鼻水を流す闘士、マジギレ運転手、毒盛る大富豪…“感情の俳優”ラッセル・クロウが最新作で見せた“ポーカー・フェイス”な演技
毒を盛る大富豪?ラッセル・クロウが感情を出さない難役に挑む最新作!
“ポーカー・フェイス”とはカード・ゲーム用語で、自分の手の内を相手に知られないように無表情でゲームを進める手法。感情を大きな武器として戦ってきたラッセル・クロウが監督二作目に選んだのは、その名も『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』。オンライン・ポーカーのプログラムを開発し、莫大な富を築いたギャンブラーのジェイク(クロウ)。彼は少年時代の親友でポーカー仲間だった5人を豪邸に招待し、ポーカーをしようと持ちかける。しかもジェイクはそれぞれに500万ドル(約7億5000万円)分のチップを渡し、その金は最後に勝った者の総取りになるが1人でも辞退すればこの話はなかったことになる…とルールを説明。なにかしらの問題を抱えている彼らはゲームを受けることにする。最初のうちは昔話に笑い合う彼らだったが、やがて嫌な汗をかき始め気分が悪くなっていく。そしてジェイクは「毒を盛った」と告げる。毒の猶予は8時間。疑心暗鬼のなか、かつての親友たちの隠された事実が徐々に明らかになっていく。ところがそこに屋敷の高価な絵画を狙う強盗が侵入。やがて事態はジェイクが用意した筋書きとは違う方向へ向かっていく…。
前半、ジェイクはほとんど表情を出すことなく準備を進めていく。なにごとか聞いてくる娘に「やつらには借りがある」と答える。ジェイクには表と裏、2つの顔があった。この2つの顔を持つ人物はクロウの得意とするところだ。実在するノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュを演じた『ビューティフル・マインド』(01)では、人前では否の打ちどころのない立派な紳士だが、裏では統合失調症で実在しない親友やスパイたちが見えており、実は苦悩する人生を送っていた天才数学者という二面性を見事に演じ、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞した。また先の『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』でも通常は優秀な科学者で紳士のジキル博士だが、抑えている薬が切れると“ハイド”という邪悪な人格が出て暴れるという二重人格のヒーローを演じている。
盛った毒が効いてくるまでは笑顔だったジェイクも事態が変わってからは“ポーカー・フェイス”となる。クロウは感情を顔に出さないが、瞳の奥に感情を見せる。そのことを象徴するのが本作の冒頭にある美術館のシーン。クロウの顔のアップとなり、彼が見ている絵画から過去の回想になる。つまり瞳に映っている絵画はジェイクの感情なのだ。その感情をどこまで読み取れるか。ジェイクはいったいなにを企んでいるのか?想像を超えた結末が待っている。
ラッセル・クロウが得意とする感情演技を封印して挑んだ『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』。このところ作品ごとに新たな一面を見せてきたクロウが、また違う顔を見せてくれた。あなたはポーカー・フェイスで仕掛けてくるラッセル・クロウの手の内を見透かすことはできるだろうか。
文/竹之内円