“笑顔”に戦慄…話題のホラー『SMILE/スマイル』が描く、恐怖の連鎖
新人監督、ノンスタ―かつ製作費1700万ドルという低予算ながら、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」では批評家から80%フレッシュの高い評価を集め、北米公開時には2週連続で1位を獲得し9週連続でベスト10圏内に留まるなど、異例のロングヒットを記録したホラー映画『SMILE/スマイル』が、Netflixほか各配信サービスにて配信中だ。
理由のわからない笑顔が死を招くという興味深い設定で観客をじわじわと恐怖に誘い込む本作。どんな部分が観客の心をとらえたのか、物語、スタッフ、設定などいくつかの要素から紐解いていこう。
怖すぎるゲリラプロモーション…公開前から全米が戦慄
本作の物語は、精神科医のローズがローラという若い女性のカウンセリングを担当するところから始まる。大学院生であるローラは教授の自殺を目撃して以来、様子がおかしいという。様々に姿を変える「何者か」がいると叫ぶローラは、不気味な笑顔を浮かべながらローズの眼の前で自殺してしまう。それ以降、ローズの周囲では人々が彼女に“笑顔”を向けるようになり、ローラの精神は蝕まれていく。
本作が北米公開された1週間前にあたる2022年9月24日。ヤンキース対レッドソックスの野球試合のバッターボックス後方に奇妙な男が目撃された。カメラを見て不気味な笑顔を向け続け、微動だにしないのだ。
別の試合でも“笑顔”を向ける女性が映り込み、さらにアメリカの情報番組「トゥデイ」の生中継のリポーターの後ろには傘を差して笑顔を向け続ける女性の姿が…。
これらはのちに本作のプロモーションであったと明かされたが、そうとは知らずにテレビを観ていた人々はその異様な光景に戦慄。公開前から本作の世界観は始まっていたのだ。
不気味で不安を感じさせる“呪われた笑顔”
人の笑った顔というのは本来、見ているとなんだか幸せに感じるものだ。しかし、この映画に出てくる笑顔は「なぜ笑っているのか?」がわからないため、信じられないほど不気味に感じられる。この単純だが強烈な恐怖が、冒頭から最後の最後まで観客に襲いかかってくる。
映画のポスターにもなっている不気味な笑顔が印象的な女性は、ケイトリン・ステイシーが演じるローラ。開幕10分ほどで登場する彼女の不気味な笑顔は、観客の心を不安と嫌悪感で鷲掴みにする役割を果たしており、彼女の存在が本作のヒットを生みだしたと言っても過言ないだろう。
実は彼女、本作のパーカー・フィン監督が2020年に撮った11分の短編映画で、本作の原点(前日譚といえるかも)となった『ローラは眠れない(原題:Laura Hasn’t Slept )』の主役であるローラを演じている。ある女性が見る幻覚を極限まで恐ろしく描いた同作は、ビデオマーケットなどいくつかの配信プラットフォームでは字幕付きで無料配信中。『SMILE/スマイル』を観て気になった人はもちろん、ホラー映画ファンなら一見の価値がある秀作だ。