成田凌と周防正行監督が語る、『カツベン!』での初体験|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
成田凌と周防正行監督が語る、『カツベン!』での初体験

インタビュー

成田凌と周防正行監督が語る、『カツベン!』での初体験

『カツベン!』の成田凌と周防正行監督
『カツベン!』の成田凌と周防正行監督

メガヒット作『翔んで埼玉』(19)やロングランヒットをした『愛がなんだ』(19)、声優を務めた『天気の子』(19)など、2019年は飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を見せた成田凌が、『Shall we ダンス?』(96)や『舞妓はレディ』(14)の周防正行監督最新作『カツベン!』(12月13日公開)で、待望の映画初主演を飾る。脚本と監督補を務めたのは、『それでもボクはやってない』以降周防組で助監督をしていた片島章三で、周防監督にとっても、自身で脚本を担当せず、ほかの脚本家とタッグを組むのは初となった。共にいろいろなチャレンジをしたという本作について、成田と周防監督に話をうかがった。

『カツベン!』は、およそ100年前、映画が活動写真と呼ばれ、まだ無声でモノクロだった時代に活躍した“活動弁士”について描く人情喜劇だ。活動弁士とは、楽士の奏でる音楽と共に、独自の“しゃべり”で物語を作り上げ、観客を映画の世界に誘う水先案内人のような職業のこと。成田は、活動弁士になることを夢見る主人公の青年、染谷俊太郎役に扮した。

「皆がすごくやりたかった役なんだと思います」(成田)

禁煙して役に挑んだ成田凌
禁煙して役に挑んだ成田凌

周防監督は成田のキャスティング理由について「最初の印象がすべてですが、成田さんがこの役を演じてくれたら、僕が愛せるキャラクターになりそうだと思いました。つまり、直感ですね」と言うと、成田は「僕、オーディションの時、別の作品に入っていて、役のために金髪で髭を生やしていたのに。それにすごく緊張していたんです」と驚く。

周防監督は「それが良かったのかもしれない。初々しくて。技術で選ぼうとは思ってなかったので、よほど滑舌が悪くない限りOKで、あとはその人がどれくらい頑張って活弁の訓練をしてくれるかだと思っていました」と達観したように言う。

成田によると「当時同じ作品で共演していた俳優が3人、本作のオーディションを受けていて、ほかにも、いろんな人から『僕も受けていた』と言われました」とのこと。「しかも一緒に飲んでいて、酔いが回って本音を言い合うようになった段階で、初めてそのことを打ち明けられるんです。皆がすごくやりたかった役なんだと思います」。

初恋の女性、梅子(黒島結菜)と再会する俊太郎
初恋の女性、梅子(黒島結菜)と再会する俊太郎[c]2019 「カツベン!」製作委員会

ヒロイン、栗原梅子を演じた黒島結菜のキャスティングについても、周防監督はきちんと人間性を見て、抜擢したようだ。

「黒島さんは、この世界に入って活躍できていることがうれしい、というストレートな喜びが全く感じられなかった。『私は本当にここにいていいのかしら?』という、躊躇や不安が伝わってきて、そこが決め手になりました。実際、ご本人がそう思っているかはわからないですが、僕にはそう見えました。かわいくて、綺麗なのに、満面の笑みを称えたような明るさはなくて…。そこが梅子役に合っていると思いました」。

本作では、あくまでも役柄にマッチングしているかが重要だったようだ。成田は、それを受け「さすがです。黒島さんはバチッとハマっていました。また、井上真央さんや竹野内豊さんの演技を見ても思ったのですが、周防さんのキャスティングは、ハマリ役なのに新鮮さも感じます」と感心しきりだった。

「成田さんには、本物のしゃべりのプロになってほしかったです」(周防監督)

メガホンをとった周防正行監督
メガホンをとった周防正行監督

成田は俊太郎役を演じるにあたり、延べ7か月間、いまも現役で活躍している活動弁士のトレーニングを受けて役作りをし、劇中では見事な活弁を披露している。

成田は活動弁士を演じるプレッシャーについて「あれだけ錚々たる役者陣が集まり、周防監督が撮るとなったら、おもしろくなるに決まっている!という気持ちで現場に入りましたが、初日は気負ってしまって、すごく緊張しました。ガチガチでなにもできず、ただただ汗だけが吹きでてくる感じでした」と苦笑すると、周防監督が思いだしたように「はい。そうでした。すごく緊張していたね。アハハ」と笑う。

成田は撮影前の準備をこう振り返る。「ゼロからのスタートだったので、最初の1、2か月は、監督やプロデューサー陣の不安そうな顔が本当に怖かったです。活弁を教えてくださる師匠からは『とりあえずやってみて』と言われるだけでしたから」。

周防監督も活弁そのものの難しさについて「しゃべるリズムや言葉遣いには時代性が出るんです。そもそも僕の映画は、役者が訓練しなければいけないテーマのものが多くて。でも、絶対に成田さんならやってくれると思っていました。そして成田さんは僕の期待以上の結果を出してくれたんです」と成田の奮闘を称える。

実際、成田は活弁のトレーニングにあたり、半年間の禁煙も敢行した。「タバコを止めていた期間が一番辛かったです。でも、少しでも声が変わる可能性が見えたので、止めました。変わらないなら吸ってしまおうと思っていたけど、やはり止めると、ほんの少し高い声が出るようになった気がしたというか、自分が出したことのない音域に行けたような瞬間があったので止めました。もちろん、ボイストレーニングの先生のおかげもありますが、タバコを止めていたという事実もいまではいい思い出になっています」。

活動弁士になることを夢見る染谷俊太郎(成田凌)
活動弁士になることを夢見る染谷俊太郎(成田凌)[c]2019 「カツベン!」製作委員会

周防監督は、成田の活弁について「成田さんには、本物のしゃべりのプロになってほしいと思っていました。それができさえすれば、あとは彼が本来持っているキャラクターで乗り切れると思ったので。ただ、活弁が嘘になったら、この映画は成立しない。今回、キャンペーンで地方を周りましたが、成田さんのしゃべりについて、映画を見てくれた方たちが『プロですよ!』と言ってくださいました。やはり、しゃべりを磨きに磨いてくれたことが一番大きかったです」。

成田にとっても周防監督にとっても“初物”で、気合十分に臨んだ『カツベン!』。成田のプロ顔負けの活動弁士ぶりはもちろん、周防監督による豪華スターたちが共演した撮り下ろしの劇中劇も実に楽しい。まさに映画愛にあふれた1本となったので、ぜひ劇場で鑑賞してほしい。

取材・文/山崎 伸子



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