池田エライザと清水尋也が語る、『貞子』の号泣&水浸しの現場
中田秀夫監督が久しぶりに「リング」シリーズのメガホンをとった『貞子』(5月24日公開)で、初めてホラー映画のヒロインを務めた池田エライザと、その弟役で共演した清水尋也。撮影で意気投合し、まさに劇中の姉弟さながらに仲良くなった2人に、過酷だったという中田組を振り返ってもらった。
心理カウンセラーの秋川茉優(池田エライザ)は、入院してきた記憶障害の少女(姫嶋ひめか)が、ただならぬ特殊能力を持っていることに気づく。そんななか、動画クリエイターを目指す茉優の弟、和真(清水尋也)が放火に遭った団地を撮影後、消息を絶つ。茉優が和真の撮った動画を再生すると、そこには貞子の姿が映っていた!
「清水くんが弟と似ているから、だんだん弟としてのボルテージが上がっていきました」(池田)
いまでこそ、フレンドリーにじゃれ合う2人だが、実は互いに人見知りで、撮影当初はまったく話せなかったそうだ。池田は「お互いに打ち解けられるまで、かなり時間がかかりました」と苦笑い。
「私はなるべく遠いところから、じーっと清水くんを観察していました。だって、観察していることがばれちゃうと、怖がられると思ったので。2人とも共通の友達がいるわけでもなく、最初は共演シーンも少なかったんです。でも、私には弟がいて、清水くんが弟と似ていることに気づいてから、すごく接しやすくなりました。また、物語が進むに連れて、茉優と和真の絆も見えてきた感じです」。
清水も「僕も最初は、これ以上仲良くなれないのかな…と思っていたんです」と、いまだからこそ明かせる池田の第一印象について告白。人見知りである池田のガードがかなり硬かったと苦笑い。「でも、スタジオで毎日たくさん話していくうちに、距離感が縮まっていきました」。
池田も「本当に弟と似ているから、だんだん心の中で、弟としてのボルテージが上がっていきました。でも、急になでたりしたら変態だと思われるので、堪えていたところがあります」とおちゃめに笑う。
1作目の『リング』が公開されたのは21年前の1998年で、2人はもちろんリアルタイムで観てはいない。では、23歳の池田にとって、“貞子”とはどういう存在なのか?
池田は「私たちの世代は、貞子がなぜそうなってしまったのかを知らずに、ただホラーのアイコン、恐怖の対象として見てきました。実際、夜のテレビ自体が怖いことは、小さい時から植え付けられてきました。私は本当に恐がりだから、毎日びびって生きてきました」と言うが、いまだに夜のテレビ画面は直視できないそうだ。
「地方ロケに行くと、テレビに布をかけたりします。『貞子』の予告編すらも怖くて、若干尻込みしてしまうくらいなのに、この映画のヒロインをよくやれたなあと。ただ、脚本を読んだ時、茉優と和真の関係や、貞子と母親の記憶などには、非常に心が動かされたし、茉優の姿にも惚れたので、やってみたいと思いました」。
「“ホラー部門の日本代表”的作品に出演できてうれしかったです」(清水)。
現在19歳の清水は、『リング』公開時には生まれてもいない。「お化けや霊など、ホラー的な要素といえば、貞子のビジュアルが思い浮かびます。僕は、テレビに布をかけたりはしないけど、それだけ強く怖い=貞子というイメージがついているのかなと。今回、そういう“ホラー部門の日本代表”的作品に出演できてうれしかったです」。
ホラー映画には欠かせない“絶叫クイーン”だが、池田は、ただでさえ大きな瞳を最大限に見開いて悲鳴を上げたり、狼狽したりするので、観ているほうも思わずギョッとする。
「怖がる顔をするための技術もきっとあるとは思いますが、嘘だけはつきたくなかったというか、私は実際に怖いと思うところまで自分の気持ちを持っていかないと絶対に嫌でした。だから『いまから本当に怖いシーンを撮ります』と言われたら、そういうふうに自分を思い込ませ、常にどんな音がたっても怖がれるようにはしていました。大きい目は中田監督がおいしく撮ってくださったという感じです」。
清水演じる和真は、SNSの動画クリエイターを目指し、放火された団地へ肝試しの動画を撮りに行く。和真が撮った動画は、実際に清水自身が手持ちカメラを手に撮影したものが使われた。
「焼け焦げた団地の中に入っていく動画は、全部僕が撮ったものです。セットがめちゃくちゃリアルだったので、細かく全部を映していったら『なにこれ!?ヤバい!』と、自然に反応しちゃいました。それくらい見ていてショッキングなセットでした」。
池田も清水の表情に驚嘆したそうで「しかも、すごい表情で映像が止まるでしょ」とツッコむと、清水も「自分があそこまでおびえた顔は見たことがなかったから、僕ってああいう顔をするんだと思って、笑っちゃいました」とうなずく。
「撮影では自分を追い込みすぎて、記憶も曖昧です」(池田)
茉優が和真を命懸けで助け出そうとして、水に浸かりながら慟哭する、洞窟のシーンも壮絶だ。まさに姉弟の絆が問われる重要なハイライトだが、池田は感情移入しすぎて、ずっと号泣しっぱなしだったそうだ。
「自分を追い込みすぎて、記憶も曖昧です。羽交い締めにされた状態でしたが、カットがかかり、カメラ位置を変える間も、ずっとそのままでいさせてもらいました。水に向かって『嫌だよう』とずっと言い続けていた私は、貞子よりも怖かったのではないかと(苦笑)。私にも弟がいて、あそこは茉優としても、私自身としても、絶対に弟を失いたくないと必死でした。ここまで絶望のどん底に落ちていくんだなと、自分自身も触れたことのないような気持ちになれました。楽屋に戻っても、悪夢が覚めない感じでしたから」。
清水も「僕も身体的にけっこう大変だった数日間でした。和真としては、お姉ちゃんに対する『ごめんね』という気持ちが強かったです。池田さんがずっと泣いていたから、『もう泣かないで』と思いながら演じていました」と、かなり感情が揺さぶられたよう。池田は、撮影が終わったいまも「あそこには当分行きたくない」と述懐。2人が、全身全霊を捧げて挑んだそのシーンは、そのかいあって、激しくもエモーショナルなシーンに仕上がった。
ホラー映画だが、貞子にまつわる人間ドラマの悲劇もきちんと盛り込まれた本作。もちろん「この映画、容赦ない。」というキャッチコピーどおり、全編を通して、中田監督の真骨頂ともいえる攻めの恐怖描写が冴え渡っているので、覚悟して臨んでほしい。
取材・文/山崎 伸子