『富江』井口昇監督「今どう生きるべきか悩んでいる女性に見てもらいたい」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『富江』井口昇監督「今どう生きるべきか悩んでいる女性に見てもらいたい」

インタビュー

『富江』井口昇監督「今どう生きるべきか悩んでいる女性に見てもらいたい」

美しくもグロい、そしてギャグ満載。5月14日(土)公開の『富江 アンリミテッド』は、よくあるホラー映画とはひと味もふた味も違う。その理由は、メガホンを取った監督が鬼才・井口昇だからだ。『ロボゲイシャ』(09)などで海外でも高い評価を受ける井口監督に、今回インタビューを実施。作品に込めた思い、『富江』へのこだわり、そして東日本大震災で抱いた映画監督としての気持ちの変化を語ってくれた。

高校の写真部に所属する月子(荒井萌)は友人の佳恵(多田愛佳)と一緒に帰宅する途中、姉の富江(仲村みう)が、月子の憧れの先輩(大和田健介)を誘惑する場面を間近で目撃。姉に激しい嫉妬を感じながら、月子はカメラのシャッターを押し続ける。だが突然、建設中のビルから鉄骨が落下。鉄骨は富江の身体を貫き、月子の目前で死亡する。一年後、富江の誕生日にケーキを囲む両親と月子の前に、死んだはずの富江が現れる。

鉄骨に串刺しにされた富江の衝撃的なビジュアル、そして甦り、不気味に迫ってくる富江。ホラー映画としての恐怖と生臭く、気味悪い描写には、AV作品を数多く生み出してきた井口監督ならではの生っぽさがあり、そしてなぜか笑いが混在している。首のない女性が走りながら壁にぶつかり、ゴミ箱に捨てられ「体がほしい」と嘆く生首。どうしても笑わずにはいられないホラー映画。それが井口監督の『富江』なのだ。これまで何度も映像化されてきた『富江』シリーズだが、原作コミックの著者・伊藤潤二のファンだったという井口監督は、原作の持つ世界観を大切に描いた。「ギャグはあれでも押さえてるんですよ! ギャグスレスレのところを描いたつもりですが、周りから『それホラーかよ!?』って突っ込まれながら撮ってました(笑)。原作自体もブラックユーモア満載なんですよ。今回は正統派ホラーでもあり、原作のビジュアルを大事にしようと思いました。とにかく生理的に嫌なものが次々に出てきます。弁当箱のシーンでは、ご飯の中に肉片が入ってるけど、その横にちゃんとおかずも入っている。玉子焼きと唐揚げは入れてくれ!とこだわりましたね(笑)」。

今回、仲村みうが演じた富江は、これまでで一番原作に近いと評判だ。彼女の演技について聞いてみた。「仲村さんで正解だったなと思いますね。それはやっぱりあの目つき。富江はこれまで何人もの女優さんが演じてきましたが、今回は綺麗なだけでなく、不気味な富江という新しいアプローチをしたかった。仲村さんは、宇宙人とかコックリさんとか霊的なものに興味があるようで、撮影当時は幽体離脱の特訓をしていると言ってました(笑)。そんな仲村さんのミステリアスな感じと茶目っ気みたいなものが、富江とうまく合ったと思います」。

迫りくる富江はやがて増殖。富江の目的はわからない。わからないからこそ、恐怖が止まらない。監督自身、「富江の存在に答えはない」と話す。「この映画は、お化け屋敷映画として見てもらっても良いし、一人の女の子のダークファンタジーとしても、富江に翻弄される柔道部の青春物語として見てもらっても構いません。僕は『富江ってこういう物語なんですよ』とは説明したくなかった。何のために? 何がしたいのか? 『リング』の貞子も、貞子の存在が解明されればされるほど怖くなくなっていたりする。わからない方がいろんな解釈ができるし、富江のミステリアスな感じが出ると思ったんです。富江は孤独な女の子で自分に存在不安を感じている。映画は、今どう生きるべきか悩んでいる女性に見てもらいたいですね」

私生活では、3月に入籍した井口監督。その直後、東日本大震災が日本を襲い、震災の影響からエンターテインメント業界は、不謹慎を避けるべく自粛傾向に向かった。「3月は人生の第2部がスタートしたような気持ちだった」と話す井口監督。映画監督としてめぐらせた様々な思いとは?「悲しくて残酷なこともいっぱいあったけど、人間が人間らしく生きるには娯楽が必要であり、人を元気付けたり、勇気付けるのは、人が作ったエンターテインメントなんじゃないかなと思ったんです。そして、今までだったら萎縮していた表現もこれからは思い切って表現しようと思いました。次はゾンビものを撮る予定ですが、下ネタも満載だし、メチャクチャな内容。現実ではフィクションを越えた、恐ろしいことが起こりました。こういう時だからこそ、嘘でしか作れないものを表現したいと思います」

刺激的な恐怖映像と共に、見る者が様々な解釈で楽しめる『富江 アンリミテッド』。井口昇ワールドが放つフィクションという名の超ド級エンターテインメントを、劇場で大いに楽しんでもらいたい。【取材・文/鈴木菜保美】

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