『シュヴァルの理想宮』監督が語る、“夢に生きた男”への敬意「このストーリーに仕えることができて光栄」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『シュヴァルの理想宮』監督が語る、“夢に生きた男”への敬意「このストーリーに仕えることができて光栄」

インタビュー

『シュヴァルの理想宮』監督が語る、“夢に生きた男”への敬意「このストーリーに仕えることができて光栄」

フランス南東部に位置するドローム県オートリーヴ村に現存する、国の重要建造物にも指定された観光スポット“シュヴァルの理想宮”を、33年の歳月をかけてたった1人で築きあげた郵便配達員の男の生涯を描いた『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』が公開中だ。「家族の映画でもありロマンチックな要素もあるサクセスストーリーなので、フランスではヒットしたんだ」と本作へのたしかな自信をのぞかせるニルス・タヴェルニエ監督に、撮影の舞台裏や演出上のこだわりを聞いた。

ドキュメンタリー作家としても知られるニルス・タヴェルニエ監督
ドキュメンタリー作家としても知られるニルス・タヴェルニエ監督

本作の舞台は19世紀末。オートリーヴで郵便配達員として村から村へと手紙を配り歩いていたシュヴァルは、ある日訪れた新しい配達先で未亡人のフィロメーヌと運命的な出会いを果たす。やがて結婚した2人の間に娘が誕生するのだが、寡黙で人付き合いの苦手なシュヴァルは娘にどう接すればいいのか戸惑っていた。そんななか、配達の途中で奇妙な形の石につまずいたことをきっかけに、石を積み上げた壮大な宮殿づくりを思いつく。村人から変人扱いされながらも娘のアリスのために黙々と石を積み続ける彼に、過酷な運命が容赦なく襲いかかることに…。

「南仏の人はよく知っている場所だが、北部のフランス人にはあまり知られていない場所だと思う」と“理想宮”についての印象を語るタヴェルニエ監督自身も、本作を手掛けるまでその存在を知らなかったのだという。そして実際に足を運び、その建築物としての魅力とバックストーリーに心奪われたタヴェルニエ監督。なかでも彼の心を掴んだのは、書物や日記として残されていた、ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルという人物の生きざまだ。「彼は夢を実現するために徹底的に生きた男。映画的なヒーローだと僕は考えています」と、シュヴァルへの強い敬意を語った。

不器用ながらも夢のために生きたシュヴァルについて、監督は「映画的なヒーロー」と敬意を表す
不器用ながらも夢のために生きたシュヴァルについて、監督は「映画的なヒーロー」と敬意を表す[c]2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

タヴェルニエ監督といえば、第45回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した『ひとりぼっちの狩人たち』(85)などで知られる巨匠ベルトラン・タヴェルニエ監督の息子であり、70年代に父の作品で俳優としてキャリアをスタートさせる。その後、父と同じように映画監督の道へと進み、『エトワール』(00)など数多くのドキュメンタリー作品を監督。そして『オーロラ』(06)で初めて劇映画に挑戦し、続く『グレート・デイズ! 夢に挑んだ父と子』(14)は日本でもスマッシュヒットを記録した。

本作も含めこれまでタヴェルニエ監督が手掛けた劇映画3作品は、いずれも“家族”というテーマを持った作品だ。とくに“父と子の絆”を主題に据えた本作と『グレート・デイズ!』に共通点が多いことは、タヴェルニエ監督自身も意識していたという。「本作ではシュヴァルが、そして『グレート・デイズ!』では息子が、なんらかのハンディキャップを背負うけれど最後にはサクセスする。僕は社会からちょっと阻害されていた人物が、最終的に社会に同化することができるという物語に感動するんだ。だから僕にとっては2人とも映画的なヒーローなんです」。

【写真を見る】デジタル処理はフォトショップで!?本物の“理想宮”で行なった撮影の裏側とは…
【写真を見る】デジタル処理はフォトショップで!?本物の“理想宮”で行なった撮影の裏側とは…[c]2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

また、撮影技法にもタヴェルニエ監督らしさが随所に現れている。そのひとつは、実際の理想宮で撮影に及ぶという“本物志向”だ。「映画監督として、自然のものを撮りたいという想いが常にあるんだ。自然にはアニミズムがあるから作り直してしまったらまるで違うものになってしまう」と語り、国の重要建造物に指定された場所で撮影ができるかを懸念していたことを明かす。「理想宮の関係者の人たちは、脚本を読んで企画に賛成してくれました。まるで私たちをこの宮殿に暮らす王様のように出迎えてくれて、一緒に手と手を取り合って撮影することができたのです」と笑顔で振り返る。

しかし課題は技術的な部分に残されていたようで、「初期の理想宮の様子を再現するには特殊撮影が必要で、かなりの難問でした」と、大掛かりなデジタル処理を施すには予算上の問題があったことを告白。「なので人物とその周りの一部だけをそのまま使い、その輪郭を徐々に大きくしていくという方法をとることにしました。そうすることで、フォトショップで特殊な処理を施すことができる」。ほかにも絵コンテを大量に描いて光の方向を精密に考えたりなど、様々な試行錯誤を重ねながら理想宮が出来上がっていく過程を表現したことを教えてくれた。

『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』ニルス・タヴェルニエ監督にインタビュー!
『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』ニルス・タヴェルニエ監督にインタビュー!

「僕自身は監督として、映画で語られるストーリーのために映画を作っている」と力強く語るタヴェルニエ監督は「僕は25年間で35本のドキュメンタリーを作ってきたけれど、そこで培った演出方法を入れすぎてしまうとドキュメンタリー風になって謙虚さがなくなってしまう。もちろん、ドキュメンタリーをやってきたからこそ、劇映画でもスピーディに撮影を進めることができるんだけどね」と、あくまでも劇映画を作るうえで“ストーリーに仕える”というスタンスを重視していることを明かす。「だから僕は今回とてもラッキーだった。持ち込まれた企画を受け入れやすい予算のなかで映画にして送り返すことができたし、なによりもこのストーリーに仕えることができた。本当に光栄なことです」。

取材・文/久保田 和馬

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