黒沢清×柳下毅一郎が“ホラー映画の帝王”の魅力を語り尽くす「カーペンターは娯楽映画の一つの基準」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
黒沢清×柳下毅一郎が“ホラー映画の帝王”の魅力を語り尽くす「カーペンターは娯楽映画の一つの基準」

イベント

黒沢清×柳下毅一郎が“ホラー映画の帝王”の魅力を語り尽くす「カーペンターは娯楽映画の一つの基準」

“ホラー映画の帝王”と称される鬼才ジョン・カーペンターが1980年代に手掛けた代表作3本を、4Kレストア版で上映する特集上映「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」。その開催初日を迎えた7日、ヒューマントラストシネマ有楽町での『ニューヨーク1997』(81)上映後にトークイベントが開催され、映画監督の黒沢清と映画評論家の柳下毅一郎が登壇。本記事では、たっぷり語られたイベントの模様を、フルボリュームでお届けする。

カート・ラッセル演じる元特殊部隊員の囚人スネークが大統領救出に繰り出す!
カート・ラッセル演じる元特殊部隊員の囚人スネークが大統領救出に繰り出す![c]1981 STUDIOCANAL SAS - All Rights Reserved.

カート・ラッセルが主演を務めた『ニューヨーク1997』の舞台は、犯罪率400%を超えたニューヨーク。政府はマンハッタン島をアメリカ最大の監獄として囚人たちを閉じ込めていたが、そこへ大統領を乗せた飛行機が墜落。大統領は監獄のギャングたちの人質になってしまう。そんななか元特殊部隊の囚人スネークは、無罪放免となるため24時間以内に大統領を救出する任務に挑むことに。

今回のレトロスペクティブでの上映が、劇場公開以来およそ40年ぶりのリバイバル上映とあって、会場には熱狂的なカーペンターファンが多数集結。パンフレットにも寄稿文を執筆している黒沢は、熱気に包まれた満席の会場で作品を鑑賞。その感想からスタートしたトークイベントでは、本作を軸にしてカーペンター作品の魅力が語られていく。

「スネークはなにもしていないのに映画が成立してしまう」(柳下)

「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」開催初日にトークイベントが行われた
「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」開催初日にトークイベントが行われた

柳下「黒沢さん、映画をご覧になってみていかがでしたか?」

黒沢「劇場で観るのは久しぶりで、当時は大学を出た直後くらいだったと思います。正直そこまで期待しておらず、封切りではなく二番館に降りてきてから観たと記憶しています。その頃のジョン・カーペンターは『ハロウィン』や『ザ・フォッグ』もあったんですが、どれも嫌いではないけれど、悪くないという程度の印象でした。しかし『ニューヨーク1997』を観た時に、一瞬で評価がぐんと上がりました。1981年ごろと言えば『レイダース/失われた聖櫃<アーク>』や『スーパーマンII 冒険篇』のような豪華なヒーロー映画が相次いで公開されていたなかで、このようなアウトローぶり。1970年代前半くらいまでは『ダーティ・ハリー』のようにアメリカ映画にもアウトローな映画はありましたが、どこか錯綜している印象もあって。なので非常にわかりやすい活劇で、映画の体裁を踏みながらここまでアウトローな主人公を描けるということに驚がくいたしました」


柳下「スネークはなににも屈しないんですよね。でも何度も観返すたびに思うことなのですが、スネークって本当に驚くほどなにもしていないんですよね(笑)。会う人みんなに『お前は死んだと思ってたぜ』と言われたり、伝説的な存在として話を盛り上げたりしてくるんですが、なにもしてなくない?と。それで映画が成立してしまうのはすごいですよね」

黒沢「そうですね。しかもかなり後半になるまで急いでもいないですし」

柳下「歩いてますよね」

黒沢「時間がないなかでゆっくり歩いて、いまだったらジェームズ・ボンドでさえ拳銃持って訓練された動きで素早く動いたりしますが、スネークはだらんと拳銃を下げたままで」

柳下「マシンガンまったく撃たないですよね。多分映画が始まってから40分くらいまではほぼ撃たないはずです。いまだったらあり得ないですよ」

当時のニューヨークの怖い雰囲気が『ニューヨーク1997』に表れていると語った黒沢清
当時のニューヨークの怖い雰囲気が『ニューヨーク1997』に表れていると語った黒沢清[c]1981 STUDIOCANAL SAS - All Rights Reserved.

黒沢「ただ今回観ていてうまいと思ったのがあって、これは若い人にはあまりピンと来ないと思うのですが、ニューヨークって怖いところでしたよね。僕も当時は行ったことなかったんですが、1990年頃に行った時にはまだ怖いところも残っていて。1970年代や1980年代前半までは怖いイメージでした」

柳下「確かに『タクシー・ドライバー』とか『ドリラー・キラー』とか、映画から受けた印象としては1970年代のニューヨークといえば麻薬の売人やジャンキーがウロウロしているものでしたからね」

黒沢「そうそう、そういうのをスネークの動きと共にいろいろと見せてくれるんだなと、大変興味深く思いました」