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イ・ジョンジェ、監督デビュー作は「イカゲーム」撮影中に脚本執筆「体力の限界でも、このチャンスを逃したくなかった」

インタビュー

イ・ジョンジェ、監督デビュー作は「イカゲーム」撮影中に脚本執筆「体力の限界でも、このチャンスを逃したくなかった」

昨年9月の配信開始から28日間で、全世界で累計16億5045万時間視聴を記録したNetflixオリジナルシリーズ「イカゲーム」の大躍進で、世界中のエンタメファンに顔と名前が知れわたったイ・ジョンジェ。今年3月のSAG(全米映画俳優組合賞)において、非英語作品の主演俳優として初の主演男優賞に輝いただけでなく、9月に行われる第74回エミー賞にも韓国人俳優として初めてノミネートされるなど、次々と記録を打ち立てている。

そんな“世界一注目されている俳優”の肩書きに、「映画監督」が加わった。しかも、世界の映画監督が憧れるカンヌ国際映画祭で初監督作品をお披露目するという快挙と共に。イ・ジョンジェが初監督作に選んだ『HUNT』の舞台は80年代の韓国。国家安全企画部内に潜伏するスパイを摘発するミッションに挑む2人のエージェントを、その裏で繰り広げられる大統領暗殺事件など実在の事件を盛り込み描く。今作は8月に韓国で公開になったあと、9月のトロント国際映画祭で北米プレミアとなる。日本公開は2023年を予定。

8月に韓国公開、9月にはトロント国際映画祭で北米プレミア予定の『HUNT』。日本公開は2023年を予定している
8月に韓国公開、9月にはトロント国際映画祭で北米プレミア予定の『HUNT』。日本公開は2023年を予定している[c]MEGABOX PLUS M

「『チョン・ウソンを世界一カッコよく撮る監督になります』と約束したんです」

イ・ジョンジェがこの映画の企画に関わったのは、いまから5年ほど前だったそうだ。「脚本の権利を買った際には監督をやるつもりはなく、プロデュースに回るつもりでした。草稿の段階でかなり手直しが必要だったので、思いつく限りの監督や脚本家にお願いして回ったのですが、誰もが『なんて難しいプロジェクトなんだ』と言い、断られてしまいました。そこで仕方なく、自分で脚本を書き直し始めたんです。始めてみて、自分はとても難しいものに挑戦していると気がつきました。それでも脚本が完成した際、この脚本が目指すものを最も知り尽くした自分が演出もやるべきだと気がついたんです」と語る。脚本執筆作業は2020年の、まさに「イカゲーム」の撮影中に行っていたそうだ。「撮影を終えたあとに脚本に向かう毎日で、体力的にも精神的にも追い詰められた毎日でした」と、イ・ジョンジェは当時を思い返す。「『イカゲーム』がクランクアップした直後に『HUNT』の撮影準備に入りました。休みを取ることもなくプロジェクトが続き、体力の限界でしたが、絶対にこのチャンスを逃したくなかったのです」。

【写真を見る】23年ぶりの共演を果たしたイ・ジョンジェ&チョン・ウソン。緊迫感あふれる『HUNT』場面写真
【写真を見る】23年ぶりの共演を果たしたイ・ジョンジェ&チョン・ウソン。緊迫感あふれる『HUNT』場面写真[c]MEGABOX PLUS M

『HUNT』のメインキャラクターは、イ・ジョンジェ演じる国家安全企画部の海外担当官キム・ジョンドと、国内担当官のパク・ピョンホ(チョン・ウソン)。諜報部員の2人が、北朝鮮のスパイの存在を巡りお互いの腹を探り合う。イ・ジョンジェとチョン・ウソンは、1999年のキム・ソンス監督作『太陽はない』で共演し、共同で事務所を経営する親友同士。本格は2人の23年ぶりの共演作となるが、イ・ジョンジェ監督は「また必ず一緒に映画を作ろう、とよい脚本を探し続け、脚本家に頼んで書いてもらったこともありますが、うまくいきませんでした。このプロジェクトに出会い、必ずよい脚本にするから出演してほしいと、4年間待ってもらいました。その時、『チョン・ウソンを世界一カッコよく撮る監督になります』と約束したんです」と、経緯を語る。付き合いの長い2人の息のあった演技によって、どちらがスパイなのかという観客の推理も裏切られ続ける。

プライベートでも親友同士であるイ・ジョンジェ(右)とチョン・ウソン(左)
プライベートでも親友同士であるイ・ジョンジェ(右)とチョン・ウソン(左)[c]SPLASH/AFLO

チョン・ウソンと同じように、イ・ジョンジェ監督が尊敬する俳優たちに出演を依頼してまわり、豪華なキャスティングが成立した。国家安全企画部の同僚として「秘密の森2」のチョン・ヘジンや「イカゲーム」のホ・ソンテ、パク・ピョンホが保護する大学生役で、ドラマ「ロースクール」のコ・ユンジョンも出演している。そして、韓国映画ファンなら目を見張る、ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、チョン・マンシク、キム・ナムギル、チュ・ジフン、ユ・ジェミョンといった名優たちがカメオ出演している。イ・ジョンジェ監督は、「誰よりも、僕が彼らの大ファンなんです。出演して欲しい方々に脚本を見せて、どうしても出てほしいとお願いにあがりました。すばらしい俳優たちがみんな『イエス』と言ってくださり、彼らの判断に感謝しかありません」と、新人監督として最も幸せだったことを語っていた。

「80年代東京のセットの出来は、日本のみなさんにご判断をお任せしたい」

キャスティング同様、撮影準備で最も頭を悩ませたのは3か国にわたるロケーションだった。ワシントンDC、バンコク、東京の3都市で繰り広げられる大掛かりなスパイ・アクションだが、撮影期間はパンデミックの真最中で海外渡航もままならない。そこで、韓国の地方都市に東京の街並みを模したセットを作り、銃撃戦が撮影された。「ワシントンDCはできれば渡米して撮影したかったんですが、東京とタイのシーンは韓国で撮影することで合意していました。僕のなかにある、80年代の東京のイメージを当時の資料をもとに作り上げました。その出来は、日本のみなさんにご判断をお任せしたいと思います」と、自信のほどをうかがわせた。

海外渡航ができないハンデもあり、タイや東京のロケーションはセットで再現
海外渡航ができないハンデもあり、タイや東京のロケーションはセットで再現[c]MEGABOX PLUS M


カンヌ国際映画祭の滞在も数日のみで、「もう少し映画を観に行きたかったのですが…」と残念そうにしていた。いまや名実共に世界が注目する俳優となったイ・ジョンジェだが、監督、脚本家、俳優のうち最も楽しんでいるのは「俳優!それ以外ありません!」と即答する。ハリウッドでの知名度も注目度も高い彼の、次の作品は?

「とても光栄なことに、たくさんの新しいプロジェクトのオファーをいただいています。でもいまの僕にとって最も重要なことは、『HUNT』を無事公開に導き、世界のみなさんに観ていただくことです。次になにをやるかは、『HUNT』がひと段落したら考えたいと思っています」。現在、ファン・ドンヒョク監督が脚本を執筆中だという「イカゲーム」のシーズン2は、まだまだ先になりそうだ。

取材・文/平井伊都子

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