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罪を犯した少年だけが悪いのか?韓国ドラマ「未成年裁判」が社会の無関心を撃つ

映画ニュース 2022/3/25 20:30

罪を犯した少年だけが悪いのか?韓国ドラマ「未成年裁判」が社会の無関心を撃つ

Netflixで現在配信中の「未成年裁判」が好評を博している。2月25日に配信開始され、2月第4週(21~27日)は3位に入り、翌3月第1週(2月28日~3月6日)は1位に浮上。3月16日には、米動画配信大手ネットフリックスが全世界の視聴時間を基に毎週更新する人気作品リスト「TOP10」で、テレビ(非英語)部門の1位を獲得し、2週連続の1位だった。近年の韓国では、青少年のかかわる事件が凶悪化するにつれて、触法少年(刑罰法令に触れる行為をした少年)に対する国民の目は厳しい。そうしたなかで本シリーズは、大衆を魅了するドラマ性を保ちながらも、韓国の映像作品として初めて少年法を真正面から取り扱い、少年法厳罰化を期待する国民感情に一つの問題提起をする。

「未成年裁判」の製作背景とは

「未成年裁判」は実際に韓国で起きた凶悪な少年犯罪事件を元に作られているが、リアリティだけで人々の興味を煽るものではない。企画は本作がデビュー作となる新鋭・脚本家のキム・ミンソク氏が、裁判の後も法廷を出た少年たちの人生を見守ることになる少年判事に関心を持ち、4年余りを費やして少年審判経験のある判事と関係者を取材し、アドバイスをもとに脚本を練り上げた。特徴的なのは、少年刑事合議部というフィクションの部署を設定した点だ。少年審判は、実際には一人の判事が行う裁判の形式を取っているが、単独で事件を取り扱ってしまうと各々の関係性が見えてこなくなる。取材で出会ったある判事の助言で生まれた脚色によって、多様な背景を持つ人物が、それぞれの意見をぶつけ交錯することでバランス感覚を持った物語が立ち上がる。少年犯罪を義務的に裁くのではなく、犯罪のバックグラウンドにも目配せを忘れない厚みのあるドラマが成功した。

こうした製作陣と呼吸を一つにした名優たちによって完成度が高まった本作。特にキム・ヘスイ・ソンミンのフィルモグラフィに注目すると、今回のキャスティングは何か偶然とは思えないものがある。かつてキム・ヘスは、犯罪被害者が加害者の罪を赦そうとする心の重みをつぶさに追った韓国SBSのドキュメンタリー番組『赦し〜その遥かなる道』(07)でナレーションを務めた。作品に携わり、様々なことを考えたうえで、出演料全額を犯罪被害者支援団体に寄付したそうだ。


また本作でカン部長判事に扮したイ・ソンミンは、娘を少年犯罪で失った父親が犯人たちに復讐する『さまよう刃』(14)で、私的制裁を何とか止めようとする刑事を演じた。彼はその時のことを「少年犯罪の問題は単純ではない。どの立場に拠るかで意見が異なる可能性がある」と痛感したと振り返る。触法少年たちを憎むシム・ウンソクと、少年の未来のために法改正を望むカン部長にそれぞれ扮した二人の演技には、過去の役で得たスタンスが支えているような力感がある。

韓国で高まる少年法改正の声

ここで、韓国における少年犯罪をめぐる状況に触れておきたい。先日次期大統領が決まった韓国だが、文在寅政権には、国民が大統領府へ直接意見や要望を伝え、政府関係者が回答するという「国民請願制度」があった。20万名以上の署名で答弁が行われるこの制度の第一号となったのが、「冠岳山女子高校生集団リンチ事件」という少年犯罪事件だ。男女の高校生総勢10名が、一人の女子高生に対して集団リンチや強制わいせつを含む暴行を加え社会に衝撃を与えたにもかかわらず、主犯格の女子生徒でさえ軽い処分で済まされた。被害者の姉が青瓦台のホームページで少年法改正(刑事処罰可能年齢の引き下げ)の請願を呼びかけると、多くの国民が署名、20万人以上を超えた。
実際、触法少年事件は着実に増加し、再犯率も高い。文政権下では少年の凶悪な事件が起こるたびに少年法の引き下げが議論されたが、厳罰化には慎重だった。次期大統領の尹錫悦氏は、世論を反映する形で大統領選挙当時から少年法改正を公約し、適用年齢を満14歳未満から12歳未満に下げ、学校暴力・性暴力など重犯罪に対する触法少年適用例外を積極的に検討すると発表していたが、どうなるだろうか。

触法少年の複雑な背景を描く『未熟な犯罪者』

韓国では本シリーズより以前から、深刻になる少年犯罪を題材にした作品が様々な視点で作られてきた。多くは被害者の父母が私的に制裁を加えるリベンジ・ムービーで、被害者に寄り添う一方で「少年犯罪、厳罰化あるのみ」という世論の声を代弁する作品が多かった。そうしたなか、加害者と被害者、それぞれの背景に真摯な眼差しを向ける作品もある。

たとえば映画『未熟な犯罪者(12)は、第86回アカデミー賞外国映画部門に韓国映画作品として選出されるなど、高い評価を受けた作品だ。動機も手口も稚拙な犯罪を繰り返し、少年院に送られていたジグ(ソ・ヨンジュ)と、死んだと聞かされていた母ヒョスン(イ・ジョンヒョン)の初めて親子生活を描いている。17歳で出産し、すぐに失踪した母ヒョスンは、見た目も行動も実に幼い。ジグを引き取ったのも思いつきのようにみえる。しかし、若かった彼女が苦しい時、誰にも頼れなかった孤独は彼女一人の責任ではない。上映の際、カン・イグァン監督は、少年たちの非行が社会問題のしわ寄せの結果だと指摘した。1997年のアジア通貨危機以降、韓国では離婚が増え、見捨てられた子供たちが行き場を失い、軽犯罪を繰り返しているのだという。多くが平凡な子であるにもかかわらず、少年犯罪をことさら特異で猟奇的なものとしか報道しないマスコミや、触法少年を見放してしまう社会こそが元凶ではないかと指摘した。社会が非行少年を排除するのではなく受け入れることから更生のスタートラインに立つのだというメッセージを明確に打ち出し、少年法厳罰化の流れに疑問を投げかけた本作は、韓国では少年院と保護観察所で試写会を開催された。

少年犯罪は大人の問題でもあることを示した『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』

2004年に密陽で起きた男子高校生による女子中学生集団性暴行事件では、事件をインスピレーションに映画が撮られ、少年犯罪の残酷さとともに作品の芸術性の高さが話題となった。『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(13)は、惨い事件の被害者となったハン・ゴンジュ(チョン・ウヒ)の絶望と再生を静かなタッチで追い、韓国国内外で大きく評価された。ゴンジュの澄み切った強さが胸を打つ一方、ゴンジュや加害少年の両親、担任をはじめとする大人は総じて無力で、未成年を守ったり正しい道へ導いたりする役目を果たしていないことが浮き彫りにされている。イ・スジン監督は、「社会を動かす中枢的役割を担当する人が子どもたちの両親だ。だから、子どもたちの問題と見なすことはできない」と、少年が事件を起こす背景には大人たちの存在があると語っていて、加害少年にのみ責任を負わせる風潮が強い当時としては卓見であった。

被害者の絶望と再生に光を当てた『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』
被害者の絶望と再生に光を当てた『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』EVERETT/アフロ

「未成年裁判」が示した、人を救うものとしての“法”

「未成年裁判」は、これらの作品では描ききれなかった少年事件の法廷に踏み込む。被害者と加害者、裁く者と救う者といった多角的な視点で未成年の犯罪者である少年少女たちや被害者と誠実に向き合うことで、大人である判事たちも成長していく姿が描かれる。たとえばカン部長は当初、ウンソクの審判に大声で怒鳴りながら難癖をつけ、韓国ドラマにありがちな男性上司として登場するが、エリート高校に通う長男の試験漏洩事件を知り、決断に揺れるエピソードはシリーズを引き締める中盤のハイライトと言ってもよい。罪の意識に苛まれて自殺を図り、重傷を負った最愛の息子の車椅子を押しながら法廷に向かうカン部長のシーンには、大衆を惹きつけるドラマ性がありつつ、触法少年とその家族のあるべき姿勢を明確に示されていて興味深い。

「触法少年には厳罰ではなく指導」と説くカン部長判事(イ・ソンミン)
「触法少年には厳罰ではなく指導」と説くカン部長判事(イ・ソンミン)Netflix


終盤、ウンソクと因縁深い少年部判事ナ・グニ(イ・ジョンウン)が現れる。「裁判はスピード勝負」と、少年法の原理原則に従った素早い判決が至上主義のグニの審判は、結果として被害者をないがしろにしてきたのだった。最終エピソードでは、ある少年が再び犯した凶悪事件をめぐり、ウンソクは、たとえ法に即していても非行少年に「何をしても許される」と思わせることは長い時間被害者を苦しめ、誰も守らないのだと必死で訴える。ウンソクの言葉に心を打たれたグニは法廷で、「これまで自分は審理に私情を挟まずに判決したことが、あなたたちを傷つける結果になった。大人として謝罪したい」と口にする。

最後に法廷で少年たちに語りかけるナ・グニ判事(イ・ジョンウン)
最後に法廷で少年たちに語りかけるナ・グニ判事(イ・ジョンウン)Netflix

このセリフは被害者はもちろんのこと、少年犯罪者にも向けられているのではないだろうか。彼らが罪を犯す社会を作り上げたにもかかわらず、刑罰の軽重にばかり目をやり、未成年者がどんな過ちを何故犯したのかに興味を持たないこの世界の多くの大人たちを代弁しているように感じられる。最終話でウンソクは「これからも被害者の立場を考えながら、偏見を捨てる」と口にする。こうして、人は思った瞬間にいつでも変われるという希望を、少年少女たちに示して終わるのだ。罪を犯した少年たちにとって、法とは厳しい裁きを下すだけではなく、もう一度未来へ踏み出せるようにするものだという作品の意図がここに現れている。

かつて少年法厳罰化の国民請願に対し、キム・スヒョン大統領秘書室政策室長(当時)は、「問題を抱える青少年は必ず問題のある家庭を背景に置いている。そして問題のある家庭は、危機的状況にある社会を背景にしている」と回答した。「未成年裁判」のラスト近く、「子供を一人育てるためには、一つの村が必要。その村全てが無関心なら、子供はダメになってしまう。加害者は私たちだ」というウンソクのセリフとほぼ重なる。少年少女を誰も被害者にも加害者にもしないためには、彼ら彼女らの未来の先にいいる我々大人たちが、どういう世の中を作っていくかに懸かっている。こうしてドラマは、社会がどう変わるべきかを意志を持って語るのだ。

リアリティに加え確かなストーリーテリングと俳優陣で、着実に視聴者の心をつかんだ「未成年裁判」。韓国の成熟したリーガルドラマが、新たに誕生した。

文/荒井 南

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