『名もなき者』ジェームズ・マンゴールド監督、日本の観客からの質問に次々回答!ティモシー・シャラメがボブ・ディランにハマった瞬間とは?
ティモシー・シャラメが若き日のボブ・ディラン役を熱演した映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2月28日公開)を引っ提げて、来日を果たしたジェームズ・マンゴールド監督。2月4日には109シネマズプレミアム新宿で行われたプレミアム試写会に出席し、最高の音響で本作を楽しんだ観客からの熱い質問に答えた。
本作の舞台となるのは1960年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーン。19歳だったミネソタ出身の一人の無名ミュージシャン、ボブ・ディランが、フォーク・シンガーとしてコンサートホールやチャートの寵児となり、その歌と神秘性が世界的なセンセーションを巻き起こしつつ、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの画期的なエレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスで頂点を極めるまでを描く。
「風に吹かれて」「時代は変る」「ライク・ア・ローリング・ストーン」といった数々の名曲を浴びながら、ディランのドラマチックな青春時代を辿ることができる本作。上映後の会場から大きな拍手が湧き起こるなか、マンゴールド監督がステージに登壇。熱気あふれる歓迎に「ありがとうございます」と手を振って応えた。
「ティミーとエルが良い友人関係であったことが、本作で効果的に働きました」
原作と出会い、「ぜひ映画にしたいと思った。その2週間後には、トロント映画祭でティモシーに会っていた」と企画の始まりを振り返ったマンゴールド監督。本作で描かれるディランとは長い時間を共にしながら、道のりを歩んできたという。「ディランに脚本を読んでもらったところ、『気に入った、会いに来てくれ』とおっしゃってくれた。かなり長い時間にわたって、話すことができたんです。そこで質問をしたのは、彼に関する本を読んでもあまりわからない部分。例えば『あの時は一体、どのような気持ちだったのか』などそういったことをたくさん聞きました。いろいろと教えてくださった」と感謝しきり。対話するなかでは「すごく映画がお好き。いろいろな映画を観ている」と発見したこともあるそうで、「僕とはたくさんおしゃべりをしてくれて。全然シャイではなかった」とディランの素顔を明かして、会場を沸かせた。
この日は、MOVIE WALKER会員限定で招待された映画ファンがぎっしり詰めかけ、上映後のイベントとあって会場からの質問にも回答した。ディランを演じたシャラメと、当時のディランの恋人であったスージー・ロトロにインスパイアされたシルヴィ役を演じたエル・ファニングが、すばらしいケミストリーを見せている点も印象深い。「共演を重ねている彼らがディランとシルヴィを演じている姿は、監督の目にどのように映りましたか?」と聞かれると、マンゴールド監督は「2人はとてもいい友人関係にあるんだ」と笑顔。「ティミー(シャラメ)とエルは、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』で彼らにとってキャリアの初期のころから共演をしている。本作で築く関係性を考えると、ティミーとエルがそもそも友人関係にあったことがとても効果的だったと思う」と分析しつつ、「エルは、世の中の誰もが嫌いになれないような、とてもステキな人」と人柄を称えていた。
ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロ、ピート・シーガー役のエドワード・ノートン、ジョニー・キャッシュ役のボイド・ホルブルックなど、どこまでも魅力的な顔ぶれが揃っている。「それぞれの歌やパフォーマンスも圧倒的だった。キャスティングの経緯を教えてください」という問いかけには、「ボイドは自分の作品に3作、出てくれています。決めるのは簡単でした」と信頼感を打ち明け、「ボイドやモニカも、歌えるかどうか確認をしないままキャスティングした。ティミーが少し歌えるということは知っていたけれど、ボブ・ディランの歌を歌えるかはわからなかった。映画の監督は、映画の道に進むことができなかったら、ギャンブル依存症みたいな人物が多いのでは。直感を信じて、本能でキャスティングしていることが多い」と茶目っけたっぷりにキャスティング秘話を語っていた。
ある種の賭けであったというキャスティングだが、劇中ではシャラメがディランの歌声やギターのピッキングまでを見事に体現している。マンゴールド監督は「僕も誇らしく思うような演技だった。それはティミーがどれほどこの役に献身的に臨んだかという証でもある」と努力を重ねたシャラメを絶賛し、「2021年、2022年ころにクランクインをしようとしていたけれど、ストやコロナ、他の作品など、いろいろなスケジュールの問題で2024年になりました。逆を言えば、ティミーはこの役を演じるために5年以上の時間をかけることができた」と逆境もバネにした様子だ。
また「クイーン」の光と影を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(18)やエルトン・ジョンの半生を映画化した『ロケットマン』(19)、エルヴィス・プレスリーの知られざる真実に迫った『エルヴィス』(22)など、近年において音楽映画の秀作が世に送り出されているなか、「そういった伝記音楽映画から、影響を受けて落とし込んだものはあるか?」という質問もあった。マンゴールド監督は「ノー」と笑顔でコメント。「同じタイプの作品を生み出すことは、怖いと思うタイプです。20年ほど前にジョニー・キャッシュの映画『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』を作りましたが、同じタイプの作品が続いていると、『もしかしたらいまこれ作るのは、タイミングを外しているのではないか』と思うタイプだ」と明かす。
マンゴールド監督は、『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』に続いて本作でもジョニー・キャッシュを登場させたり、『LOGAN/ローガン』(17)では主題歌としてキャッシュ の「The Man Comes Around」を起用してきた。「ジョニー・キャッシュから受けた影響はありますか?」という質問に、「もちろんジョニー・キャッシュは大好きです」とにっこり。「愛さずにはいられない。西部劇のキャラクターのような、一匹狼のような人。それまでの常識を破るような力を持った人物像をしている。脚本を書いていて楽しい存在で、望む要素をすべて持っているような人なんだ」とキャッシュへの愛をあふれさせながら、「実は今回の原作の本には、ジョニー・キャッシュはそんなに登場していなかった」とも。「『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』の制作時に、ボブ・ディランとジョニー・キャッシュの間で手紙のやり取りをしていたことを思い出して。彼らは書簡のやり取りも続けていたし、ナッシュビルでは共同ですばらしいレコードも作り上げた。本作のクライマックスとして描かれるボブのパフォーマンス時にも、ジョニー・キャッシュはその場にいたんですね」と彼らの関係性も楽しく描いたという。