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『ヒックとドラゴン』ディーン・デュボア監督と高坂希太郎監督のスペシャル対談!(前編)「『紅の豚』に影響を受けている」

インタビュー

『ヒックとドラゴン』ディーン・デュボア監督と高坂希太郎監督のスペシャル対談!(前編)「『紅の豚』に影響を受けている」

高坂希太郎監督とディーン・デュボア監督の夢の対談!
高坂希太郎監督とディーン・デュボア監督の夢の対談!撮影/平川友絵

 

12月20日より公開されるシリーズ最新作『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』のPRのため来日したディーン・デュボア監督と、劇場版『若おかみは小学生!』(18)の高坂希太郎監督による、夢の対談が実現!

 

ドリームワークス・アニメーションで『ヒックとドラゴン』シリーズをつくり上げてきたデュボア監督と、スタジオジブリの数々の作品に参加し、監督として『茄子 アンダルシアの夏』(03)、『〜スーツケースの渡り鳥』(07)などを手掛けてきた高坂監督。

 

新作『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』、劇場版『若おかみは小学生!』がいずれも第47回アニー賞にノミネートを果たすなど、ハイクオリティな作品が国内外で高く評価されている2人が、それぞれのアニメーション制作事情や創作に賭ける情熱を語る。

 

先入観や固定観念を打ち破らなければ、アニメーション=子供のものという考えは変わらない

 

ーーまず高坂監督、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を観て、どう思われましたか?

 

高坂希太郎(以下、高坂)「僕ら日本のアニメ業界の人間からすると、ハリウッドのアニメーションを観るのは辛いんです。あまりにもクオリティが高くて、いつも想像を超えた舞台設定だったり、キャラクターの魅力、芝居の緻密さ、方向性をまざまざと見せつけられて、いつもシュンとなっちゃうから」

 

ディーン・デュボア(以下、デュボア)「えっ!ビックリです。僕たちは全く真逆の反応をしているので。北米のアニメーション業界のほとんどの人は日本のアニメの影響が大きいんです。レベルの高い創造力、理想の追求を恐れない勇敢さ、そして大人なテーマにあえてトライしていく姿勢…。ハリウッドでは描けないような物語も、もちろん日本でもリスキーなのかもしれないけれど、果敢に挑むところがスゴいなと」

 

高坂「日本のマーケットは意外に大きいんですよ。海外に展開してリターンを得なきゃというプレッシャーはない。この国の1億2000万の人たちをターゲットにしているから、比較的自由な作品が多いんだと思います」

 

デュボア「あと文化的にも、日本の方はストーリーテリングの方法として、アニメを高く評価してリスペクトしていますよね。でも北米ではアニメーションと聞くと子供のものというイメージをもたれてしまっていて。そうすると、どんなジャンルで、どんなストーリーだったらつくることができるのかが限られてしまうんです。だから僕らは日本の作品の深さ、キャラクターの豊かさ、それから先ほど申し上げたようにストーリーテリングの勇敢さなど、そういう部分がすごいなと思っています」

 

高坂「でも日本も、昔はアニメは子供のものだという考え方でしたよ。いつまでアニメを観ているんだ、漫画を読んでいるんだと怒られる文化でした」

 

デュボア「じゃ僕らにも希望があるってことですね(笑)」

 

高坂「先入観や固定観念を誰かが打ち破って、ア二メでポピュラリティを獲得できる作品を生まないとなかなかアニメーション=子供のものだという概念を崩すのは難しいと思います」

 

デュボア「まあ、そういった意味では、ピクサーの作品やいくつかのディズニー作品、いくつかのドリームワークスの作品たちは、北米のアニメーションはこういうものだという観念を少し崩したと思います。だからもう少し時間が経てば変わるんじゃないかな」

 

【写真を見る】『ヒックとドラゴン』1作目では、トゥースが死ぬという展開もあり得た…?
【写真を見る】『ヒックとドラゴン』1作目では、トゥースが死ぬという展開もあり得た…?Copyright [c] 2019 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.

ボスは、「いっそトゥースが死んだらどうだろう」と提案してきたんです(笑)

 

ーーでもデュボア監督は『ヒックとドラゴン』1作目で、ヒックが片脚を失うという展開を用意しました。これはすごくリアリティがあるというか、アニメーション=子供のものという発想の中では、とてもチャレンジングで冒険だったと思います。

 

デュボア「そうだけど、そんなに極端ではないと思う。僕らのボスが提案したものよりはね。どういうことかというと、もともとエンディングは典型的な、サプライズのない終わり方、つまりハッピー・エンドだったんです。お偉いさんが提案した終わり方はね。だけど早い段階で当時のボス、ジェフリー・カッツェンバーグが『大胆な選択をする映画にしたね、でもそのわりにはエンディングがシンプルだ』と言ってきて。『いっそトゥースが死んだらどうだろう』と提案してきたんです(笑)」

 

ーー信じられないっ!(笑)

 

デュボア「僕らも『なんて極端なことを言う人なんだ!』と驚きました(笑)。ただカッツェンバーグさんの言いたいことも分かったんです。突然ハッピー・エンドになるのではなく、ちゃんとこういうストーリーがあったからこそ、ここに着地したという因果関係がないと…と。だって僕らのいる世界は本物の危険がある世界、何かがあれば当然それに対して結果がある世界だから。ならヒックのヒロイズムには対価があったという形はどうだろうと。でもその結果、ヒックはトゥースとの絆を深めることができた。ヒックによって傷つけられた尻尾のせいで、トゥースも自力では飛べなくなったハンディがあるのでね」

 

高坂「肉体の一部が奪われるというのは、観客にとってはショッキングですよね。物語的にもハードルをひとつあげるから。そういう意味ではストーリーテリングとしてはうまいシチュエーションだと思います。もちろん主人公にとってはとても辛い体験ですが」

 

デュボア「ありがとう。ちなみに映画公開後に、戦争や病気で身体の一部を失ってしまった方が、ドリームワークスのスタジオに遊びに来てくれたんです。こちらが意図していたわけではないけれど、自分たちをちゃんと表現してくれているというふうに思ってくださったことはうれしかったですね」

 

ーー高坂監督の監督作である劇場版『若おかみは小学生!』も事故で両親を失う設定はハードでしたね。

 

高坂「やはり物語を作るうえで喜びと哀しみの振り幅が大きいほうが、お客さんはダイナミズムを感じるはずなので。主人公のおっこ(関織子)には可哀想でしたけれど、どういうハードルを与えるのがふさわしいのか考えた時に、事故の加害者が目の前に現れて、本当は考えたくなかった両親の死を受け入れる…というちょっと辛いシーンを入れたんです」

 

デュボア「振り幅を大きくすることは本当に大切ですね。キャラクターの背中をより押すことで、強い葛藤であったり、感情的に難しい場所に立たせたりすれば、結果として観客の心に響くものになるんじゃないかと僕も思います。日本にはそういう境界を超えていく素晴らしい伝統が僕はあると思います。宮崎駿監督の作品や『火垂るの墓』『東京ゴッドファーザーズ』『思い出のマーニー』、もちろん高坂監督の作品も含め、それらがいい例だと思うんです。何か難しいものと向き合わねばならないキャラクターたち。ユーモアのあるマジカルな形で問題と向き合っているキャラクターたち。でもユーモアがあるからといって軽いわけではなく、観客にドシッと響く。そういった描かれ方をしていると思います」

 

高坂「そう響かせるところが難しいし、楽しい部分ですよね。ライト・フューリーが今ひとつヒックに心を開いてなくて、でもそんな時に、ヒックが犠牲を払うことで結びつきが生まれるじゃないですか。心の動きがすごく見事だったと思います」

 

デュボア「ありがとうございます。ライト・フューリーが象徴しているのは、野生からの呼び声なんです。トゥースを誘う声だからヒックにとっては脅威なわけで。トゥースは自分の原始的な本能と戦わなくてはならないけれど、それはすごく難しいことです。自分のパートナーを見つけて、自分の人生を歩いていくのは本能ですからね。だから自分を犠牲にすることで彼らが結ばれたらという部分は、ヒックの感情の推移を見せている行動だと思います。またそれは親と子供の関係の中で親の道のりを反映している物語でもあるんです。守りたい大事にしたいと思っているけれど、親の最も愛情にあふれた行為は、彼らを解き放つことですから」

 

高坂「確かにその通りになっていたし、そういう意味では大人のドラマですよね」

 

『ヒックとドラゴン』シリーズが描いてきたのは、異種族の共生というテーマ。
『ヒックとドラゴン』シリーズが描いてきたのは、異種族の共生というテーマ。Copyright [c] 2019 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.

『ヒックとドラゴン』の飛行シーンは『紅の豚』に影響を受けている

 

ーー先ほど、宮崎駿さんのお名前が出ましたが、高坂監督は『未来少年コナン』を見て、宮崎監督と仕事をしたいと思われたんですよね。デュボア監督の宮崎作品との出会いは?

 

デュボア「僕は『となりのトトロ』ですね。ファンタジーとユーモアが同居しつつ、そこに“死”という難しい題材をひとつに組み合わせていたところが印象に残りました。あと好きだったのは、じっくり時間をかけて、姉妹の関係性をリアルに描き出しているのも素晴らしい。並外れた観察力があってこその表現ですから」

 

高坂「僕は宮崎さんのアニメに出会うまで、あんなにダイナミズムにあふれた作品を観たことがなかったんです。もともと絵が好きで完全に描き手の目線で観ていたんだと思いますが、描かれた画がこんなにも人をワクワクする、五感に訴えてくるアニメーションはそれまで本当に観たことがなかったので。自然と一緒にお仕事をしたいと思うようになりました」

 

デュボア「僕と一緒ですね。僕は最初は漫画家になりたかったんですよ。でもアニメーションの教室を先に発見したのがキッカケで、アニメーションの道に進むことになったんですよ」

 

ーー高坂監督はデュボア監督の作品で宮崎アニメの影響を感じるところってあります?

 

高坂「雲を使った飛翔の表現は似たものを感じました。特に『ヒックとドラゴン2』での母親の登場シーンとか」

 

デュボア「そうですね。飛行シーンは、『紅の豚』にすごく影響を受けていると思います。そして、自然に対するリスペクトとその自然を痛めつけてしまう人間と…いったテーマ的な部分。自然界はデリケートでマジカルな場所で、人間がそもそも持つ破壊的な衝動から自然を守るためには英雄的な人間が必要なんだ…そんなところも影響を受けていると思います」

 

ーー1作目でトゥースが立ち上がる場面の形状や、ニッと笑う姿は、トトロっぽさを感じましたが。

 

デュボア「意識はしていなかったけれど、影響は間違いなく受けています。『リロ&スティッチ』もトトロの影響は大きくて、カエルが出てくるシーンなんかはもろにオマージュなんです。だから『リロ&スティッチ』が『千と千尋の神隠し』と並んでアカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされた時、それはもう光栄でした。『どうぞどうぞオスカーを持っていってください!』と思っていました。それくらい宮崎作品にはインスピレーションをもらっていましたから」

 

(後編に続く)

取材・文/横森文

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