ウィル・スミスとジョエル・エドガートンが語る、ファンタジーで人種差別を語る意味|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ウィル・スミスとジョエル・エドガートンが語る、ファンタジーで人種差別を語る意味

インタビュー

ウィル・スミスとジョエル・エドガートンが語る、ファンタジーで人種差別を語る意味

ウィル・スミスが『スーサイド・スクワッド』(16)のデヴィッド・エアー監督と再びタッグを組んだNetflix配信映画『ブライト』(12月22日より全世界同時オンラインストリーミング配信中)。本作を引っ提げて来日したウィルと、彼のバディ役を務めたジョエル・エドガートンを直撃!

『ブライト』の舞台は、人間と様々な種族が共存する“もう一つの世界”のロサンゼルス。種族によって階級が異なり、一番上がエルフ、続いて人間、一番下層の階級にいるのが醜いオークとなっている。人間の警官ウォード(ウィル・スミス)は、怪物オークの警官ジャコビー(ジョエル・エドガートン)とバディを組んでいるが、ある日、地球の運命をも左右する大きな事件に巻き込まれていく。

ウィルのバディムービーといえば、人気SFシリーズ『メン・イン・ブラック』が代表格に挙げられるが、本作では異なる種族の凸凹コンビという設定が面白い化学反応を起こす。また、今のアメリカを風刺したような階級社会の設定が巧みなフックとなり、予想外の感動へと導く。

ベテラン警官であるウォードが、オークのジャコビーを時に見下すシーンもある。ウィルはこの設定に絡めて、自分がいじめに遭っていたという過去を告白。

「僕は17歳の頃、フィラデルフィアで住んでいて、いじめの対象となっていた。だから今回、その体験を役柄の関係性に活かすことができた。といっても、オークのジャコビーと僕が演じるウォードの立場を逆転する形にはなったけどね」。

ウォードがジャコビーに対して露骨に嫌悪感をぶつけるシーンは観ていて実に切ない。ウィルは、そういう人種差別問題を露骨に扱えるところがSFファンタジーの良さだと捉えている。

「ファンタジーの世界だからこそ、実際の社会的な問題を語ることができる。普通の映画でならストレートに言えないことも、本作ではズバズバと口に出せたし、ファンタジーの作用によって、そういう問題が少し柔らかく包まれるところがいいんだ」。

ジョエルは「現在のアメリカでも人種差別は蔓延している」と言う。「そういう問題をずっと隠してきたという歴史もある。本作でのオークはあまりにもわかりやすく嫌われていて、実際にウォードは声を出して『オークが大嫌い』と言ってしまっている。でも、このレベルの酷い人種差別は昔に実際あったことで、今も実はいろいろな場所で根付いているんだと思う」。

ジャコビーは、小さい頃から警官に憧れ、人間のようになりたいと願ってずっと努力をしてきた誠実な男だ。そして夢を叶えてオーク初の警官になったが、ある時、彼が失敗を犯したことでウォードが大怪我を負ってしまう。

ジョエルは3時間の特殊メイクを施し、武骨なジャコビーを演じたが、不器用すぎる点や生真面目すぎる行動を見ているとなんとも切ない気分になる。「ジャコビーというキャラクターは本当に純真な男だ。誰かに何かを言われると、それをすぐに真に受け、信頼してしまう。そういう無垢な点はとても尊敬できる。我々みんながジャコビーのような人だったら、もっと違う世の中になると思う」。

ウィルは、そんなジャコビーに、過去の自分を重ねたそうだ。「僕自身もジャコビーのように、自分の手で世の中を良くできるんじゃないかと思い込んでいた時期があったように思う。でも、いつからか世の中は腐敗していると思うようになり、自分が生きていくために頑なになっていった。気がつけば人を傷つけるような行動に出たりしたこともあったと思う。そういう人間がジャコビーと出会うと、彼がとても無垢に見えることは間違いない。ただ、純真すぎて世の中をわかっていないから、ジャコビーのせいで自分自身が殺されそうな状況に陥ってしまう。でもその純粋さが物語を意外な方向へ導くんだ」。

記者会見やプレミアでは、終始おちゃめな行動で周りの人々を楽しませてくれたウィル。彼自身、日頃から「常に自分や周りの人々の人生をより良くしたい」と心がけているそうだ。まさに今のウィルはジャコビーのような人間なのではないか。

「それは自分の中枢にある考えで、自分の存在意義にもなっている。僕は自分の行動によって人々の人生をより良くできるか?と1日に25~30回、自分自身に問いかけている。自分が脚本を書く時にもそのことを心がけているし、それをより大きな世界に配信して伝えたいと思っている」。

ジョエルはウィルの意見に大いにうなずく。「ウィルと仕事をすると、そのことをすごく実感するよ。僕自身、ウィルがそんなことを考えているなんて知らなかったけど、まさにそのとおりだ。今回は、他の映画に比べ、現場の雰囲気がすごく良かった。なぜなら彼がキャプテンだったから。もしかして、お互いの役を逆にすれば良かったのかも。僕は世界が腐敗していると思っているから(笑)。僕はもっと利己的で自分勝手なので。僕のミッションは自分の人生をいかにより良くするかということだ」。

ウィルはそれを受けて大爆笑した後「僕も過去には悪い選択をたくさんしてきたよ。当時はTwitterがなかったから良かったけど」と言うと、ジョエルも大笑い。2人は取材中も良きバディぶりを見せてくれた。

ド迫力のアクションやスリリングなストーリー展開はもちろん、非常にエモーショナルなドラマも盛り込まれた『ブライト』。まさにNetflixの勢いを感じさせる快作だ。

取材・文/山崎 伸子

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