伝説的パンクバンドの繁栄と破滅を映像化!『トレインスポッティング』から「セックス・ピストルズ」へ受け継がれたダニー・ボイルのエッセンス
『トレインスポッティング』に通じる“陽気で悲惨”な青春ストーリー
「セックス・ピストルズ」に最も近いボイル作品は、出世作『トレインスポッティング』(96)だろう。同作はサントラ盤も大ヒットしたが、既成ヒット曲の使い方がとにかく効果的で、音楽込みで劇中のシーンを記憶しているファンも多い。本作もまた、第1話のデヴィッド・ボウイのナンバーを筆頭にT・レックス、ピンク・フロイド、ザ・ストゥージズらの楽曲が場面にフィットした形で使用され、強い印象を残す。
なにより『トレインスポッティング』に近いのは、青春ドラマのエッセンス。ドラッグに溺れる若者たちの日常を、時にシリアスに、時にユーモラスに描いた同作には日本公開時“陽気で悲惨な青春映画”というキャッチコピーが付けられていたが、このフレーズは「セックス・ピストルズ」にも、そのまま当てはまる。バンドをやりたい、世界を揺り動かしたい、でも簡単にはいかない。ステージで歌えず、楽器もろくに弾けない、そんな若者たちの苛立ちや焦燥、ヤケクソ気味の瞬発力、それらがカオスを織り成して引き起こす狂騒。そこには喜劇も悲劇も宿っている。
ピストルズがデビューした年に二十歳となったボイルは、当時のパンクをリアルタイムで経験。若い時期に得た、彼らへの強い共感が本作に熱を宿らせたことは想像に難くない。思い返せば、彼の作品にはアイロニカルなユーモアや語りのリズミカルな感覚、勢い、そして内省など、ピストルズのナンバーに通じる要素が込められており、それによって映画監督として確固たる地位を築いてきた。円熟味を増した鬼才がいま、描く半世紀前の青春群像。そんな「セックス・ピストルズ」を、じっくり味わってほしい。
文/有馬楽
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