声優・津田健次郎「太陽よりも月が好き」“影のある男”を演じる醍醐味とは?
声優・津田健次郎には、ミステリアスで影のある役がよく似合う。マーベル・スタジオ最新作『ブラックパンサー』(3月1日公開)の日本語吹替版では、主人公ブラックパンサーに立ちはだかる最強の敵・キルモンガー役に抜てきとなった。津田が「キルモンガーはただの悪役ではない。とても複雑な葛藤やドラマを背負った男です」というように、なんとも魅力的な悪役となっている。津田にキルモンガーの印象や“影のある男”を演じる醍醐味を聞いた。
本作はマーベル・スタジオの新ヒーロー、ブラックパンサー誕生の物語を描くアクション映画。超文明国ワカンダの国王にして、漆黒のスーツに身を包んだヒーローでもあるという2つの顔を持つ男が、祖国の秘密を守るために奮闘する。
王位をねらってワカンダに潜入するエリック・キルモンガー役を演じた津田は「キルモンガーはいわゆる勧善懲悪の悪役ではなくて、とても複雑なドラマを背負った悪役。やりがいのある役だなと思い、テンションが上がりました。すごくうれしかったです」とオファーを受けた喜びを振り返った。
キルモンガーについて「多面性がある。重い過去を背負っていて、ワカンダをねらうのにも彼なりの正義があるんです」と分析する。「彼からは深い孤独を感じました。そしてとても愚直。鍛練を積んだ元秘密工作員でもあるので、これまで手をかけてきた人数もすさまじいんですが、強さを誇示することでしか生きられなかった男のような気もしています」とキルモンガーに心を寄せ、さらに「とてもインテリでもある。頭脳もあって肉体も強靭。やはり最強の敵と言えると思います」と話す。
演じる上では「バランスを大事にしました」とのこと。「悪としての絶対的な強さも持っているけれど、余白のあるキャラクター。青年特有の“心の揺れ”のようなものは大事にしていきたいと思っていました」。体と体がぶつかり合う肉弾戦も大きな見どころだが「演じているマイケル・B・ジョーダンの息の音、ひとつひとつを忠実に演じました。すごい迫力でしたね!」と興奮しきりだ。
「スター・ウォーズ」シリーズでは、ダース・ベイダーに憧れるカイロ・レンの日本語吹替版声優を務めており、アニメでも「遊戯王」シリーズの海馬社長をはじめ、人を惹きつける悪役をその艶やかな低音ボイスで数多く演じている。影を身にまとった役を演じる醍醐味について、津田は「自分で言うのもなんですが、フィットするんです」とニッコリ。「逆にすごく明るくて天真爛漫な役を振られると、どうしたらいいかわからなくなってしまうかもしれない(笑)。『音に影がある。二面性がある』とスタッフさんにも言っていただいたことがあります」と明かす。
声優としての武器とも言えそうだが、津田は「それをおもしろがっていただいて、カイロ・レンやキルモンガーにもキャスティングしていただいたのかもしれません。ありがたいことです」と感謝しつつ、「僕自身の性格的にも、どこか仄暗いところがあるのかも(笑)。もちろん明るく楽しく過ごしていますし、決してネガティブではないんですよ。でも“太陽よりは月が好き”みたいなところはあります。学生時代も暗い映画や小説が好きでした」と告白。
悪役が魅力的であればあるほど、ヒーローものはおもしろい。津田もどうしても“月”に目がいってしまうという。「僕が本作をいち観客として観たとしても、ブラックパンサーもすごくかっこいいけれど、やっぱりキルモンガーが一番好きなキャラクターになると思います。彼の葛藤やドラマを感じると“生きるって大変だよね”とグッときてしまったり、それでも頑張って生きようとしている姿にとても感情移入してしまったりするんです」。
俳優・声優として、力強く邁進している津田。本作は、自身のルーツやアイデンティティを探る物語でもあるが、津田にとって、演じる仕事の原点はなんだろうか。「映画館が、僕にとってすべてのルーツになっています。中高生のころは名画座に通って、チャップリンやジェームズ・ディーン、オードリー・ヘプバーンの作品などを観まくっていました。『古い映画を観に行こう』と誘っても誰も一緒に行ってくれないので、大抵ひとりで観に行っていました(笑)。いま、その映画をお届けできる立場にいることが本当にありがたいです」と喜びを噛み締めていた。
取材・文/成田 おり枝