「鎌倉殿の13人」でも頭角を表す坂口健太郎。『ヘルドッグス』で“覚醒”するまでのキャリアを振り返る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「鎌倉殿の13人」でも頭角を表す坂口健太郎。『ヘルドッグス』で“覚醒”するまでのキャリアを振り返る

コラム

「鎌倉殿の13人」でも頭角を表す坂口健太郎。『ヘルドッグス』で“覚醒”するまでのキャリアを振り返る

坂口健太郎は常にフラットだ。実際のところはわからないが、そのイメージはいつも冷静で真面目で、曲がったことが大嫌いな“誠実”を絵に描いたような好青年。そこがブレない。ヘンな色はついていないものの、それでいて、真っ白なキャンバスとは異なり、なにかしらの強い意思と人間臭い温もりや内なる葛藤を感じさせる。だから観ていて安心できる。「鎌倉殿の13人」で北条泰時役にも通じる絶対的な信頼感が彼の魅力であり、強みと言っていいのではないだろうか。『ヘルドッグス』(公開中)で演じた“制御不能のサイコボーイ”役で、新たな幅と魅力を見せつけた。改めて、彼のこれまでのキャリアを振り返ってみたい。

これまでのイメージとは違う、危険すぎる男を演じきった
これまでのイメージとは違う、危険すぎる男を演じきった[c] 2022「ヘルドッグス」製作委員会

説得力抜群に好青年を体現した『ヒロイン失格』『君と100回目の恋』

坂口は、敢えて演出を加えなくても、そこに立つだけで好青年に見える役者だ。その説得力がスゴい。初期の『ヒロイン失格』(15)では学校一のモテ男・弘光廣井祐を普段より明るめのテンションで爽やかに演じ、同じ年に公開された『俺物語!!』(15)ではイケメンの砂川誠をクールだけど決して嫌味のない青年として体現。前者では、桐谷美玲が演じたヒロインのはとりに美しい“壁ドン”を決めまくっていたのも印象的だった。

さらに、シンガーソングライターのmiwaとW主演を飾った『君と100回目の恋』(17)では、事故に遭った幼馴染みの葵海(miwa)の運命を変えるため、自身の特殊な能力で時を何度も巻き戻す大学生の陸を嘘のない一途な芝居で表現。『今夜、ロマンス劇場で』(18)では映画の中から出てくる美しいヒロイン・美雪(綾瀬はるか)と恋におちる現実世界の助監督の青年・健司を演じたが、ファンタジックなストーリーが違和感なく楽しめたのは、坂口が美雪のムチャな要求を次々にこなす不器用な健司に無邪気な笑顔でなりきっていたから。

そう、パブリック・イメージがいい意味で強烈ではない坂口健太郎は、どんなキャラクーの色にも染まりやすい。その色は監督の演出によって決まることもあるし、常に役と距離を置き、そのキャラを俯瞰でとらえる坂口自身の考えが反映されることもある。ただし、冷静で誠実な印象が強いだけに、そこからかけ離れたキャラクターを演じた時のインパクトは逆にかなり強く、あふれ出す感情も妙に生々しい。

好青年から豹変した“狂気”を見せた『ナラタージュ』『そして、生きる』

その代表的なキャラが、『ナラタージュ』(17)で演じた大学生の小野怜二。本作は島本理生の同名小説を『劇場』(20)などの行定勲監督が映画化したもので、小野は有村架純が扮したヒロイン・泉の彼氏。パッと見は、坂口がこれまでに何度となく演じてきた優しくて誠実な青年だ。だが、泉が1年ぶりに再会した高校時代の恩師・葉山(松本潤)に密かに想いを寄せていることを知った途端に豹変。嫉妬に狂った彼は「携帯を見せろ!」と言って泉を束縛し、酷い言葉で傷つける。その一連だけでも気持ち悪くて怖い。靴職人を目指している小野は泉の足にピッタリの靴を作ってあげるが、この映画ならではのオリジナルの設定も、純粋さと表裏一体の身勝手な愛。それが狂気に変わるのが、別れを切り出した泉を攻撃する小野の言動の数々だった。

『ナラタージュ』では、有村架純扮する恋人の気持ちが他に向いていることを知り逆上する大学生を演じた
『ナラタージュ』では、有村架純扮する恋人の気持ちが他に向いていることを知り逆上する大学生を演じた『ナラタージュ 通常版』DVD発売中 4,180円(税込) 発売元:アスミック・エース/KADOKAWA 販売元:東宝 [c]2017「ナラタージュ」製作委員会

恐ろしい形相で「土下座しろ!」とか「靴を脱げ!」って怒鳴ったかと思えば、「やっぱりいい!」と訂正したりして、本人も自分の感情をどうしたらいいのか分からない。その壊れっぷり、ダメ男ぶりは、恋人を所有物のように扱い、相手も自分と同じような思考だと思い込んでいる勘違い男の典型的な末路だ。その姿が普段の坂口から大きくかけ離れていたことも手伝って、おぞましくも、哀れに見えて仕方がなかった。


WOWOWのドラマとその再編集劇場版『そして、生きる』(19)で演じた大学生の清水清隆にも、また違った意味での坂口の狂おしい表情が刻まれている。清隆は東日本大震災のボランティア活動で女優を目指している瞳子(有村架純)と出会い、恋におちる。ここまでの坂口はいつもの、穏やかな物腰の好青年。ところが、瞳子の妊娠を知らずに旅立った赴任先のフィリピンでとんでもない目に遭ってから一変する。力になろうと思った現地の少年ジャスティンから「偽善者」と言われ、彼も関わったテロ行為で負傷。しかも、テレビでジャスティンが射殺されたことを知り、恐怖と自分の無力さと思い上がりをまざまざと味わうことになるのだが、そのテレビを見るシーンの撮影では「涙が止まらなくなって20分ぐらい泣き続けた」と坂口自身が本作の舞台挨拶で告白。

さらに激しいショックで抜け殻のようになって帰国した清隆は、空港で再会した瞳子のかつての仕事仲間・ハン(知英)にその狂おしい想いを伝えるが、そのときの坂口も彼女にすがるように無防備で、冷静さや節度は微塵も感じられない。瞳子の妊娠を知ったときの表情も含め、そのなりふり構わない感じが心身ともに傷を負った清隆をリアルに伝えていた。

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