アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第4回 ~お笑い担当~|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第4回 ~お笑い担当~

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第4回 ~お笑い担当~

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が今回、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説連載「ピンキー☆キャッチ」をスタートした。第4回。

 ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」
ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」撮影/宮川朋久

ピンキー☆キャッチ 第4回

「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身! この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから! マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官! 今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!

都築は悩んでいた。理乃が「グループ内のお笑い担当」を自称し始めたのだ。大御所相手にも堂々と立ち振る舞う鈴香。冷静沈着でチクリと鋭い発言をする七海。そして三重訛りの関西弁ではしゃぎ倒す理乃。グループのバランスとしては抜群で、最近はバラエティ番組のオファーが絶えない。

「いや~~苦~い!! なんやのこのお茶~!!」

表情豊かで、リアクションも大きい。企画のオチはいつも理乃が受け持つし、大御所MCやプロデューサーからのウケもいい。しかし、学生時代から『ごっつええ感じ』を毎週録画し、『ボキャブラ天国』にのめり込み、上京したての頃は劇場にも足繁く通い詰めたお笑いマニアの都築はこう思う。あれは笑いを作っているのではなく、笑いにしてもらっているのだと。笑いは難しいのだ。

「ただはしゃぎ回るのと、面白いとは全く別物だぞ」

大学時代の飲み会で、騒ぎ立てる事がお笑い芸人然としていると勘違いする同期がいた。彼にどうしても我慢が出来ず言い放ったこの一言で、山岳サークルで浮いてしまった過去も持っている。今日の収録でも理乃は元気だった。

「それでな、何故かその犬が私にだけガブ~って噛んできてんやんか! 何で私だけやねんっ!!」

そう、元気なのだ。テンションが高いのみで、特に面白みは無い。しかし本来、元気で明るい女の子で充分なのだ。笑いへの誘導はその道のプロが担ってくれる。それでいいものを自らが「お笑い出来まっせ感」を出してしまうと変にハードルも上がり、ともすると煙たがられてしまう危険性もある。

「まあ今日の服装もジャーキーっぽいですもんね」

MC芸人、レッドプラトンの河田のツッコミでスタジオは爆笑となった。理乃はイジられたレザージャケットで顔を覆うような仕草で応えている。今のウケを自分の手柄と考えてしまうか否かは大きな分かれ道だ。しかし残念ながら理乃は前者なのだ。収録帰りのアルファードを運転しながら、都築は思い切って問いかけてみた。

「なあ理乃、自己紹介のキャッチフレーズなんだけどなぁ」
「ん? 何?」
「俺は・・俺はな、前の方が良かったかなあって思うんだ」
「前の?『三重が生んだ元気印』?」
「うん、そっちの方が似合ってたかなあって」
「そう? 私は今の好きやけどなあ。ピンキー☆キャッチのお笑い担当、ぶっ飛び理乃助でぇす!!」
「お笑い担当・・・ぶっ飛び理乃助なぁ・・」

お笑い好きの七海も実は思うところがあるのだろう、バックミラーには外の景色を眺めつつも、強ばった表情が写っている。鈴香はいつものように携帯ゲームに勤しみ、我関せずだ。『お笑い担当』はもとより、『ぶっ飛び理乃助』は流石に背筋が凍る。自己紹介の度にこのキャッチフレーズを叫ぶのだ。しかもご丁寧にダブルピースのオマケも付いてくる。ひな壇芸人のギョッとする表情を見たのも一度や二度ではない。

「だって私のファンもSNSに書き込んでくるもん。“下手な芸人より笑いとってるよね”って」
「うおっ!」

脊髄を反射させるような発言に、思わず声が漏れた。うおっと声が出てしまう事などそうそうない。何事かと訝しがる三人に、道路に軍手が落ちていたと誤魔化した。

「なあ七海はどう思う? 前のキャッチフレーズの方が合ってたよなあ?」
「ん・・まあ・・・分かんないですけど・・」

七海は“聞いてくれるな”といった表情で顔を更に外に向けた。分かっているのだ。このテンションの痛々しさが分かり過ぎているからこそ、この話題についてはまともに向き合えないのだ。アイドルグループで『お笑い担当』と自称するメンバーは少なくない。自己発信のケースもあるだろうし、事務所サイドの意向で言わせている場合もあるだろう。共通点は“誰もが早口で大声”であることだ。その立派な個性を加工せずに生かせばいいものを、変に名目をつけてしまったが故に潰えてしまう。現にお笑い担当と名乗り、そこから大きく飛躍した前例を都築は知らない。理乃は理乃で素晴らしい個性を持っている。この子がいる事で場は華やぐし、楽しい気持ちになれる。肉で言えば塩を少し付けるだけでも食べられる優れた素材だ。そこにわざわざ余計なソースをぶちまける必要は無いのだ。都築は思案に暮れながらハンドルを握った。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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