アカデミー賞9ノミネートの『イニシェリン島の精霊』を隅々まで味わう!劇場パンフレットには専門家の解説やインタビューも充実
『スリー・ビルボード』(17)のマーティン・マクドナー監督がサーチライト・ピクチャーズと再びタッグを組み、第95回アカデミー賞で作品賞や監督賞など8部門9ノミネートを達成した『イニシェリン島の精霊』が、本日ついに公開を迎えた。
舞台はアイルランド本土が内戦に揺れていた1923年。島民全体が顔見知りの平和で小さな孤島イニシェリン島で、気のいい男パードリックは、長年友情を育んできたはずの友人コルムから突然の絶縁を告げられてしまう。急な出来事に動揺を隠しきれないパードリックは、妹のシボーンや隣人のドミニクの力を借りて事態を好転させようとする。そしてやがて、穏やかなこの島に死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立ち、誰も想像しえなかった衝撃的な結末が訪れる。
マクドナー監督が自身のルーツであるアイルランドに回帰して描いた本作は、2022年9月に行われたヴェネチア国際映画祭でお披露目されるや大絶賛を集め、数多くの映画賞を受賞。サスペンスとユーモアが混在した寓話性に満ちた悲喜劇でありつつ、アイルランド伝承をも交えた深淵な世界観が広がる。そんな一度観ただけでは咀嚼しきれない本作をより深く知るためには、上映劇場で発売されるパンフレットがうってつけだ。
映画ファンにはおなじみの「MOVIE WALKER PRESS 劇場用パンフレットムック」の「SEARCHLIGHT PICTURES issue vol.23『イニシェリン島の精霊』」として発売される本作のパンフレットには、制作の舞台裏がわかるプロダクションノートといった定番の内容に加え、様々な視点から本作を紐解くことができるコラム、インタビュー、レビューが掲載されている。
例えばアイルランド文学者で翻訳家、早稲田大学文学学術院教授の栩木伸明氏によるアイルランド文化の解説では、舞台となるアラン諸島の文化風俗や、1922年に勃発したアイルランド内戦など、本作を観るうえで押さえておきたい基礎知識を学ぶことができる。また、Storyteller of Ireland正式会員の高畑吉男氏が、映画のタイトルにもなっているアイルランドに伝わる妖精“バンシー”を解説するコラムも、本作の持つ神話的側面を知るうえでは必読の内容だ。本編を観たあとにこれを読んで再び映画に臨めば、また違った視点でこの物語を味わうことができるだろう。
さらにマクドナー監督をはじめ、第95回アカデミー賞で演技部門にノミネートされた4人の俳優たちのインタビューも掲載。マクドナー監督のインタビューは過去に手掛けた舞台作品と本作との関係や、マクドナー監督の作家性に迫る内容となっており、パードリック役のコリン・ファレルとコルム役のブレンダン・グリーソンの対談インタビューは全6ページにもわたる充実した内容。マクドナー監督とアイルランドの名優であり、実際に親友同士でもあるファレルとグリーソン。14年ぶりにタッグを組んだ3人の絆の深さと、本作にかける想いが伝わってくることだろう。
ほかにもレビューコーナーでは、「劇団た組」を主宰し『わたし達はおとな』(22)で長編映画監督デビューを飾った加藤拓也が、マクドナー監督と同じ舞台演出家で映画監督でもあるという立場から、本作の魅力を熱弁。映画ライターの高橋諭治は、劇中にみられるいくつかのミステリーにフォーカスを当てながら、マクドナー監督の豊かな才能へと迫っていく。そして巻末には「SEARCHLIGHT PICTURES issue」恒例のサーチライト作品の最新情報も掲載されているので、今後の映画鑑賞の参考にしてほしい。
また通販でもMOVIE WALKER STOREで買うことができ、こちらでは過去のサーチライト作品『ザ・メニュー』や『ナイトメア・アリ―』などのバックナンバーも入手可能だ。買い逃した人はぜひチェックしてみてほしい。
鬼才マクドナー監督にとってライフワークとも呼ぶべき、アイルランドの島々に生きる人々を描く物語であり、初めて映画として記録した原風景。劇場のスクリーンでその美しくも衝撃的な物語を味わったら、劇場パンフレットを通してさらに奥深くまで『イニシェリン島の精霊』という神秘的な世界に浸ってみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬