森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」

インタビュー

森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」

「僕にとって、“自分の作品”と呼べるのは小説だけ。映像化された作品とはもう少し距離を感じているので、例えていうならば孫を見守るおじいさんみたいなスタンスです」。森見登美彦は、自身の小説をアニメ化した『四畳半タイムマシンブルース』(劇場公開中/ディズニープラスにて独占配信中)で、12年ぶりに「私」をはじめとした下鴨幽水荘の面々とスクリーンで再会した喜びを語る。

「四畳半神話大系」以来12年ぶりにアニメとなって描かれた下鴨幽水荘
「四畳半神話大系」以来12年ぶりにアニメとなって描かれた下鴨幽水荘[c] 2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

「テレビアニメの『四畳半神話大系』を踏まえつつ、フレッシュで明るい感じの作品になっていて、全体的にとても可愛らしい作品でうれしくなりました。それは原作小説を書くうえで意図していたものと同じです。『四畳半神話大系』がアニメ化された時にも不思議な感覚を抱きましたが、またその感覚を味わっています」。

「すごいアニメが出来上がった。ただただ驚かされました」

2010年に「ノイタミナ」で放送されたアニメ「四畳半神話大系」
2010年に「ノイタミナ」で放送されたアニメ「四畳半神話大系」[c] 四畳半主義者の会

森見にとって自著の初映像化となったテレビアニメ「四畳半神話大系」が放送されたのは2010年。当時、森見は「四畳半神話大系」のアニメ化を意外に思っていたことを明かす。「アニメ化のお話をいただく前に、湯浅政明監督の『マインド・ゲーム』を観ていて、『これを作った人が手掛けると、どんな作品になるのだろうか』とワクワクしました。そのままアニメにするのは難しい小説でしたが、湯浅監督と(脚本を手掛けた)上田誠さんが、複雑なパズルを組み立てるように整理してくださり、すごいアニメが出来上がったなと、ただただ驚かされました」。


湯浅監督による「夜は短し歩けよ乙女」の映画版は、日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞を受賞
湯浅監督による「夜は短し歩けよ乙女」の映画版は、日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞を受賞『夜は短し歩けよ乙女』森見 登美彦 KADOKAWA/角川文庫

「四畳半神話大系」でタッグを組んだ上田は、その後も『夜は短し歩けよ乙女』(17)、『ペンギン・ハイウェイ』(18)と、森見作品の映像化で脚本を手掛けてきた。そんな上田が2001年に発表後、何度も再演され、本広克行監督によって実写映画化もされた人気戯曲「サマータイムマシン・ブルース」を、森見が「四畳半神話大系」の登場人物たちを用いて小説にしたのが「四畳半タイムマシンブルース」だ。このただならぬコラボレーションを提案したのは森見のほうからだったという。

「始まりはほとんど冗談のような感じで、上田さんの舞台を僕が小説にしたらおもしろいのではないかという話からでした。上田さんはいつも僕の小説をどのようにアニメにしていけばいいかを悩んでいたはずなので、たまには僕が上田さんの戯曲を小説にすることに悩んでみようという感じでした」とコラボレーションの経緯を振り返る。そして実はもう一本、ヨーロッパ企画の人気戯曲である「あんなに優しかったゴーレム」もコラボレーションの候補にあがっていたと明かしてくれた。

「四畳半神話大系」など森見作品のアニメ化の多くで脚本を手掛けてきたヨーロッパ企画の上田誠
「四畳半神話大系」など森見作品のアニメ化の多くで脚本を手掛けてきたヨーロッパ企画の上田誠

執筆作業にはおよそ1年半もの時間が費やされたという。「その間、何度も『サマータイムマシン・ブルース』の舞台を観直しました。非常に細かく伏線が張られていて、仕掛けも多い作品。それをどのように再現するか考えながら手探りでやっていきました」と、その難産ぶりを振り返った森見。これまでと立場が入れ替わった“共作”だったが、「上田さんはなにも要望を言わずにただ見守ってくれました。それは上田さんが僕の小説をアニメにする時に、僕からはなにも言わないのと同じです。ただ今回は、僕が何度か上田さんに愚痴をこぼしましたけどね…。『ヨーロッパ企画の群像劇を小説にするのはなんて難しいんだ』と(笑)」。

2018年公開の『ペンギン・ハイウェイ』も上田誠が脚本を手掛けた
2018年公開の『ペンギン・ハイウェイ』も上田誠が脚本を手掛けた『ペンギン・ハイウェイ』森見 登美彦 KADOKAWA/角川文庫

そして「小説が完成した時、また冗談半分に『これが上田さんの脚本でアニメになったらいいね』などと話をしていたのですが、まさか本当に実現するなんて」と顔をほころばせた。

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