『鬼神伝』の原作者・高田崇史「テーマはぶれていません。満足しています」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『鬼神伝』の原作者・高田崇史「テーマはぶれていません。満足しています」

インタビュー

『鬼神伝』の原作者・高田崇史「テーマはぶれていません。満足しています」

鬼と人間との熾烈な戦いを描いた歴史ファンタジー『鬼神伝』の公開がいよいよ4月29日(祝)に迫った。本作はアニメーションとして初めて平安時代の京都を舞台に、1200年前の都にタイムスリップした“救いの御子”と呼ばれる中学生・天童純(声:小野賢章)の奮闘を、荘厳な世界観と共に紡ぎ出している。今回、本作の原作者で、QEDシリーズやカンナシリーズなどの人気シリーズを手がけ、教科書には載っていない歴史の裏側を鋭くえぐった歴史ミステリー小説に定評のある高田崇史氏に話を聞いた。

――映画を実際にご覧になっての率直な感想を聞かせてください

「私が書きたかったテーマはぶれていないので、そこはとても嬉しかったです。実は映画化の話があってから映画になるまで結構時間があったので、その間に川崎監督と色々お話しできたのが良かったです。川崎監督が映画化にふさわしい原作を探していたそうで、そこで目にとまったのが『鬼神伝』だったと聞いています。細かいストーリーについては小説と映画が違うのは当然ですし、満足しています」

――原作者として映画化に際して何か要望などは出されたのでしょうか?

「完全にお任せでした。私としては可愛い娘を嫁に出す覚悟でしたね。studioぴえろ(アニメーション制作)さんに『どうなっても知りませんよ』と脅されましたが(笑)。ただ『ひと言だけしゃべらせてほしい』とリクエストしました。ヒッチコック監督の自作へのカメオ出演ではありませんが、気分はそれですね。どこに出ているかは探してみてください。エンドロールをよく見ていただけるとわかりますよ」

――原作小説ではQEDシリーズなどから脈々と流れるテーマ、“鬼とは何か?”“今ある歴史は勝者からの言い分であり決して真実とは言えない”ということが記されています。教科書でも触れられない、そしてこれまでのアニメ作品でも同じです。本作はそれを一歩踏み越えた作品になっていると思います

「原作では平安時代、鬼や怨霊を倒し、祓う、といった行為が果たして正しいのか?それで良いのか?ということを書いています。桃太郎の話や節分など、おかしな伝承がたくさんあります。川崎監督はその辺の意味をしっかりくみ取って、作品に投影してくれました。劇中では水葉(声:石原さとみ)がきちんと“鬼”の説明をしてくれていたのが良かったです」

――原作小説はもともとミステリーランドとして(「鬼神伝 鬼の巻」「鬼神伝神の巻」)出版されていましたが、昨年に改稿して一冊のノベルスになりました。小学生の少年少女から大人まで幅広い層に読まれていると思うのですが、本作を執筆するきっかけは何だったのでしょうか?

「小学生の時に読んだ手塚治虫さんの『火の鳥』がとても面白くて、それから5年ほどして実は『火の鳥』が史実に基づいて書かれていると知り、衝撃を受けました。その時ですね。私もそういうものが書けると良いなあと思ったのは。今の小学生の子供たちがそれこそ10年ぐらいして、古事記とかを読んで興味を持って、そして私の小説を読んでくれたら嬉しいですね。壮大な長期計画ですよ(笑)」

――本作のターゲット層はファミリーです。映画を見たそれぞれの世代にどういうことを学び、考えてもらいたいですか?

「小学生には、単純に楽しんでほしいですね。アニメ、音楽、映像技術など、何でも良いので楽しさを感じてもらえればと思います。中学生や高校生には“人”“鬼”“神”について、ふと考えるきっかけになれば良いですね。大人には、果たしてこれは昔だけの話なのか?現代に通ずるものがあるのではないかなど、過去から現代にトレースして考えてもらいたいですね。また、登場人物の中でも源雲(声:中村獅童)は一つの象徴として描いています。彼が何を表しているのか考えると、より面白いと思います」

――小説として「鬼神伝」は現在3冊目の「龍の巻」が刊行されていますが、その他の著作も含めて今後の展開などを教えてください

「『鬼神伝 龍の巻』では天童純は高校生でした。大人になるまでまだあるので続きを書ければ書いてみたいですね。平安、鎌倉と来たので次は別の時代かもしれませんが。『QED』シリーズは次の一冊で完結で、10月に発表できれば良いなあと思っています(ここで講談社の編集者から『えっ、10月って明言して大丈夫ですか!?』と衝撃の突っ込みが入るも、高田氏は平然と『そうですよ』と答える。筆者も衝撃でした)。『カンナ』は既に告知している通り全9巻で完結です。『毒草師』は来年に3冊目を書けたら良いなあと構想中です。終わらせていかないといけない作品がいくつかあるんですよ」

原作者である高田崇史氏のお墨付きが出ている『鬼神伝』は主人公の天童純を通して、何が正しいのか? 守るべきは何なのか? を考えさせられる作品だ。人が“正”で、鬼が“邪”だと、単純に決めつけることは決してできない。歴史は一方向から見るべきものではないことを教えてくれる。もちろん世代によってとらえ方は様々で、いみじくも高田崇史氏が答えてくれたように、小学生は単純にアニメを楽しんでくれたら良いし、もう少し上の世代は歴史の裏側に興味を持つきっかけになってくれたら良い。『鬼神伝』はそれだけ奥の深いアニメーションなのだ。

最後に高田氏は代表的な自著3シリーズについて、面白い喩えをしてくれた。「QED」はギムレット、「カンナ」はジントニック、「鬼神伝」はジンフィズだそうだ。実はこの3種のカクテル、口当たりこそ違うものの、アルコール度数はほとんど変わらない。シリーズそれぞれ主人公も違えば、テイストも違う。だが、実は根底に流れる深淵なるテーマは同じなのだ。まずは劇場で『鬼神伝』を鑑賞し、その後は是非とも高田氏の原作を手に取り、そして他シリーズも読んでもらいたい。そうすればよりいっそう歴史の面白さに触れることができるだろう。【Movie Walker】

■高田崇史(たかだたかふみ)プロフィール
1958年、東京都生まれ。明治薬科大学卒。「QED 百人一首の呪」(講談社ノベルス)で第9回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。“裏の日本史”を紐解く作品を多数執筆している。代表的な著書に「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ、「毒草師」などがある。
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