荻上直子監督が明かす、『かもめ食堂』『川っぺりムコリッタ』「大豆田とわ子」に携わるフードスタイリスト・飯島奈美への信頼感

荻上直子監督最新作『川っぺりムコリッタ』のトークイベントが8月22日にユーロライブで開催され、荻上監督とフードスタイリストの飯島奈美が登壇。本作や『かもめ食堂』(06)、『めがね』(07)、『トイレット』(10)、『彼らが本気で編むときは、』(17)といった荻上作品だけでなく、テレビドラマ「カルテット」や「大豆田とわ子と三人の元夫」など数々の話題作に携わる人気フードスタイリストである飯島の仕事について、荻上監督が「この場面ではこういうご飯はどうだろうかと、奈美さんからいろいろな提案をしてくれる」と魅力を語った。

「ひっそりと暮らしたい」と無一文のような状態で、川べりの古いアパート“ハイツムコリッタ”に引っ越してきた孤独な男、山田が(松山ケンイチ)が、様々な事情を抱えた住人たちと出会い幸せを見つけていく様子を描く本作。

タッグを重ねている荻上監督と飯島だが、初めて一緒に仕事をしたのは『かもめ食堂』だという。飯島が小林聡美のパンのCMを担当していたことをきっかけに出会ったそうで、飯島は「パンのCMをずっとやらせていただいていて。その縁があって推薦していただき、監督とお会いした」と述懐。荻上監督が「最初に会った時に、『この手がおいしそうなおにぎりを作るんですね』と言ったのを覚えています」と振り返ると、飯島が「ありがとうございます」と茶目っ気たっぷりに会場に手を見せるなど、息ぴったり。「私は20歳くらいでフードスタイリストの先生について、28歳くらいで独立した。独立して初めて携わらせてもらったのが、荻上監督の作品。いい作品に恵まれました」と感謝していた。

売れっ子フードスタイリストの飯島だが、荻上監督は「この場面ではこういうご飯はどうだろうかと、奈美さんからいろいろな提案をしてくれる」と信頼感を吐露。飯島が「『かもめ食堂』の時もたくさん提案させてもらって。きんぴらとかも、ゴボウがなかったらパプリカにしましょうとかね。『トイレット』もカナダでの撮影だったので、肉じゃがみたいな感じで、鮭じゃがにしましょうとか」とアイデアを出したことを回想すると、荻上監督は「お皿とかもいい。料理だけじゃない」と飯島の仕事にほれぼれ。「フィンランドから帰る時の、奈美さんの荷物ったら！」と食器をたくさん買い込んで帰る場面を目撃したそうで、飯島は「ギャラ分、買いました」と楽しそうに話していた。

『川っぺりムコリッタ』も、食事シーンが印象的に描かれる。荻上監督は「この映画の全体に流れているテーマが、“死”。死の反対にあるのが“生”。“食べる”ということが、直接“生”に結びついているような感じに描いた。登場人物はお金のない人たちなので、シンプルなご飯、味噌汁、漬物だけを食べている。あとはイカの塩辛。でもワンシーン、とてもゴージャスなものが出てくる。すき焼きです」と本作における食へのこだわりを明かす。

そのすき焼きシーンについて、荻上監督は「上等なお肉で、とにかくうまいやつ」と飯島にイメージを伝えたというが、飯島は「肉は2種類くらい買って。生で見せる時は脂が乗っているもの。でも食べ続けるとキツくなるので、赤身も用意して。いいバランスにしました」と映像としても、役者が食べる際にもおいしいものが提供できるように気を配っている様子だ。また飯島は「米が炊きあがって、おいしそうに食べるところは、皆さんにはたまらない時間帯」と炊きたてご飯にも注目してほしいという。

主演の松山について、トークを繰り広げるひと幕も。荻上監督は「お米を炊くシーンがあるんですが、彼のやり方で、水の量とかにもすごくこだわってやってくださった。ご自身で野菜も作っていらっしゃるので、食べることにこだわりがとてもあるようです」。さらに「山田がお金がなくなってしまって、ご飯が食べられなくなってしまって、野菜にかぶりつくシーンがある。松山さんは、そのシーンまで何日か絶食して臨んでくれた。すごくストイックで、役に徹してくれる」と称えていた。

取材・文/成田おり枝