男性の視点で書かれた南佳孝のオリジナル曲の歌詞を松本隆が当時二十歳の彼女ために書き直したものだったが、薬師丸は愛することの喜びと悲しみを経験した大人と子どもの間で揺れる女性の心情を綴ったこの曲をのびやかな声で歌い上げ、同年代の女性ハートを鷲づかみに。映画のヒットを後押しする結果となった。