『サラエボ、希望の街角』 のヤスミラ監督「人生は様々で、その美しさを享受すべきです」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『サラエボ、希望の街角』 のヤスミラ監督「人生は様々で、その美しさを享受すべきです」

インタビュー

『サラエボ、希望の街角』 のヤスミラ監督「人生は様々で、その美しさを享受すべきです」

『サラエボの花』(07)でベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたヤスミラ・ジュバニッチ監督が、再び故郷のサラエボを舞台に描く人間ドラマ『サラエボ、希望の街角』。一人の女性の姿を通し、死者20万人、難民・避難民200万人を生んだボスニア紛争から15年以上を経て尚も傷跡を残すサラエボの現状を鋭く映し出す。そんなヤスミラ監督にインタビューした。

――本作を作ろうと思われたきっかけと、どのようにこの作品が生み出されたのか教えてください

「私は恋愛関係においてこの他人を受け入れるということを探ってみたかったのです。日常における些細な障害が愛し合うふたりに違うリアクションをもたらします。人は日常生活が変化していき、その変化を受け入れるためには違ったリアクションをとるものです。また、私は恋愛関係の中で自分自身に正直でいられるかということを突き詰めてみたかったのです。一連の感情、習得した知識、恋愛関係を形成する経験や想像を。私たちが信じるこの世界に対する見識は、私たちがセックスをする時、その体のリズムにどれだけの影響を与えるものなのでしょうか」

――前作は紛争中にレイプされたことによって生まれた娘と母の葛藤を描いた作品でした。今作では、対照的に子供を産むべきか産まないべきかの選択をする現代女性の繊細な気持ちの変化を丁寧に描かれています。今回、ルナという女性の生き方に込められた監督の思いを教えてください

「『サラエボの花』の主人公エスマには、子供を産むか産まないかという選択肢はありませんでした。収容所でレイプされ、中絶ができない時期までそこで監禁されていたからです。一方、『サラエボ、希望の街角』の主人公ルナは仕事があり、自分を愛してくれる恋人との幸せな生活を信じ、そして子供を望んでいます。しかし環境が変わってしまい、女性としての根本的な疑問を持つのです。一番大切なことは彼女は自分ことは自分で決められるということです」

――ルナがかつて住んでいた家に戻るシーンで、今住んでいる少女に「どうして出て行ったの」と聞かれ、ただ頭をなでるシーンが印象的です。ここでルナが考え、受け止めたものとは何だったのでしょうか?

「ルナは10年以上の間、行くことのできなかった昔の家を訪ねます。彼女が子供の頃、町がセルビア軍に占領され、家を追い出されたのです。彼女の両親は殺されました。かつての自宅への訪問は彼女にとってはとてもエモーショナルな瞬間なのです。まず、行こうと決心するまでかなりの努力が必要でした。それは今、自分の人生に起こっている目の前の一大事を決心するうえで、過去と対峙し、過去の問題を解決することが必要だと彼女は思っていたのです。現在、昔のルナの家に住んでいる少女は敵の娘で、その子は『ここは私の家なの』と言います。ルナはすぐに『いいえ、ここは私の家よ』と言い返したかったのです。しかし彼女はこの少女も、かつての自分と同じく、子供自身には何の罪もないことに気づくのです。そしてルナは彼女に愛を与えました。彼女はその子に自分自身を発見し、そして自分自身を勇気づけたのです。この愛が彼女を動かす力となりました」

――紛争前のサラエボは異なる民族や宗教がおおらかに共存する世界的にも稀に見る理想の街だったと聞いています。監督の考えるサラエボのこれから歩むべき未来、世界がこれから歩むべき未来はどういう姿でしょうか?

「この答えは私こそ知りたいです(笑)。真剣に答えますと、これをクリアに答えられる人も、クリアな答えもないように思います。サラエボはもっとポジティブな形で過去のトラウマ的な経験から抜け出す方法を見つけないといけないですね。これは簡単ではないのです。経済的状況が自由を許さない現状ですから。文化面での寛容さ、異質なものへの愛、他者への恐怖をなくすこと、新しいものや知らないものへの過剰反応をなくすなどでしょうか。私がいつもこれに対して一番大切と思っていることは物事を理解するうえで何でも決して1つではないということです。残念ながら、私たちの文明や経済は操作から成り立っています。この操作は皆が同じ方向に向くという性質で成り立っているのです。しかし人生というのは様々であり、その美しさを享受すべきなのです」

――象徴的なラストシーンでしたが、監督が託したメッセージは何でしょうか?

「まさにあの場面のルナは自身の中にある真実にたどり着いたのです。彼女は大きく変化しました。彼女は自分の人生がアマールの人生から違った方向へ進んでいると気づいたのです。そして、その新しい道がどんなに大変なものであっても進んでいこうと決めたのです。それは彼女の決断であり、彼女のための人生なのです」

――最後のルナの決心についてお聞きしたいのですが、監督自身の考える結論はありますか?

「もちろん! しかし、私は観客たちに自分たちなりの解釈をしてほしかったのです。これは決して観客をトリックで翻弄しようとかそうした意図ではないのです。誤解しないでくださいね。私はあくまでも観客たちに結論を委ね、どのように話が終わるのかを自分なりに決めてほしかったのです。私がこの映画製作の過程で重なる旅を通じて様々な答えに出会いました。西欧ではルナは子供を中絶し、二度とアマールには会わないだろうと、東欧では彼女は子供を生んで一人で育てるだろうと。また最後のシーンでのアマールの視線にも色々な意見がありました。彼は彼女に戻り、また仕事も得るだろうと。私はこの映画が人々を自分自身なら人生においてこのような重要な事に対しどのような決断を下すのかという自分の深層心理を知るきっかけになれば嬉しいです」

――日本の観客にメッセージをお願いします。

「この映画を日本の皆様に見ていただく機会を与えていただきとても光栄に思っています。私は日本の観客をとても尊敬しており、皆さんが映画を気に入ってくださると何よりです。前回日本から持ち帰った2つのものを今回の映画の中に取り入れています。どなたか気づいたら教えてくださいね」

未だ世界には紛争の続く地域が数多くある。サラエボを見続けてきたヤスミラ監督ならではの視点で描かれた本作は、当たり前に平和を享受している日本人の胸に、鋭く突き刺さることだろう。【Movie Walker】

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