山田洋次監督が中国の若き才能グー・シャオガン監督と対談!「寅さんのような愛される映画を作ってもらいたい」
「タイプの違った作品をどんどん試してみたい」(グー・シャオガン)
山田「ここにいらっしゃる皆さんが『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を観ているのかわかりませんが、とにかく彼の処女作は、プロの俳優が一人しか出ていない。あとは全員が素人さんだったり、彼の親戚であったり。これはとても驚くべきことで、その人たちが皆ごく自然に自分たちの毎日の生活を表現し、それがきちんとドラマになっている。実に不思議な映画でした」
グー「今回の『西湖畔に生きる』ではプロのスタッフもスター俳優も参加してくださいました。僕自身が元々映画を専門にした監督というわけではなかったので、タイプの違った作品をどんどん試してみたいという考えがありました。前作のような表現の仕方も考えたのですが、テーマが詐欺ということもあり、もっと客観よりも中に入っていくようなイメージです」
山田「あの題材ならそうならざるを得ないかもしれないね。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』にはクローズアップなんかなかったんじゃないかと記憶しています」
グー「そうです」
山田「ほとんどが引きのショットで長回しでね。日本で言えば溝口健二。ヨーロッパだとテオ・アンゲロプロスですかね」
グー「謝謝」
山田「僕は黒澤明監督と親しくさせてもらっていたけど、あの人もものすごくアンゲロプロスが好きなんですよね。黒澤さんの映画とは全然違うんですけど。それで僕もおもしろいなと思っていてね。また『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の話ばかりで申し訳ありませんが、あの映画の中で恋人の男性が川に飛び込み泳いで、自分の父親を紹介するまでの長回しシーンは何分ぐらいありましたかね?」
グー「13分ぐらいでしたね」
山田「フィルムだったらできないですね、13分は。せいぜい9分くらいで終わってしまうからね。あのショットはすごいです」
グー「あの長回しは17回か18回撮り直しました」
山田「ということは、彼は17回か18回も泳いだわけですか?」
グー「はい。もう泳がなくていいと言ったら、クランクアップだと思ったそうです(笑)」
山田「彼は水泳の選手だったんでしたっけ?」
グー「はい、学生時代は水泳の選手だったそうです。そして実際に彼はヒロインの恋人だったんです」
「監督の人柄が出るような映画じゃなきゃいけない」(山田洋次)
グー「山田監督はもう90作も映画を撮っていますから、僕もまだまだ色々な可能性があるんじゃないかと思っています。もっと様々な映画を試していきたい。映画ファンのなかにはそれぞれの“キネマの神様”が存在していて、僕にとっては山田監督がそれに近い存在だと思っています」
山田「そんな、とんでもないことです」
グー「まだ『西湖畔に生きる』が2作目なので、これからも努力していきたいと山田監督を見て感じています」
山田「『春江水暖〜しゅんこうすいだん』のチームも素敵だったんで、あの続編がいくらでもできるんじゃないかと思います。こないだ上海でもお話ししましたが、例えばもうひとり甥っ子がいて、彼は北京電影学院で勉強をしている。彼が映画を作るけど、大失敗してね。本人が傷ついて帰るから、みんなは素知らぬふりをしないといけないとか。そういう話を考えてしまいます」
グー「上海でその話をしてから、いつかそれが実現できるようにと願っています。山田監督と映画の話をすると、映画の見方や考え方、ストーリーづくりなど、あらゆる面でカンフーの達人から拳法を学んでいるように思えて勉強になります」
山田「私も黒澤さんと晩年に話をしている時には、いつもそういう気持ちになっていました。彼は夢中になるとどんどんイメージが広がっていく。よく言っていたのは、映画が完成して映画館で観ると、自分が予想していなかったようなにおいのようなものがスクリーンから流れてくるのだと。つまり監督の人柄というものが出てしまう。あるいは出るような映画じゃなきゃいけないということでもあります」