舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
  • 映画TOP
  • 映画ニュース・読みもの
  • 舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート
舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート

イベント

舞台公演をどう撮り、残し、使っていく?“教育・研究”と“国際交流”をテーマに議論交わす「EPADシンポジウム2022」レポート

舞台公演の記録映像を未来に残そうと、2020年にスタートしたEPAD(緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)。MOVIE WALKER PRESSではカルチャーを愛するすべての人へ、舞台芸術の楽しみ方を「EPAD」と一緒に提供するスペシャルサイトを展開中。映像をより有効活用すべく、「撮る、のこす、使う!〜舞台公演映像の利活用をめぐるシンポジウム〜」が12月1日にオンラインで開催され、教育者や識者、研究者による意見交換が行われた。本稿ではその様子をレポートする。

シンポジウムは二部構成となっていて、第一部のテーマは「教育・研究の現場から」、第二部のテーマは「国際交流の現場から」で、これまで撮ってきた舞台公演映像を教育、研究、国際交流の各現場でどう利活用していくべきかについて、具体的な方法や可能性を模索していった。

教育者たちが語る教材としての映像の課題と、“観察者”の視点という発想の転換

第一部に参加したのは、アングラ演劇を専門とする演劇研究者で、近畿大学准教授の梅山いつきや、早稲田大学演劇博物館館長で文学学術院教授でもある岡室美奈子のほか、玉川大学芸術学部演劇・舞踊学科の准教授、多和田真太良、日本大学芸術学部演劇学科准教授の松山立で、モデレーターは跡見学園女子大学マネジメント学部専任講師、国際演劇協会日本センター事務局長代理の横堀応彦が務めた。

EPADの意義についても語り合った
EPADの意義についても語り合った撮影/菊池友理

この3年間でEPADは、約1300本の舞台公演の映像を収集できていて、そのうち配信可能な280本は、3分間のダイジェスト映像も用意されている。今年度は新たに430本を収録予定であり、これらの映像は事前予約制で、早稲田大学演劇博物館(演博)で閲覧することができ、デモンストレーションも行われた。

横堀は映像を使用するうえでの課題として、二次使用の許諾を得ることの大変さを挙げる。
「本当に自力でやるのは大変なので、EPADではこの許諾を得る作業を弁護士などの専門チームの方にお手伝いをしてもらっています。また、今年からEPAD実行委員会が事務局となり、主要な舞台、アーカイブ関係者や、デジタルアーカイブに関わる有識者の皆様との連携会議を立ち上げました。これは、業界の理解を広げ、権利処理やシステム構などの様々なノウハウを共有していくことを目的としています」。

オンラインで配信されたEPADシンポジウム2022
オンラインで配信されたEPADシンポジウム2022撮影/菊池友理

続いて演博の館長である岡室が、EPADが収集した舞台公演映像の情報を検索できる情報検索サイト「ジャパン・デジタル・シアター・アーカイブズ(JDTA)」について解説。3分間のダイジェスト映像についてもプレゼンされたが、岡室は「やはりダイジェスト映像を作ってらっしゃる団体は少なく、基本的にこちらで作ったのですが、任意に取り出した3分なので、そこが特にいいシーンというわけではないのが問題です。今年度はEPADさんの方で3分映像を作っていただいているので、そこは改善されるのではないかと」と課題も語った。

梅山は問題点を2点指摘。「教材として考えた時、参照したい作品が必ずしも、その作家の代表作であるとは限らないこと。もう1つが時間の問題です。舞台芸術は“時間芸術”でもあり、ライブでの上映時間というものが、映像でどこまで再現できるのかというジレンマもあります」とコメント。

多和田はコロナ禍での授業における実習講演やオンライン配信のZOOM演劇、無観客でのライブ配信などの苦労を語りつつ「いままであまり考えてこなかった監督的な立場が必要になってきました。観る側、映像を作る側にとってのアーカイブが、以前とは違う役割を果たすようになり、作り手も舞台芸術のあり方を再考したのではないか」と指摘する。

松山は、アーカイブ映像について「演劇の映像をフルバージョンなり、3分映像で観ることは、もはや劇場に行く観劇体験の代替行為ではないかと。むしろ個人として映像を見る利点や活用方法を考えていかないといけないです。作品自体と距離を取り、分析を加えたり、観察者として観たりする立場が強まってきたので、教鞭をとる私たちの意識も変わっていくしかかないと思います」と持論を述べた。

岡室もこの意見に共感し、8Kで舞台映像を観た時の感想を交えて「生の舞台を観ると、俳優さんたちを追ってしまい、ストーリーに没入してしまいますが、8Kの映像で観た時、機械の目は全体をくまなく追うので、私たちも同じようにくまなく観て、生の舞台で見落としてしまう点を観ることができます。これまでは、生の舞台と映像は別物だとネガティブな文脈で語られてきましたが、いい意味で別の体験をするものだと感じました」と価値観を切り替えたとか。

8K+DolbyAtmos映像連続上映&トークイベントなども控えているEPAD
8K+DolbyAtmos映像連続上映&トークイベントなども控えているEPAD撮影/菊池友理

さらに岡室は「デジタルアーカイブのいいところは、外に開けることですが、もっと言えば、いかに開いていけるかが大切です。システム構築には、お金と手間がかかりますが、最終的にはやっぱりデジタルアーカイブって社会を良くするものだと思うので、教育利用は重要かと。また、その舞台を作る文法とは違う、舞台映像を作る文法を身につけた人を育てなければいけないので、演博ではそういった人材を育てるドーナツプロジェクトというものを今年度から始めました」と新プロジェクトについてもアピール。

また、アングラ演劇や野外演劇集団に精通する梅山は「1960年代、70年代の古い映像にも今後は力を入れていただきたい。ある分野に特化して映像を収集する場合、私たちのような研究者との連携も図っていっていただきたいです。オープンになってない資料もたくさんあるので、それらをみんなで共有し、もっとオープンにしていく場になれば」と、専門家との協力体制を強めるべきだと提案した。


多和田は「多くの学生にとって、舞台芸術そのものは触れたことがないジャンルなので、その入口として入りやすいツールになっていただければいいんじゃないかと。その後、利活用の仕方が分かっていって、アプリみたいに常に持ち歩けるような身近なツールになってくれたら」と、未来像について語った。松山は「舞台芸術や美術、権利も学べる映像があるので、赤ん坊の脳の中で新しいシナプスがつながっていくように、それを利用する学生や研究者たちがまた新たなつながりを発生していけるような起爆剤になれば」とEPADの将来に期待した。

ふだん映画を観るように、気軽に舞台を楽しもう【PR】
作品情報へ