大型作品の日本ロケを誘致するには?東京国際映画祭のセミナーで海外のプロデューサーらが語った”4か条”

コラム

大型作品の日本ロケを誘致するには?東京国際映画祭のセミナーで海外のプロデューサーらが語った”4か条”

日本に必要なのは、どの街でも共通の「撮影に関する一元化されたルール」

セミナーの第2部では、ジョージナ・ホープ氏、2019年よりNetflixでアジア太平洋地域制作ポリシー担当ディレクターを務めるデブラ・リチャーズ氏、カナダのプロデューサーで、日本で『シルク』(07)を撮影、HBOとA24による最新作『The Sympathizer』(24、パク・ チャヌク、フェルナンド・メイレレスほか監督)ではタイで大規模な撮影を行ったニブ・フィックマン氏、そしてジャパン・フィルムコミッション事務局長の関根留理子氏が登壇しパネルディスカッションが行われた。

ジョージナ・ホープ氏、Netflixのデブラ・リチャーズ氏、映画プロデューサーのニブ・フィックマン氏、ジャパン・フィルムコミッション事務局長の関根留理子氏によるパネルディスカッションの様子
ジョージナ・ホープ氏、Netflixのデブラ・リチャーズ氏、映画プロデューサーのニブ・フィックマン氏、ジャパン・フィルムコミッション事務局長の関根留理子氏によるパネルディスカッションの様子[c]MPA/JIMCA2023

日本における撮影経験が豊富なホープ氏は、「日本での撮影に対する関心は非常に高いので、私たち全員がここで問題点を洗い出し、最善の方法を考えれば簡単に解決できると思います」と発言。そのなかでも第一の問題に挙げるのは、どの街でも共通する道路使用許可や撮影に関する一元化されたルールづくりについてだった。「渋谷での撮影ではスニーカーを履いてくることが必要不可欠なんです。それは、“ゲリラ撮影”という楽しい方法があるからです(笑)」と、ホープ氏は笑いをとるが、街によってルールが異なる行政との交渉は疲弊するばかりだと語る。そして、使い勝手のいいロケーションインセンティブがなければ、ロケ撮影は他国に流れる一方だと警鐘を鳴らす。

ピュリッツァー賞受賞小説が原作のHBOのミニシリーズで、70年代半ばのベトナム難民の物語である『The Sympathizer』をタイで撮影したばかりのフィックマン氏は、「当初は物語の舞台であるベトナムで撮影する予定でしたが、インセンティブもなく、政府の協力体制も望めませんでした。HBOにとってインセンティブは絶対条件でした。そこで、魅力的なインセンティブと高度な撮影インフラが整った隣国のタイで撮影することに決定したのです」と語る。タイにはハリウッドなどの海外で経験を積んだローカルスタッフも多く、ソフト面でもハード面でも海外作品のプロダクションを受注する環境が整っているのだという。それはフィックマン氏の母国カナダも同様で、政府が国内作品と外国作品に対し同等のインセンティブを与えることで作品誘致に成功し、ハリウッドの大型作品に携わったスタッフが著しく成長した。その彼らがローカル作品を手掛けることで、カナダ製作の映像作品の水準が上がる好循環が生まれたという。


「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」の新シーズンも政府からの支援策により、タイがロケ地として選ばれた
「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」の新シーズンも政府からの支援策により、タイがロケ地として選ばれたPhotograph by Courtesy of HBO

Netflixのリチャーズ氏が提示する、ロケ誘致に必要な4か条

Netflixの制作体制を決定するリチャーズ氏は、ロケ誘致に必要な4か条を挙げた。それは「スタッフの能力」「撮影インフラの整備」「撮影フレンドリーな環境」そして「インセンティブ」であり、現在その4点が完璧に揃っているのがタイだという。「タイはローカルプロダクションではなく、国際的なプロダクションに携わってきたので、競争力のあるグローバルなインセンティブを作りました。スタジオやプロダクションサービスなどのインフラも整っていますし、政府も尽力しています。オーストラリアでもニュージーランドでも同じです。例えば、フィジーにはかつて70%リベートという魅力的なインセンティブがありましたが、経験値のあるスタッフもインフラもなく、すべてを持ち込まなければなりませんでした。つまり、ロケ誘致を成功させるためには4つすべてが必要なのです」。

ジャパン・フィルムコミッションの関根氏によると、ホープ氏が例に挙げた「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」に限らず、マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の原作を映画化した『沈黙-サイレンス-』(16)や、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(23)といった大型作品も日本での撮影を検討していたが、インセンティブの有無や許認可の煩雑さで断念したという。

映画の力で世界をカラフルに!「第36回東京国際映画祭」特集

関連作品