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「日本映画は日本人にしか愛されないのか?」石川慶監督&川村元気監督が語り合う、日本映画の未来

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「日本映画は日本人にしか愛されないのか?」石川慶監督&川村元気監督が語り合う、日本映画の未来

第35回東京国際映画祭のトークセッション「『ある男』×『百花』日本映画、その海外での可能性」が10月30日に東京・マルキューブで行われ、『ある男』がヴェネチア国際映画祭に出品された石川慶監督、『百花』でサンセバスチャン国際映画祭最優秀監督賞を受賞した川村元気監督が出席。「日本映画は日本人にしか愛されないのか?」という、日本映画の抱える課題について意見を交わした。

第35回東京国際映画祭に石川慶監督、川村元気監督が登場
第35回東京国際映画祭に石川慶監督、川村元気監督が登場

『ある男』は、亡くなった1人の男の正体を追うヒューマンミステリー。一方の『百花』は、認知症を患い記憶を失くしていく母と、そんな母と向き合う息子を描いたヒューマンドラマ。両作共に海外での評価も受けているが、プロデューサーとして新海誠作品などを手掛けてもいる川村監督は、「日本のアニメーションは、海外でも受け入れられている。だからこそ、宮崎駿監督をはじめ、作家性の強いものをつくることができる。でも実写になると大変。ドメスティックなヒットをねらうことと、海外で観てもらうこと。両方を得ることは難しい」と語りながら、「ここの2人は、頑張ってやろうという話をしている」と石川監督と顔を見合わせながらチャレンジングな姿勢を明かした。

『ある男』石川慶監督
『ある男』石川慶監督

石川監督も「コマーシャルフィルムとアートハウス系の作品があって、特にコマーシャルなものを、どうやって外に出していくかということは、自分のなかでの大きな課題」と吐露。「企画段階では、“外に向けて”ということは考えていない。でも(石川組は)カメラマンがポーランド人で、最終仕上げもポーランド(でやることが多い)。その時に英語に訳してみて、おもしろくないと絶対にダメだと思っている。向こうに持って行って、仕上げをやっている時に『なんだ、この映画は』と思われたくないじゃないですか(笑)。自分が主題歌をあまり入れたがらないのも、それが大きな理由」と自然と、海外に視野を広げた作り方をするようになったという。

『百花』川村元気監督
『百花』川村元気監督

日本の実写映画は、ガラパゴス化していると言われることもある。司会から「海外の観客に日本映画の魅力を伝えるとしたら、どうしたらいいか?」と聞かれると、川村監督は「アニメもそうだけれど、いま一番ストーリーテリングやキャラクターでとんがったことをやっているのは、週刊少年ジャンプのマンガだったりする気がする。『チェンソーマン』とか見ていると、『すごいな』と思う。海外とコミュニケーションをしている最前線はいま、あっちにある気がする」とマンガ業界の勢いを称え、実写のチームも「とんがったことをやっていかないと、みんな表現が同じになってしまう」と刺激も受けている様子だ。

石川監督は「映画祭に出す時も、外の人に対して『観てほしい』ということではなくて、『国内興行をプラスにするために外に出す』という、外に向いているようで、すごく内に向いた、外への出し方になってしまっている。そうするとなかなか外に出ていかない」と打ち明け、「是枝(裕和)さんの映画とかは海外でちゃんと観られているし、そういう日本映画が増えてくれば、外への出方という意味合いも変わってくると思う。それがうまく機能したのが、韓国なのかなと思う」と思いを巡らせる。すると川村監督は、韓国映画がワールドワイドに受け入れられるようになった理由として、「ずば抜けた才能が何人かいる。特出すべきは、ポン・ジュノ」と分析。「CJ(グループ)という大きな配給会社と組んで、お金をかけて撮っている。企画力がまずすごいし、理想的なモデル」と舌を巻いていた。

会場からの質問にも答えた
会場からの質問にも答えた

日本のアニメは、世界でも愛されている。制作の現場で大切にしているのは、どのようなことなのだろうか。川村監督は「テーマセッティングが重要だと思う」とコメント。「細田(守)さんや新海さんとつくる時も、最初からグローバルに売ることが決まっている。だからこそ、いまこの時代になにをつくって、それが公開される時の時代の空気、気分とマッチするか考えることに時間をかけている」という。日本の実写では出演者で興味を引こうとする場合もあるが、川村監督も石川監督も、しっかりと内容やストーリーを深掘りする必要があるのではないかと持論を展開していた。

【写真を見る】『ある男』の石川慶監督、『百花』の川村元気監督がトーク!
【写真を見る】『ある男』の石川慶監督、『百花』の川村元気監督がトーク!

11月11日には新海監督の3年ぶりの新作『すずめの戸締まり』が公開となるが、川村監督は「『すずめの戸締まり』も最初から海外配給が決まっている。日本人としてなにをつくったらいいかと新海さんと話した時に、震災から10年経って、いまの10歳以下の子たちが震災のことを知らないというのはいいのだろうかと。ちゃんとエンタテインメントとして、それをやれないかと話した。そこが決まるまで、半年間、テーマセッティングの話をした。日本映画(実写)にはそのプロセスが足りないのかもしれない」と意見を述べつつ、「『ある男』も“自分とはなにか”というテーマをミステリーと掛け合わせている。そのテーマセッティングが海外でもおもしろいと思ってもらえる」と『ある男』にも世界共通のテーマが盛り込まれていると話した。


会場の観客からは、「ハリウッドで日本映画が流行っていく可能性はあると思いますか?」と質問があがる一幕も。ポン・ジュノ監督や濱口竜介監督がアカデミー賞でもしっかりと評価され、韓国のサバイバルドラマ「イカゲーム」も大ヒットしたいま、川村監督は「世界の人々が字幕で作品を観ることに慣れてきたのは、アジア映画にとってチャンス」だといい、「あとはテーマが大事。世界中で同じような不安やフラストレーションを抱えているはず。そこをちゃんと撃ち抜けば北米にも届くはず」とコメント。石川監督は「作り手としては、流れさえできてしまえば、アジアから出て行ってもおかしくないと思っている」と力強く語っていた。

取材・文/成田おり枝

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