高校生の望まぬ出産から母性を見つめる…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」母たちの生き方に迫るドラマたち
さらに今年のコンペ部門には、親権を巡る闘いや、命の誕生に立ち会う助産師を追う作品など、母という生き物や親子関係など、母親の視点から語る作品がほかにも並ぶ。
争乱の中、息子の親権を求め闘う母『バーヌ』
社会的権力をかさにした夫に息子を連れ去られた母バーヌの闘いを描く『バーヌ』は、まずアゼルバイジャン(イタリア、フランス、イランとの合作)映画ということが目を引く。多くの若者の命が紛争で失われている現状が背景というのも、もちろん効いているだろう。憎しみを駆り立てる戦争や、強者が弱者をねじ伏せる家父長制的な社会において、周囲の人々が夫の報復を恐れてハラスメントの証言を拒む逆境のなか、主人公のバーヌはいかにして闘っていくのか。息子への愛情がほとばしるバーヌを演じたターミナ・ラファエラが、監督と脚本を務める。本作で監督デビューした彼女の、“いまこそ変わらなければ”という熱い想いをとくと味わいたい。ジャファル・パナヒ監督作やハナ・マフマルバフ監督作で編集を手掛ける、マスタネー・モハジェルによるスピード感あふれる編集にも注目したい。
人生の苦さと生命の美しさを描く『助産師たち』
一方、5年の修行を経て「世界で最も美しい仕事」と言われる助産の仕事に就いたルイーズとソフィアの奮闘を中心に、産科医療の現場を描き出す群像劇『助産師たち』は、人生の苦さと生命の美しさ、理想と現実を垣間見せる作品だ。監督は、『愛について、ある土曜日の面会』(09)のレア・フェネール。長編3作目となる本作は、12年前に母親となった監督自身が病院で遭遇した経験が発端となっているという。我々は医者にすがりたくなるが、彼らだって神でも魔術師でもなく、苦悩や痛みを味わいながら、死と生に対峙しているのだろう。そんな彼らの実情や病院の実態など、誰もが広く知見すべきドラマも見逃せない。
「視覚の共有」による独創的映像で心揺さぶる『マイマザーズアイズ』
『写真の女』が2020年の当映画祭でSKIPシティアワードを受賞した串田壮史監督による『マイマザーズアイズ』は、母と娘の少し不思議な体験が紐解くサイコサスペンス。交通事故で視力を喪った母がつけるカメラ内蔵コンタクトレンズと、負傷した娘が装着するVRゴーグルにより、2人は一つの視覚を共有することに。串田いわく「まぼろしの身体を通じて、真実の愛に到達する人々の物語」は、オリジナリティあふれた映像マジックに酔いしれそうな、特別な映像体験になるだろう。
今年は“母の視点”から描かれた社会のあり様、母と子の関係性や母という生き物について、本映画祭からとくと考えさせられることになるだろう。
文/折田千鶴子
現場からお届け!もっと楽しむ「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」特集【PR】
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023
日程:【スクリーン上映】7月15日(土)~7月23日(日)、【オンライン配信】7月22日(土)~7月26日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:https://www.skipcity-dcf.jp/