時の天皇や藤原道長ともつながりが!意外と知らない?陰陽師&安倍晴明のお仕事
狂言師、野村萬斎が安倍晴明を演じた映画『陰陽師』
夢枕獏の人気小説シリーズ「陰陽師」を、『おくりびと』(08)の滝田洋二郎監督が映画化した映画『陰陽師』(01)。人嫌いで変わり者の陰陽師、安倍晴明が、雅楽家としても名を残した貴族、源博雅と共に、平安京で起こる怪奇事件を解決していく。本作は動員220万人の驚異的な大ヒットを記録し、同じスタッフ&キャストで続編『陰陽師II』(03)も製作された。
原作者たっての希望で、主人公の晴明を、本作が初主演映画となった狂言師、野村萬斎が演じている。晴明とコンビを組む博雅役には伊藤英明。1作目に登場する陰陽寮の最高位、陰陽頭の道尊役は真田広之が演じ、晴明と迫力に満ちた死闘を繰り広げた。
まず、日本の古典芸能に裏打ちされた野村の美しい所作、声の出し方、佇まいから漂うオーラそのものが神秘的な晴明のイメージにぴったり。映画のクライマックス、道尊と対決する晴明が五芒星を描きながら呪文を唱えるシーンや、晴明が博雅の命を救うため、自身が得意とした蘇りの術「泰山府君祭」を行うシーンなど、陰陽道における数々の重要な秘術がしっかり描かれているのも注目ポイントだ。晴明が常に身一つで術を使いこなすのは、彼が陰陽道のすべてを体得して超越した存在になったことを意味している。
狡猾な安倍晴明が登場する「光る君へ」
現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」にも晴明が登場。王朝文化が花開いた平安時代中期、世界最古の女性文学といわれる「源氏物語」を執筆し、一条天皇の中宮彰子の側近になった紫式部の生涯を吉高由里子主演で描く。紫式部と惹かれ合いつつも、単なる恋愛関係を超えて、互いに影響を与えるパートナーになっていくのちの最高権力者、藤原道長を柄本佑が演じている。
個性の強いキャラクターが数多く登場する本作のなかでも、とりわけインパクトの強い人物の一人が、ユースケ・サンタマリア演じる陰陽師、安倍晴明。紫式部や道長と同時代を生きた彼は、陰陽寮に属する天文博士として登場する。お金や地位に貪欲、世渡り上手でずる賢いという本作の晴明の人物像は、これまでの作品で描かれてきたクールなヒーローのイメージをガラリと覆すものの、むしろ本当はこうだったのでは…?と思わせるリアリティと説得力がある。
本作で描かれるのは、花山天皇から一条天皇の時代になると共に、天皇の外戚となった藤原兼家とその五男である道長が権力を掌中に入れた時代。劇中、晴明が円融天皇に譲位を促し、次の花山天皇の即位日まで決めるシーンでは、陰陽師がいかに政治に深く関わっていたかがよくわかる。晴明が兼家の意向を汲んで、天の異変を謀略の日取りに利用しただけでなく、花山天皇が寵愛した妊娠中の女御、藤原忯子に呪詛をかけたことをほのめかすシーンも衝撃的だ。当時の人々にとって、陰陽師は頼もしい存在だった反面、その能力によって人を殺すこともできる恐ろしい存在だったのである。