「濃姫さんは戒名すらわからない。だからこそ自由に描ける」
信長といえば目的のためには手段を選ばない豪腕な革命児というイメージがあるが、房野によると数年前から信長像は変化してきているという。「中世(戦国時代)の最後に近世(江戸時代)に向かって革命を起こしたように言われていますが、研究が進み最近は保守的な信長像が当たり前になっています。全国制覇のように思われていた“天下布武”という宣言も、実は足利将軍をサポートして畿内(現在の京都、奈良、大阪)を平和にしますよという意味なんです」と解説。『レジェンド&バタフライ』は濃姫を絡めることで新しい信長像を描いていると、映画の視点を賛えた。
信長と二人三脚で戦乱の時代を駆け抜けるのが、美濃を治めていた戦国武将、斎藤道三(北大路欣也)の娘である濃姫。信長の正室だが、その素性は謎に包まれている。「平たく言えば情報ゼロ(笑)。たしか『信長公記』でも婚儀のことくらいしか書かれてなかったと思います」とのことで、彼女に限らず歴史上の著名な女性について詳細不明は珍しくないという。「豊臣秀吉(音尾琢真)の正室、高台院(通称ねね)のように名前がわからず戒名で呼ばれている人もいますから。ただし、濃姫さんは戒名すらわからない。だからこそ自由に描けるんですね」。
「めっちゃ強い女の人、絶対いたと思います」
アクションでも定評のある綾瀬は、気性が荒く“マムシの娘”と呼ばれた濃姫を激しい殺陣を含めて熱演。房野にお気に入りのシーンを聞くと、道三が息子である高政の謀反に遭ったとの報せが届き、信長が美濃に向かおうとするシーンを挙げた。「止めようとする濃姫に、お前の父上と兄が争っているから行くんだと信長が説明していると、道三が死んだという一報が届く。それを聞いて、勝ち気だった濃姫が少女みたいに泣くところです。信長が見せる優しさもよかったですね。まだ、2人は打ち解けていませんでしたが、ちょっと距離が縮まったことが伝わる、とてもいいシーンでした」。
そんな濃姫について、房野は包容力のある女性をイメージしていたという。「いつもニコニコしているけど、ちょっと芯が通った感じでイメージしていました。でも綾瀬さんはそのだいぶ上を行っていましたね。もう芯しかないという(笑)」と笑いつつ、戦国時代には武術に長けた強い女性は珍しくなかったと明かす。「お父さんが一番で女性は下という家父長制の価値観は、江戸時代に形成されたものなんです。この時代、今川義元のお母さんの寿桂尼は城主を務めていましたし、数年前にNHK大河ドラマで描かれた『おんな城主 直虎』の井伊直虎なんかもいます。秀吉の側室の淀殿(信長にとっての姪)も政務を取り仕切っていましたし、徳川家康の側室の阿茶局さんも大坂の陣で交渉役という重要な役割担いましたから、今回の濃姫くらい前に出る女性がいてもおかしくないんです。めっちゃ強い女の人、絶対いたと思います」と力説した。
『レジェンド&バタフライ』公式サイトのWEBマガジン「レジェバタ公記」では、房野が“本能寺の変”を起こす明智光秀をはじめとする有名武将たちの描写にも言及。さらに、「織田信長 天下を取ったバカ」で濃姫を演じていた中谷美紀の出演に関しても、ファンならではの視点で興奮気味に語る微笑ましい姿も掲載している。歴史ファンから見ても、新たな発見ができるなど大満足の内容になっている『レジェバタ』をぜひ劇場で鑑賞してみてほしい!
取材・文/神武団四郎