89歳の声優・羽佐間道夫、チャップリンら演じたスターは256人！「声優は学ばなければいけないことがいっぱいある」

特集上映「フォーエバー・チャップリン ～チャールズ・チャップリン映画祭～」を開催中の角川シネマ有楽町で11月19日、声優の羽佐間道夫と日本チャップリン協会会長で脚本家の大野裕之によるトークショーが行われた。

本特集上映は、今年で没後45年を迎えながらも世界中の人々を魅了し続けている喜劇王、チャールズ・チャップリンの代表作17作品(長編・短編含む)をデジタル・リマスター版で一挙に上映するもの。この日はチャップリンの映画人生の集大成とも言われる『ライムライト』(52)の上映後に、多くのチャップリン作品で吹替えを担当し、チャップリンの無声映画に生で吹替えをするイベント「声優口演」を15年以上にわたり企画している羽佐間を迎えたトークショーが開催された。羽佐間は、「『ライムライト』を日本語に吹替えちゃったんですね。ごめんなさい」と恐縮しながら挨拶。会場から大きな拍手を浴びていた。

大野が「2016年に発売されたブルーレイのチャップリン作品で、私が日本語の台本を翻訳して書かせていただいて。『ライムライト』の吹替えは、羽佐間さんにお願いしたいと思って吹替えていただいた」と願いが実現したことを喜ぶと、羽佐間は「実に光栄なこと。『ライムライト』はチャップリンの自叙伝なんですね。小さな時からのことも含めて、彼のすべてをこのなかに入れている」としみじみ。「時々観てみるんですが、どうしても『至らないな』という思いがついてまわる。チャップリンに限らず、いつもついてまわる。『どうしてあそこができなかったのか』ということの連続。ガクって参っちゃうことがある」と自身の演技についてどこまで追求しても満足できない様子で、「やらなきゃよかったかな」と弱気な一面を見せると、大野が「みんな、羽佐間さんにやっていただいてよかったと思っています！」と太鼓判。会場からは同意を表現する大きな拍手が上がり、羽佐間は「じゃあ、次は勇気を持ってやらせていただきます」と笑顔を見せていた。

現在89歳となり、これまでにおよそ7000本もの作品で吹替えを担当してきたという羽佐間。「『羽佐間はどれくらいやっているんだ』と調べてくれた方がいて。1956、7年ころからやっていて、256人の俳優を吹替えているそうです」とにっこり。やり始めた当初は「吹替えをやる人がほとんどいなかった。役者が吹替えなんて、という風潮があった」というが、「今日、声優は大クローズアップされている。私たちの時代はそんなことありませんでしたが、いまでは『声優になりたい』という若者もたくさんいらっしゃる。ならないほうがいいと思いますけどね」と茶目っ気たっぷりに語り、会場も大笑い。「若手でこの仕事だけで飯を食っていくというのは、なかなかできない。一握りの人たちだけがクローズアップされているのが現実。そのような世界だと思っていてください。ただ声優は、学ばなければいけないことがいっぱいあります」と浄瑠璃や浪曲、漫才などさまざまな分野を学びながら、技術を培ってきたと話す。

さらに「声優口演」の成り立ちについて聞かれると、羽佐間は「大野さんに出会って、チャップリン家につないでくださった」と述懐。「後輩に山寺宏一という天才がいまして。これにやらせたら本当におもしろいものができました。『犬の生活』では、10匹くらいいる犬を瞬時に全部変えてやる。山寺がフォローしてくれる」と楽しそうに語る。会場には高齢の観客が孫を連れてくる姿も見られるそうで、「おじいちゃんと手を繋いで、この話をしながら帰れるようなイベント。ある世代に限らず、クロスオーバーしたものになっている」と企画の成長に感慨深けだった。

また大野は『ライムライト』でテリー役を演じた、クレア・ブルームの秘話を紹介。今回の特集上映に向けてもメッセージをもらったという大野だが、「撮影時は19歳で、現在91歳。お元気です。僕のメールアドレスがどなたか別の方のものと似ていて、年に2回くらい間違いメールが来る。本当に素敵な方」とコメント。「正面から殴るシーンは、指1本触れていないそうです。『あれはチャーリーのトリックよ』と言っていました」と明かすと、会場からも驚きの声が上がっていた。さらに日本チャップリン協会会員でチャップリンに関する貴重なアイテムをコレクションされている大久保俊一さんが、『ライムライト』でチャップリン扮するカルヴェロが着用していた衣装のクラバットを披露する場面も。貴重な一品に羽佐間も見入っていた。

取材・文/成田おり枝