アニメ界の重鎮が「ひつじのショーン」と来日!スタジオジブリや日本文化から受けた影響とは?
「日本をゆっくり回るという野望を、ようやく達成することができたよ」。世代や国境も越えて絶大な支持を集める「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」シリーズを生みだした「アードマン・アニメーションズ」の創設者で、監督やプロデューサーとしても数多くの作品を手がけてきたピーター・ロードは、休暇で訪れた日本の地で創作へとつながる刺激を受けたことを満足そうに振り返った。
「今回の来日では瀬戸内海に浮かぶ直島にある素晴らしいギャラリーや、京都の古典的で美しい庭園、それに普通の人々が暮らす一般的な住居。あらゆるものからインスピレーションを受けているけれど、実際にそれがどのようにして作品に表れていくのかは、自分でもよくわからないんだ。いいアイデアがあって、突然スイッチが入って初めて形になるんだ」。
ピーターが日本から受けた影響はそれらだけではない。日本を代表するアニメスタジオ「スタジオジブリ」もその極めて重要な一つであり、アードマン・アニメーションズとスタジオジブリの出会いは10年以上前に遡る。「ジブリ美術館で私たちアードマンの展覧会を開き、そこで宮崎駿さんをはじめとしたスタジオジブリの方々とお会いしました。宮崎さんが特に気に入ってくれたのは、私たちが高校生の時にスタジオを興してから、大きな会社とは独立するスタンスを守り続け、常に自分たちでコントロールをしながら商業的なプレッシャーから解放された作品づくりをしているということでした」。
そして「ジブリの持っている純粋な芸術性や、美しい絵、すばらしいデザインからは多くのインスピレーションを与えられてきました。アードマンはクレイ・アニメという触覚的かつ伝統的な形で映画を作っていますが、彼らの作りだす手描きアニメーションも核は同じ。個人的で親密なハンドメイドのものです」と深い敬意を表す。また、昨年4月に亡くなった高畑勲監督について「彼はすばらしいアーティストで、人間的にもすばらしい方だった。イタリアの映画祭でお会いした時には夕食を共にしましたし、彼の手掛けた『ホーホケキョとなりの山田くん』も大好きな作品。亡くなったと知った時、とても悲しかったです」と声を詰まらせながら思い出を語ってくれた。
アードマン・アニメーションズは今年、「ひつじのショーン」シリーズの長編最新作となる『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』(12月13日公開)が控えている。「僕はショーンが大好きなんだ」と満面の笑みで語るピーター。「ニック・パークが生みだし、それをリチャード・スターザックがアレンジしていまに至る。だからショーンは、2人の才能あるアーティストが作り上げてきたキャラクターといえるだろう」。1995年に公開された『ウォレスとグルミット、危機一髪』で初登場し、その後2007年にテレビシリーズがスタートした「ひつじのショーン」。初長編作品『映画 ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』(15)は第88回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされるなど批評家から絶大な支持を獲得し、現在もイギリス・BBCではテレビシリーズのシーズン6が放送されている。
ショーンのどのようなところが好きなのか?そう訊ねてみるとピーターは「非言語的なところだね」と即答。「サイレント映画ではないけれど、セリフに頼っていない。ビジュアルだけのストーリーテリングで、作るのはとても大変だけれど楽しいんだ。それは“モーフ”も同じだね」と、自身が1977年に携わったテレビシリーズ「Take Hart」に初登場して以来40年以上ともに歩み、プライベートで旅をするときにも常に一緒にまわるという相棒“モーフ”との類似性を指摘する。
「アードマンではシニカルな作品は作らない。前作『バック・トゥ・ザ・ホーム』の時も皮肉や風刺を入れず、純粋に創造性を追求して作ったんだ。結果的にはお金を使いすぎていたから儲けにはならなかったけど、そのおかげですばらしいものができた。常にスタッフみんなが作品をより良くしたいと頑張って作っていて、なによりも本当にやりたいことや自分たちが大好きなこと、自分たちが観たいものを作っているからこそ、知的でスマートな作品になったんだ」と、これまで守り続けてきた作品づくりにおけるポリシーに、確かな自信をのぞかせていた。
そして、いまだ謎のベールに包まれている最新作『UFOフィーバー!』についても「すごくおもしろい作品になっている」とアピール。「家族向け作品だから子どもたちは大喜びすると思うけど、所々に過去のSF映画へのオマージュが登場するんだ」とにんまりと微笑むピーターは、その一例としてローランド・エメリッヒ監督の『インデペンデンス・デイ』(96)やティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』(96)のタイトルを挙げる。
また来年には、ピーターが監督を務めたアードマン初の長編作品『チキンラン』(00)の20年ぶりの続編『Chicken Run2(仮題)』も待機。「続編を作るアイデアは何度もあったが、なかなか良いストーリーが見当たらなかった。でも長い時間をかけてようやく良いストーリーを見つけることができて、ニック・パークやサム・フェルといった良いスタッフとチームを作れることになって、やっと踏み切ることができました」と語るピーターは、2005年に起きたスタジオ倉庫の火災についても言及する。「あの火事で『チキンラン』の資料がすべて灰になってしまったことも、続編になかなか手が出なかった理由のひとつだった。でもまたあのキャラクターたちと一緒に遊びたいと思ったから、キャラクターをすべて作り直しました」。
そして「スタジオとしてもこのまま長編映画やテレビシリーズをどんどん作っていきたい」と語るピーターには、現在6、7本のアイデアがあり、すでに3本のストーリーが出来上がっているそう。「新作のいくつかはNetflixのような新しいプラットフォームで発表するのもいいかと考えているし、色々なプランがある。アイディアはいっぱいあるから、長編を作ることは本当に大変だけれど、良いストーリーをどんどん作っていきたい」と、今後も世界のアニメーション業界を牽引していく強い意志を表明した。
取材・文/久保田 和馬