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「トキメキ☆成均館スキャンダル」『バーニング』『声もなく』まで…ユ・アインの演技に一貫する“大人びた少年”の顔

コラム 2022/2/5 7:30

「トキメキ☆成均館スキャンダル」『バーニング』『声もなく』まで…ユ・アインの演技に一貫する“大人びた少年”の顔

映画『声もなく』(公開中)の完成度の高さは、手掛けたホン・ウィジョン監督の新人監督らしからぬ冷静で行き届いた目線もさることながら、主演のユ・アインに拠るところが大きい。日本の若手俳優からはここ最近、韓国のショービズ界への羨望の声が止まないが、そうした業界への信頼度を高めているのは、ユ・アインのような俳優の存在である。そこで今回は、芸達者がひしめく韓国芸能界の先陣にいるユ・アインのフィルモグラフィから印象的な役柄をピックアップし、演技の真髄を考察したい。

【写真を見る】ユ・アインは『声もなく』(20)のために15キロ体重を増やし、髪も剃ることで田舎臭い見た目の人物を作り上げた
【写真を見る】ユ・アインは『声もなく』(20)のために15キロ体重を増やし、髪も剃ることで田舎臭い見た目の人物を作り上げた[C]2020 ACEMAKER MOVIEWORKS・LEWIS PICTURES・BROEDMACHINE・BROCCOLI PICTURES

社会から疎外された青年の中に存在する幼い素顔、『声もなく』

『声もなく』でユ・アインが演じているのは、人殺しも辞さない犯罪組織の下請けで、相棒のチャンボク(ユ・ジェミョン)とともに死体処理を仕事にして生きる青年テイン。彼は監督の求めに応じて15キロ体重を増やし、髪も剃ることで田舎臭い見た目の人物像を作り上げた。こうしたキャラクター造形のおかげで、シリアスなシーンもどこかとぼけたものになる。映画の主なストーリーラインである、誘拐事件に巻き込まれていくアウトサイダーの物悲しさには、そこはかとないユーモアが加わったのだ。

口が聞けないテインと誘拐された少女チョヒ(ムン・スンア)の連帯は観客の胸を熱くさせる
口が聞けないテインと誘拐された少女チョヒ(ムン・スンア)の連帯は観客の胸を熱くさせる[C]2020 ACEMAKER MOVIEWORKS・LEWIS PICTURES・BROEDMACHINE・BROCCOLI PICTURES


この映画に登場する主要人物は、みな社会の主流ではなく周辺で生きる者だ。誘拐された少女チョヒ(ムン・スンア)でさえも、女の子だからと家族から身代金を払うことを渋られている。そうした社会から疎外された彼らの中で、ユ・アインが扮するテインが一層際立つのは、口が聞けないという点だろう。劇中、どういう理由で口が聞けなくなったのかは明かされないが、ハンディで彼が背負った重みは、想像に難くない。テインの仕事はハードなものだが、トラックの中で眠りこけている顔だったり、妹たちと遊びまわる姿は無邪気で、テインの中に存在する幼い素顔を見ることができる。

口が聞けないせいで、彼は年齢よりも早く大人にならなければならなかったのではないだろうか。このように、声で表情に変化をつけられない難しさは、ユ・アインにとっては人物造形に厚みを持たせるファクターとなった。同じく年齢の割に大人びているチョヒとの類似と絆が浮き彫りになるからこそ、チョヒのため起こす彼にとって一世一代の行動が、社会から疎外された人間たちが連帯する瞬間として、観客の胸を熱くさせるのだ。

ミステリアスな雰囲気から狂気に満ちた姿まで、“韓国のディカプリオ”ならではの名演技

チョン・ジンスが恐怖と悲劇を抱いて生きてきた自分の過去を告白するシーン
チョン・ジンスが恐怖と悲劇を抱いて生きてきた自分の過去を告白するシーンJung Jaegu | Netflix

ワイルドとナイーブを兼ね備えた、大人びた少年。こうしたユ・アインのイメージは、役柄というより、彼に宿るエッセンスではないだろうか。たとえばNetflixオリジナルシリーズでヨン・サンホ監督によるドラマ「地獄が呼んでいる」では、民衆を熱狂させる新興宗教の若き教祖チョン・ジンスを演じている。彼の役割は前半がメインであるが、登場によってドラマの方向性を決めたと言ってもよい。

妻を殺された刑事チン・ギョフン(ヤン・イクチュン)のような人間の心の隙間に入り込もうとする優しい声色を持ちつつ、漆黒の瞳と座った目つきで、他人を寄せ付けないキャラクターを表現した。終盤、教祖は自身が持つ過去を告白する。恐怖と悲劇を抱いて生きてきた胸のうちの表現は圧巻だった。このドラマには、ユ・アインが持つ成熟した魅力と少年性が、人心を掌握し操るカリスマ性と、その中にある繊細さとして上手く反映されている。

ユ・アインは“善と悪が共存する顔”と言われている
ユ・アインは“善と悪が共存する顔”と言われているNetflix

李氏朝鮮第21代国王の英祖と、その息子である世子に起きた「壬午士禍」、いわゆる「米びつ事件」を題材にしたこの映画『王の運命(さだめ)―歴史を変えた八日間―』(15)。若くして指導者になることを求められながら、感受性が豊かであるがゆえにソン・ガンホが扮する英祖と激しく衝突し、ついに父の手によって命を落とす悲劇で、ユ・アインは驚くほどの精彩を放って世子を演じた。穏やかさが垣間見える面影から、次第に狂っていく形相への変調は見事だった。彼は自身の野生味と純粋さを、鬼気迫る姿を見せながらやがて犠牲となる悲壮美として世子を演じたのである。

この頃ユ・アインは“韓国のディカプリオ”とも呼ばれていたが、英祖と対峙するシーンの撮影中、安全バーではなく本当に石畳に頭を打ちつけたというエピソードからは、レオナルド・ディカプリオが『ジャンゴ 繋がれざる者』(12)で大けがを負いながらも演技を続行したという逸話が思い出される。韓国ではソン・ガンホとコンビを組んで個性を発揮する若い俳優を“ソン・ガンホの男”と呼ぶ向きがある。しかし、ユ・アインのなにかが乗り移ったような世子は、明らかに映画を我が物に支配してしまっていた。この役で初めて、韓国のアカデミー賞と称される青龍映画賞主演男優賞を受賞したのも納得だ。

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