塚本晋也&ギャスパー・ノエの対談が実現!日仏の鬼才監督が明かすインスピレーションの源とは?
『アレックス』(02)や『LOVE 3D』(15)など、物議を醸す問題作を次々と発表してきた鬼才中の鬼才、ギャスパー・ノエ監督の最新作にして、第71回カンヌ国際映画祭監督週間で大きな賛否を巻き起こした『CLIMAX クライマックス』が、11月1日(金)より日本公開を迎える。それに先がけて来日したノエ監督と、『鉄男』(89)や『斬、』(18)などで知られる塚本晋也監督の対談が実現。27年来の友人同士である2人に、互いの作品への印象やインスピレーションを受けた映画について語り合ってもらった。
「ギャスパーの厳密なまでの緻密さを感じた」(塚本)
――まず、塚本監督が『CLIMAX クライマックス』で惹かれたポイントを教えてください。
塚本晋也(以下:塚本)「ギャスパーの作品はいつも必ず好きなんです。ギャスパーの作品には大きな“言いたいことの塊”のようなものがあって、それが『カルネ』のころから少しずつ解きほぐされて、明らかにされていくことで、ギャスパーの心の秘密に迫っていくような感じがある。だから暴力的な作品でも、どこか愛情にあふれていてすごくリアルで刺激的。それに、痛みにしても感情にしても、精神と肉体がぶつかり合うような感じがいつもあって、今回の作品はそれをダンスで表現していく。いつものテーマがより爆発的に広がっていくので、期待と同時に恐ろしさも感じながら釘付けになって観ていました」
ギャスパー・ノエ(以下:ノエ)「これまで僕のすべての映画を酷評してきた批評家たちが、この映画を観て『とうとうギャスパーも良い作品を作り上げた』と言ったんだ。それはまさに、冒頭の長いダンスシーンがあったからなんだよ。ダンサーたちの天才的かつ肉体的な能力が結集されていて、同時に踊る喜びのようなものが表現されている。まあ、このシーンで僕が貢献したことは10%ほどしかなくて、あとは振付師とダンサーたち、スタッフのおかげなんだけどね(笑)」
塚本「あのシーンでの役者の台詞には脚本があったの?それともアドリブ?」
ノエ「すべての台詞が即興で、シナリオに書かれた言葉はないんだ。だけど指示はたくさん伝えたよ、『楽しんで』とか『笑わせて』とかね。あまりにおもしろすぎて、カメラの後ろで笑ってしまったこともあったぐらい(笑)。プロの俳優は2人だけで、ほかはカメラの前に立つのも初めてなダンサーたちだったから、役の説明や映画における役割は伝えたけれど、まずはフレームの中で楽しんで映画を作ってほしいと言ったんだ。そうすることで、彼らは僕以上にアイデアを役に加えてくれたんだ」
塚本「みんな自然に見えたし、本物に見えた。ダンスのシーンに関しては10%だというけれど、すべてが本当にここで起こっているような臨場感があって、ギャスパーの厳格なまでの緻密さを感じましたね」
ノエ「造形的な美しさというものはシネフィルたちが選んだものだと思っていて、僕自身が美しいと思う映画は鈴木清順の映画であったり、(ライナー・ヴェルナー・)ファスビンダーの『ケレル』であったりと、美しさを感じる一方で残酷さも感じさせる作品ばかりだ。それはリアリズムに徹底しているからなんだ」
――鈴木清順やファスビンダーの名前が出ましたが、本作を手掛ける上でインスピレーションのもとになった作品は?
ノエ「うーん、数えきれないくらいの作品からヒントを得ていると思うよ。“閉ざされた空間”というシチュエーションひとつとっても『ポゼッション』や『ゾンビ』、『サスペリア』があるからね。そういったたくさんの作品が僕自身を作っているわけだけど、あえて2本挙げるなら『ポセイドン・アドベンチャー』と『タワーリング・インフェルノ』かな」
塚本「『ポセイドン・アドベンチャー』!あれはおもしろかったなあ」
――2作品とも70年代のパニック映画ブームを牽引した大ヒット作品ですね。
ノエ「この2本は子どものころから何度も繰り返し観ている映画なんだ。映画を作る時にはそれまで観た映画の“ファントム”たちが頭の中でたくさん渦巻いているんだ。すべて消し去ってクリーンな頭を作ることはできないね」